第二話 5界のはじまり
「新聞なら、とらないよ!」
ウチのインターホンを鳴らした見ず知らずと思しき相手に、オレは随分と適当且つ横柄な返答をしてしまった。そもそも新聞屋かどうかもわからないというのにだ。
言い訳にもならないが、そういう無礼な態度をとってしまった理由は、たぶんこの半年の間、自分の人生の方向性がいつまで経っても見出せないでいる苛立ちというか悔しさというかそういう負の感情が原因としてあるだろう。いや、絶対そうだ。
早い話『やつあたり』である。
そもそもの始まりは大学受験の『失敗』。清々しいほどに全部落ちた。
今オレが住んでいるこのアパートも、春先に都心の予備校に通いやすいことを第一条件として探した結果なのだが現在はただの『ニート・ルーム』に成り果てている。
つうかただのニートじゃ寂しいからスニートってどうかな。思索にふける日々を送るオレらしくない? スタイリッシュなニートとかスマートニートみたいな意味でさ。これだと全く卑屈な感じしないし、良いんじゃない? 流行らないかな『スニート』。
などどふざけている場合ではない! このままうだつの上がらない人生で幕を引いて良いわけがなかろう!
とにかくいつまでもこんなヘタレ状態が許されるはずも無く、そもそも残金の余裕もなくなってきた。もはや瀬戸際なのだ! 土俵際なのだ! そんなことはわかっている。
ピンポーン!
ぬう?
今後の人生、どう再起させるかの思索をさらに深める予定だったが(実質昼寝)、催促の電子音によってそれは打ち消された。我に返ったついでに窓の外へ目をやる。空が青い。これは何だっけ……天高く馬肥ゆる秋、初鰹……ん? カツオはこの時期じゃないな。あれ? 目に青葉、山ホトトギス……いや、それは秋じゃないだろ。
ピンポーン!
しつこいヤツだ。諦めりゃあいいのに。だが、まあ一応出てやろう。これは寛大な措置、格別の配慮、大赦、特赦である。
そういうわけでオレはようやく立ち上がってミシミシと何かの動物の鳴き声みたいな床の軋み音にがっかりしつつも、着実に一歩一歩進み、インターホンの受話器前で深呼吸をしてからこう言ってやった。
「どちらさま!?」
オレは少し怒気を込めた。今さっき寛大とか配慮とか言ったばかりだがそれはそれだし、これはこれなのである。そしてオレの美学。
「新聞ではありません。貴方に重要なお知らせとお仕事の依頼に参りました」
「はあ!? 仕事? こんな訪問形式で?」
どんなヤツかと思ったが、仕事の紹介だと? そんな話は聞いたことがない。今のご時勢、働きたくても働けない人がたくさんいるんだぞ。いやいや、たとえ超好景気でもこんなうさんくさいことをいうヤツなどいるものか。きっと怪しい団体か詐欺グループに違いない。
「うちは結構です。おひきとり下さい」
オレは自分の美学に則り丁重に断った。ふふん、これでも社会性はあるのだ。『いや、社会性あったらニートじゃねえだろ?』というツッコミは無視させてもらう。
ま、今日は残暑もあって上半身裸でいたから、人前に出られないという事情もあったのだが、それは瑣末な理由に過ぎない。
「いいえ、断るとかそういう次元ではありません。これは半ば強制と申しても良いでしょう。詳しい話をいたしますからドアを開けてください」
「なに!? ど、ど、どういうことだ!? お前は何者だ!?」
オレの思索の時間を邪魔したヤツはそこらへんのセールスマンなんかじゃない。
とんでもないヤツが来た。勝手に人の家に来て『強制だから開けろ』なんて言うヤツは、国家権力か「ヤ」のつく反社会勢力くらいしか知らないぞ。人のよさそうな声をしているくせに内容は横暴だ。確かに、オレオレ詐欺なんかも丁寧でスマートな語り口らしいからな。声で騙されてはいけないということだろう。
ま、まあ、いい。ともかく、もう一回毅然とした態度で断ろう。それでまだ脅してくるなら警察に通報すれば大丈夫さ。もっとも相手が警察ならどうにもならないが。
オレは意を決して相手に伝えた。
「きょ、強制的にさせられることはやりたくありませんから、おひきとり下さい」
「そうですか。では仕方ありません」
なんとあっさり納得したぞ。マジか? でもこれで帰ってくれるならそれでいい。何はともあれ良かった。オレの平和は維持される。
しかし、その安堵感は直後に、あっさりと瓦解した。
「よいしょっと」
インターホンで話をしていた(と思われる)男がドアをすり抜けて玄関まで音もなくスッといきなり入ってきたのだ。まるで幽霊のように。
「ふひゅっ!? いた!!」
オレは驚きのあまり息が詰まり、そのせいで奇声を発した刹那、尻もちをついてしまった。
「勝手に入らせていただきました。……あ、どうも、はじめまして」
マジシャンのような離れ技をやってのけたその男は、事務的な言動で挨拶もそこそこに持っていたアタッシュケースを無造作に置いた。おい、勝手にウチの玄関に物を載せるんじゃない。
男はそんなオレの想いなど露知らず、それどころか無駄にカチャッと小気味いい音を立て、開いたそれの中から名刺を一枚取り出してオレに差し出してきた。
「わたくし、天界の事務次官でハガイと申します。以後、お見知りおきを」
そのハガイと名乗る男は、司祭まがいの格好をしており、年の頃は二十代半ばかもう少し上くらいに見えた。中肉中背、髪の毛は司祭帽(に酷似した帽子)でよくわからないが、露出部分からすると恐らく短髪だろう。金縁のメガネをしており、その奥に見える目は細長く眼光は鋭く、とにかく全体の印象はただの営業マンでないことは明らかだ。何か得体の知れないものを感じる。少なくとも今は頭のおかしいコスプレ野郎というレッテルは貼らないでおこう。
渡された名刺を見ると、『天界 事務次官 ハガイ』とだけ書かれており、裏面は何も記載されていないとてもシンプルなものだった。
「ええっと……ですね、貴方にやっていただくお仕事というのは『お目付け役』です」
「は!?」
「それはともかく……」
ハガイと名乗る男はオレの姿を見て何か思うところがあったようで、不満げに口を開いた。
「裸ですか。……まあ、まだ暑いと言えば暑いですからね。しかし、今後はできるだけ身なりにはお気遣いいただくようお願いします」
「あ、はい……え!? いや、あの……」
言うべきことはあまたあるはずだが、とりあえず返事をしてしまうという我ながら随分とヘナチョコ野郎なリアクションをしてしまった。
しかし、このハガイという男の登場の仕方が、あまりにもセンセーショナルだった上に、ヤツもこちらの反応には全く意に介さずだし……だからまあ、しょうがない。
「さて、貴方に監視をお願いする方達ですが……」
ハガイはメガネのズレを右手の中指で軽く直したあと、アタッシュケースからまた何かを取り出した。
手にはバインダーファイルが一冊。彼はそれを手慣れた様子で開くと、数枚めくった後にオレをちらりと見た。
「面倒ですから、先に呼びますか。ちょっとお部屋を拝見させて頂きます」
「えっ!?」
彼はオレが事態をよく飲み込めていないことを承知していたはずだ。しかし、忙しいのか、本当に面倒臭いのか、まったくお構いなしだった。
「ふむ……さすがに狭いか」
彼はこの木造・築四十五年、六畳ひと間とダイニング(というかリビングというか)&キッチンスペースしかない空間の中心付近までドカドカと土足のまま立ち入り、きょろきょろと見回したあとに、ポツリとつぶやいた。。
そして再びオレの方を向いて、見下ろすような視線で言葉を続けた。
「かなりオンボロ……いや、老朽化した構造物ではありますが、まあ紹介だけならここでも良いでしょう」
「ちょ……ちょっと待った!!」
オレはその時、ようやく我に返った。
「ア、アンタ、いきなり来て何を言っているんだ? お目付け役の仕事とかなんとか。それに強制って何なんだよ!」
「仰るとおりです。お目付け役の仕事であり、貴方には拒否ができません。既に十分、把握されているようですが……?」
まるでこっちがトンチンカンなことを言っているかのような態度である。
「と、とにかくここに座れよ。立ち話じゃあ済みそうもない。いや、待て。先に靴を脱げ」
「おや、これは失礼」
これっぽっちも悪びれる様子など見せない上にむしろ少し面倒くさそうに靴を脱ぐハガイ。確かに卸したてのビジネスシューズのようで、脱ぎ履きが大変そうだ。
オレは座布団を敷き、ハガイに座るよう勧めた。そして自分もシャツを羽織ってじっくり対話する態勢をとった。
「ふむ……」
ハガイは座ってもまだ物色するかのように周囲を見回している。それにまたもや、あのメガネを直すしぐさ。そして、人を蔑むような目線……こっちは勝手に上がり込んだヤツにきちんと礼儀をもって対応しているというのに。まったく……どうしてこんな態度がとれるのだ。
正直なところ腹が立ったが、さっきよりはある程度の冷静さを取り戻していたオレは彼にひとつひとつ順を追って質問をすることにした。
「まずだな、お目付け役の内容は置いといて、なぜその仕事をオレがやらにゃあならんのだ?」
「こちらの都合もありますが、貴方は前世で大変なことをしでかしたのです。その責任をとってもらうということです」
ハガイはゆっくりと目線をこちらに向けながら答えた。
「はあ!?」
またまた、このニセ司祭(エセ司祭でも可)は訳のわからないことを言いやがった。『前世』などというワードを使うあたりはやっぱり怪しい団体の手先と考えて間違いないだろう。
「では、その大変なこととは一体何なんだか教えてくれ」
オレも座布団の上にどっかと腰を下ろし、今度はハガイに負けないくらいのキツい目線で尋ねた。
ハガイはそんなオレのけん制にまったく臆する様子もなく、小わきに抱えていた先ほどのバインダーファイルをパラパラとめくり始めた。
「ええっと……ああ、これだ」
彼はお目当てのページを見つけたらしく、そこで手を止め今度は文面を指でなぞり始めた。
「ふむ、ふむ、なるほど。……えーっとね、貴方は時空震を発生させたのです。こりゃあ大罪ですね。にもかかわらず今回の仕事でチャラになるなんて、実に運がいい」
ハガイは胸を張った。しかしオレにはその態度がまったく理解できない。
「……『じくうしん』ってナニ?」
オレは素直にその意味を訊いた。いや、正確にはどっかで聞いたことがあるような気がしたのだが、思い出せない。
「簡単に言えば世界の改変です」
途方もないことをサラリと無表情に言い放つ――ニセ司祭め。
オレにそんな力があるわけない。そう言いたかったが、それを前世ということにしてしまえば確かに反射的な否定行動は取れない。きっとこれはヤツの作戦なのだろう。
「証拠はあるのかい? 証拠がなければオレは信じられない。だって前世の記憶どころかその存在すら知らないんだからな」
オレはこう言い放った瞬間、『勝った』と思った。
きっとこれでヤツの化けの皮がはがれる。どんなマジックを使ったかは知らないが、こんな薄気味の悪い男に半強制的とはいえ我が家に侵入されてしまったところまでは特別に良しとしてやろう。しかし、前世を見せられる人間などこの世にはいない。というわけで、今度こそ帰ってもらおうじゃないか。
だが、ハガイはその鉄仮面のような表情を崩すことはなかった。彼はあっさりと答えた。
「では、アカシックレコードからダウンロードしましょう。閲覧が終わったら、もう彼女達を呼びます。貴方への説明時間が予定より進んでおりませんので」
「え!? は!? 明石レコード? ダウンロード? 彼女?」
いちど主導権を握ったと確信してからの立場の逆転は、冷静さを簡単に失う。
だが休む間もなくもっととんでもないことが起きた。
「うひぃ~!! にゃ、何も見えなくなったぞ~!! 何をした~!! 明石レコードの映画じゃないのか!?」
目を開けているのに突如として目の前が真っ暗になったせいで、オレは完全なパニック状態だ。
「どうかお静かに。まもなく映像が見えるようになります」
「ぇあ!? あ、あ、そうでしゅか?」
恥ずかしいことだが、ハガイの落ち着き払った声でオレはある程度自分を取り戻すことができた。噛んだけど。
そして彼が言うとおりにオレだけのミニシアター上映が始まった。
「ん!? ……あっ!! 誰だ? 何をやっている? あれ!? これは……」
ハガイに見せられたその動画の人物は見知らぬ男。ゲームで見る魔導師みたいな格好をしていたし、まわりの景色もヨーロッパとかあっちの山岳地帯のようだ。
だが、わかるのだ。理屈じゃなく本能というか直感というか……
そいつ……すなわちあの男はオレである。感覚でアレはオレだと認識できるのだ。
その人物は大きな魔法陣を地面に書いて、何やらブツブツと唱えていた。
その直後に一瞬画面が揺らぎ、得体の知れない大きな変動があったようだった……というより、自らそれを発生させたのだろうなという感覚もなんとな~く感じる。
そしてそれを証明するかのように、映像の中のソイツは高らかに笑っていた。
映像はそこで終わった。と同時にオレの視界もパッと明るく開けて、先ほどまで会話していた鉄仮面に眼鏡の男の顔が目に映った。
「あっ!?」
「コホン。終わりましたね? では補足いたしますが、貴方は前世、ある星で魔導師と申しますか……いえ、呪術師と申した方が近いですね。とにかくそういう肩書で生きていました。それもかなり強大な能力をお持ちだったようです。それだけなら何も問題はなかったんですがねえ。しかし残念なことに周囲の環境を一変させて、貴方にとって都合のいい世界、もっぱら人間関係の改変が主たる目的だったようですが、とにかく新しい世界を作ろうとしたのですよ。その結果、貴方のもくろみは成功したのですが、同時に時空で大きな変化が起きてしまいましてね。ある宇宙がポッカリと消えてしまったり、逆に異世界が隣接してしまったり、生物間での干渉も発生してしまって、本来生育できない環境に新種の生物が発生したり、それはもう、大混乱でした」
そこまで一気に話すとハガイはオレをギロリと睨みつけ、
「水をもらえませんかね。しゃべり過ぎてのどが渇きました」
と、お前のせいだと言わんばかりの目つきで要求してきた。
イマイチ納得がいかないものの、オレは言われるがまま台所まで行き、冷蔵庫を開け、食器棚から取り出したコップに麦茶を注いでハガイに渡した。
この時、オレは彼の雰囲気に呑まれていたのかもしれない。それほど『前世映像』鑑賞体験は衝撃的だった。どういう方法を用いたにせよ、あれに登場していた『人物』を自分として認識できたし、記憶も定かになった……気がする。
いや、間違いない、あれはオレだ。
彼は麦茶を一気に飲み干すと、コップを床に静かに置き、再び話を続けた。
「そういうわけで、貴方は大罪人なのです。だから現世では人間界でこんな『しみったれた』人生を送っているのです。ちなみに死ぬまでの間に何かよほど素晴らしい行いでもしない限り、貴方の来世は昆虫です」
「ええっ!? こ、昆虫……」
「そうです。残念ですが」
あとから考えると『しみったれた人生』とレッテルを張られるほどオレの日常はひどくないつもりだし、人間が昆虫に生まれ変わるなんてにわかには信じがたいが、この時はハガイの迫力に押されていたのだろう、言われるがまま驚き、そして落胆した。一方で何の感慨もなく、冷淡且つ軽快な口ぶりで答えるハガイだったが、さらにこの直後――
「ですから!」
「ひっ!」
突然ハガイは顔を近づけて大きな声を出した。そのせいでオレは驚きのあまり後ろにひっくり返りそうになった。絶対悪意で大声を出したに違いない。なんてヤツだ。
そんなこちらの醜態をじっくり観察してから、ヤツはニンマリと笑みを浮かべた。その時の人相の悪さは天界の使者という肩書に相反するものだ。いや、ハッキリ言って悪魔だ。
「こうして、チャンスを与えて差し上げようと申しているのです」
こんなまるで詐欺師のような怪しい微笑みから発せられた誘い文句など、通常なら誰も引っかからないだろう。だが、悲しいことに完全に冷静さを失ったこの時のオレには救いの言葉にしか聞こえなかった。
ああ、なるほど、人ってこうやって騙されるのね。
「やる! やる! なんでもやるぞ! 虫になんかなってたまるか!」
オレはハガイの胸ぐらを掴みながら宣言した。
「た、大変けっこうなことです。そ、それよりその手を……離してください。く、くるちい~」
「あっ! ごめん」
既に異常な精神状態だったのかもしれない。オレは危うく彼を絞め落とすところだった。天界の使者が気絶したり死ぬのかどうか知らないが。
もちろんオレは質問をする。
「そのナントカ界の人達が5人来るのはわかった……わかりましたけど、ここじゃあ、とても狭くて収まらないし、それにどれくらいの期間になるんだ……なるのでしょうか?」
ハガイの話の腰を折らないようにオレはタイミングに気を遣った。もし、気分を害されたりしたら、その場で昆虫にされるのかもしれない。かといって、何も聞かないわけにもいかない。
「住居は手配いたします。また期間は先ほど申しましたとおりです。今回の時空震後の再区画整理が終了するまでです」
「……じくうしん……さいくかく……」
オレは小さな声で復唱して、その意味をなんとか理解しようとした。
「……ん? 続けてよろしいですか?」
「あ? え、ええ、まあ」
ハガイはオレが何に困っているか、わかっていないだろう。ショッキングな出来事を連発されて面食らっている上、ちんぷんかんぷんなワードも連発。もはや話の内容を正確に把握できるほど、オレのオツムは優秀ではない。
「前世の貴方と同じように、つい最近この近辺で時空震を起こした人物がいたのです。その者が『何か』をした結果……」
ハガイは話のクライマックスに達したかのような思わせぶりなタメを作る。
「け、結果……?」
オレは固唾を呑んだ。いや、確かにどこかで聞いたことがある話のような気もしたが、それを尋ねる余裕がそのときのオレにはなかった。
「それで? それでどうなった!?」
オレはたまらず、ハガイに話の続きを催促した。
「それでですね……」
「それで?」
「そのあとに……」
「そのあと?」
「……」
「?」
「どーん!!」
「ひ!! あたっ!!」
またしてもハガイにやられた。
今度は完全に後ろにひっくり返ったあげくに後頭部を床にしたたか打ってしまった。これは痛かった。
彼はふたたびオレの醜態を十分に堪能してから、ニヤリと笑った。繰り返しになるが、実に性格の悪い嫌なヤツだ。
「……というわけでして、貴方の時と同じようにその後は大混乱。特に異世界間での空間破壊が起きましてね、これが深刻。天界から魔界までがひとつの空間に混在するという異常事態が発生したのですよ。まったくとんでもないことです。うんうん」
ハガイは自分の話に満足げに大きくうなずいていた。コイツ、本当に天界の事務方なのか? 何か底が浅そうな気がする。
「もちろん、我々天界としては、これを放ってはおけません。ただちに対策に乗り出し始めましたよ。まず、暫定的にツギハギでも構わないから空間の線引きを執り行うことに致しました。次にですね、各界に向けて『そこから動くなよ!』とビシッと命令致しましたですよ。天界は絶対的な権限がありますからね。ふふふ」
ハガイのまるで自慢話専門の語り部のような回顧話をオレは聞かされていた。それはともかくコイツ、キャラが変わってきていないか?
「ところがです、どこの世界にも不届き者がおりまして、天界の目を盗んでここぞとばかりに自らの領域を拡大せんとする連中がポツポツ出始めたのです。……うんうん、実にけしからん」
「ほう。それで、結局?」
「口約束だけではどうもダメだという結論になりまして、天界の方で各界の王家の血を引く娘達を預かることにしたということです。再区画が完成するまでですが。ここは先ほどお話したとおりです。加えて天界は非常に忙しい状況になってしまって、彼女らを監視している余裕がないのです。そこで、今回の空間破壊の影響が少なかった人間界の住人でなおかつ、類似行為者の過去世をもっている貴方に白羽の矢が立ったというわけです」
「なるほど。……いや、完全には納得していないけどな」
オレはゆっくりと起き上がりながら答えた。
「では、よろしいですね?」
「あ! いや、ちょっと」
「は? 何なんですか、この期に及んで~」
ハガイはズッコケたような仕草をした。こんなことをするヤツだったのか。最初のキャラはどこへいったんだ?
「ちなみにこの『仕事』をオレが断った場合は?」
「即刻……虫です」
「……虫?」
「虫です」
接触しそうなくらいお互いに顔を近づけながら最終確認を行い、オレはついに『逃れられない運命』を悟った。
「よ、よっしゃ!! 誰でも出て来いやー!!」
なかばヤケクソでオレは右手のコブシを高々と突き上げた。
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