第十六話 5界と知床
数日後。
すっかり忘れていたが、七月の夏休み前は球技大会がある。
「さすがに忘れていたよ」
休み時間、オレはヒソヒソ声で麗に話し掛けた。
「仕方ないわよ。みんなと違って私達は高校卒業して半年以上たってんだから。でもそれがどうかした?」
「プリンセスたちだよ」
「だから?」
「お前、本当に能天気だな」
オレのこの一言が麗の癇に障ったらしい。
「だから、ハッキリ言いなさいよ! 回りくどくてわからないわ!」
麗がひときわ大きい声を発したため、周りがオレ達を怪訝そうに見た。
「お、おい」
さすがにオレも少し慌てた。
「なによ!?」
麗は注目を浴びても態度を変えない。リアルの十九歳の麗はたまにこういうイライラした態度をとることがあるが、高校時代はなかった。これはちょっとクラスメイトも驚いているかもしれない。
「……いや、いい」
あの状態になった麗には頭を冷やしてもらう時間が必要だ。
まあ、確かにあまり取り越し苦労をしても仕方ない。もし、プリンセスたちが何かやらかしても、言われた通りハガイに押し付けりゃあいいか。
その日の六時限目に球技大会の種目割があった。
「よーし、貴様ら、どれに出るんだ!? 決めろ」
ものすごく雑なさやか先生の指示に対して、オレ達生徒は常に結果を出さないといけない。なんと厳しい世界だ。
「先生、あの……私も前に出てお手伝いしても宜しいですか?」
スッと立ち上がったのは我がクラスの学級委員長、知床ゆか。小柄だが黒髪ロングがまばゆい純朴カワイイ系女子。だが、堅物すぎていささか融通がきかないところがある。ただ、根は優しく良いヤツだ。
「ああ、じゃあ、後は知床がまとめろ。私は脇で座って待っている」
さやか先生はラッキーと言わんばかりに窓際に移動してドッカと椅子に腰かけた。
「はい」
委員長とはいえ、偉いヤツだ。
そもそもハッキリ言ってこれは教師の手抜きだろ。
「おい、部田!」
思いがけず、さやか先生に指された。
「は、はい!」
オレは反射的に勢いよく返事しながら立ち上がった。
「貴様、私が怠慢ぶっこいたと思っただろ?」
「は!? ……い、いいえ、とんでもありません!」
何て勘が良いんだ!? 完全に心を読まれている。
「ウソをつくな、ウソを。貴様ごときが考えることなんか全てお見通しだ、うつけ! ならば念のため、あくまでも念のために言っておくと、こういう話し合いは通常、ハナから生徒にやらせるもんなんだよ。それをご親切なことに最初はこの私が直々にやってやろうとしたんだぞ? その真意も分からずにそういう浅はかな思考をするから……あ、いや、もう良い。知床、さっさと始めろ」
さやか先生に暴言を吐かれつつイジられるのは良くあることだが、発言の途中で自ら抑えるのは珍しい。時間がもったいないからか?
「ええっと、それでは黒板に書いた競技の中で――」
委員長の知床のおかげで、その後はトントン拍子に人の割り振りは進められていった。
「ちょっと、あの……と、部田君いいかしら?」
放課後にオレの席まで来て声を掛けてきたのは委員長の知床だった。
「おう、なんだ?」
「昨日も今日も……と、部田君がきっかけというか、関係した出来事でクラスが混乱することが多いとは思わない?」
知床は何か意を決したかのような態度でオレに文句を言ってきた。
「……ああ、それは認めるよ。お前にもだいぶ迷惑が掛かってんだろうな、ごめん。これからは気を付けるから」
オレは素直に詫びた。実際にそのとおりだったからだ。きっとクラス委員長としては看過できない事態で、オレに一言注意したかったのだろう。
「べ、別にそれはいいのよ。あ、そうじゃなくて、と、部田君は別に良いのよ」
「は? じゃあ、なんだ?」
「その、転校生の5人とか……」
「え? ああ、まあ、確かにちょっと世間とズレているところはあるかもな。でも別に人間性は悪くないからさ、今日のところは許してやってくれないか?」
「そ、そう……それじゃあ」
「あ、おい! それで納得したのか?」
良くわからないが、知床はオレの問いかけに答えることなく行ってしまった。
「こんなエロブタのどこがいいのかね?」
「ぬお!!」
突如、オレの背後からやや大きめの声でなじったのはエキドナだった。
「なんだよ?」
ハガイのせいで、オレは急に声を掛けられることに嫌悪感を持つようになったかもしれない。
「あの女、お前のことが好きみたいだな、このコマシ大王め!」
エキドナはオレの左ほおを肘で突いた。
「いて! おい、そんなことは絶対にありえないぞ。アイツは成績優秀で堅物だからな、オレみたいな成績もパッとしない、不真面目男なんか眼中にあるわけがない」
「ホント、お前はダメブタだな」
「な、なんだと!?」
「じゃあ、聞くがブタは自分と同じようなキャラクターの女が好きか?」
「え? ……う~ん、どうかな? あまり考えたことがないな」
「じゃあ、教えてやる。お前の場合、答えはNOだ!」
見たことが無いドヤ顔でエキドナは言い切った。
「な、何でそう断言できる!?」
「……内緒だ。つうか自分で考えてわからないお前に問題がある」
「……」
会話を一方的に終わらせて去っていくエキドナにオレはなぜか返す言葉が浮かばなかった。
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