更科と山市(更科派の人はこっち)

「ねえねえ山市君、私に勉強教えて!」


 昼休みに部室でこたつに入りながら読書に興じるという至福のムーブをかましていると、ノートと筆箱を持った更科が、るんるんと鼻歌でも歌っていそうなテンションで部室に入ってきた。


「お前の眼鏡姿ってやっぱ新鮮だな」


 金髪碧眼の彼女は、赤い眼鏡をかけている。


 そう言われて、「ほんと!?」と、眼鏡をくいっとあげて得意げになる更科。こいつほんとに年上か?


 1年ぶりぐらいだからこいつの設定忘れたわ……と言う人は安心してほしい。俺もです。自分地の文すら怪しいです。


「どう、頭が良さそうに見えるでしょ?」

「その発想が頭悪そう」

「ひどい!?」

「ありがとう」

「なんで!?」


 しょうがないんだ。

 そう問われれば、あの作品俺ガイルを読んでいる人は誰だって言いたくなる。


 むしろ言うチャンスをくれた彼女に思わず感謝の言葉を、述べるレベルでバベルボブルですよね。確か本作って、こんな感じでしたよね? 嘘です。


 さっき自分と地の文を掛けたの気付いたよな?

 とか言うタイプじゃなかったのは覚えてる。



 ──更科はこたつに入っている俺の隣のスペースを陣取り、ノートと宿題っぽいプリントを広げた。


「この部分教えてほしいんだけど」

「クラスメイトに──」


 クラスメイトに聞けよ、と言わなかった俺を褒めてほしい。


 そんなことを口走ってしまっては最後、更科が泣きだしてのは明白。



 ──こいつぼっちだったな。



 まあ最近はそうでもないらしいが。



「勉強ねえ……」


 俺は読んでいた本を閉じて、


「よし! 更科!」


 と、活気よく呼びかけると


「はい先生!」


 と、更科はなぜか手を挙げて返事をする。可愛いな、おい。


俺の作者記憶が間違いなければ……確かお前はバカだったと思う」

「非常に遺憾だよ!」


 更科は声を荒げる。作者に逆らうな。


「遺憾だと!? お前、遺憾と言ったか!?」

「……ま、まあ? あたしは確かにちょっとだけバカかもしれな──」

「遺憾なんて難しい言葉、お前知ってたのかよ!?」

「誠に遺憾だよ!」


 どうやら、少しは勉強してきたらしい。


「おっけ、でも昼休みの時間は限られているからな。今からお前は二つの内、どちらかを選べ」

「ん? 厳しく教えるか、優しく教えるかみたいな感じ?」


 首をかしげながら、こちらの意図を汲み取ってくれる更科。


 これは非常に助かる。


「ひとつは、懇切丁寧に優しく教える。その分、効率が落ちるため、これでは時間内に全ての理解はまず無理だろう」

「そんなのお断りだよ! 後者でお願いするよ」

「もう一つは、スパルタで厳しく教える。その分、効率が良くなるため、これならお前でも全ての理解が不可能だろう」

「任せて! 後者でお願い!」

「……やっぱお前バカだわ」

「ふえ?」


 しっかりと最後まで話の聞けない奴は、たいてい頭が悪い。俺がそうだから間違いない。


「ちょっと心配だから、お前の学力を確認させてほしいんだが……」

「いいよ! 何でも聞いて!」

 

 更科が無駄に豊かに実った胸を張る。こいつが人気カテゴリーのロリ巨乳に属するのもなんか腹立つな。


 そういえば、いつかの放送伝説的放送事故でいずみんリスナーに、その胸は邪魔だって言われてたなあ……


「日本の首都は?」

「東京!」

「じゃあ、日本の都道府県の数は?」

「えと、たしか……48? あ、違う! 46かも!」


 それはどちらもアイドルクループだ。


「オーケーお前の学力は理解した。で、何を教えてほしいんだ?」

「これなんだけどね……」


 と、机の上に広げたのは1枚のプリント。


「これは……正しい慣用句を空欄に埋める課題か」

「そうそう。今日の5限だから、今すぐやらないとやばいの!」

「ここまで放っておくお前がやばいの! ……痛い痛い! 無言で叩くな!」


 せっかく声マネまでしてあげたというのに。シャレが分からん奴め。


「ていうかよく考えたら、山市君って、頭いいの?」


 いきなり、訳の分からない疑問を口にする更科。


「急になんだよ?」

「いや、私に勉強教えられるほど、頭良いのかなって」 

「勉強の聞き方から勉強してこい」


 まあこいつはバカだから、悪意はないんだろう……多分。バカだから。


「こう見えて、中学の頃、受験前の全国模試の国語で、全国一桁を取ったことがあるんだぜ?」



 更科に言ったことのない、隠された事実を告げる。すると、更科は


「え? あたしでも、この前の模試で一桁は取れたよ。おんなじだね!」

「? ああ……そうだな……」


 ……。


 多分、の意味が全然違う。



「もういいわ。で、どこが分からないんだ?」

「うーん、えーっと…………どこだろ?」


 バカだ。


 典型的なバカだ。


 どうしようもないバカだ。


 もうくらいのバカだ。


「あ! まずこれが分かんない!」


 更科が指差した問題はこうである。


 ────────────────


(  )に単語を埋めて、以下の慣用句を完成させてください。


(  )去ってまた(  )


 ────────────────


「これは何が入るの?」

「ヒントを言うと、そうだな……間髪入れずに何度も訪れる災難に対して、このような慣用表現が使われる」

「ふむふむ」

「さらに言うと、空欄には同じ単語が入る」

「あ! なるほど、分かったよ!」


 さすがの更科でも、このヒントで答えは分かってしまったらしい。


「これを乗り越えると、良いことがあるもんね!」


 確かに、苦難の後には道が開けるというし、災い転じて福となす、というありがたい言葉も──


 ────────────────


(メンテ)去ってまた(メンテ)


 ────────────────



 詫び石でも待つのだろうか?




「あ、ここも分かんない!」

「……どこだ?」



 ────────────────


(  )と(  )が一緒に来たよう


 ────────────────



「あーこれは少し難しいかもしれないな。意味は嬉しいことが立て続けに起こるという意味だ」

「ふーん、なるほど?」


 全く分かっていなさそうな、「なるほど」の声が隣から聞こえてくる。


「まあ、ヒントを書くと……」


 ────────────────


(  )と(正月)が一緒に来たよう


 ────────────────


 正しい答えは、


 盆と正月が一緒に来たよう


 なので、正月の部分だけ埋めてやる。


「分かった! そういう方向性ね!」


 更科が俺のヒントを基に空欄を埋める。


 なあ確かに、学生が待ち遠しい夏休みと冬休みに関連するものなので、意外に分かるのかもしれな──



 ────────────────


(クリスマス)と(正月)が一緒に来たよう


 ────────────────



 一週間待てば来るんだが?




「あ! 最後にここだけ教えて!」

「これ提出する気か……?」



 ────────────────


 青天の( )


 ────────────────


「ああ、これは、寝耳に水というか、ざっくり言うと、とんでもなくびっくりした時に使う表現だ」

「ああ……分かったかも!」

「まあでも、この漢字は難しいと思うが……」


 たしか……”霹靂”だったか……?


「そうだね。あんまり聞き慣れない表現だけど……書けた!」


 確かに、日常会話ではあまり聞き慣れない表現で──


 ────────────────


 青天の(性癖)


 ────────────────



 聞き慣れてたまるか。



 ……ただなんとなく。


 語感のせいか、言わんとしていることが絶妙に伝わりそうなのが無性に腹立たしい。



 ──キーンコーンカーンコーン……



 授業前の予鈴が鳴る。


「あ! じゃあ私もう戻るね!」

「え、おい! ちょ待って……行っちまった」


 更科を引き留められなかった俺に、別に責任はないはずだ。……多分。




 ──こうして昼休みが終わり、授業に向かった更科は先生に叱られたとか、赤面して涙目になったとか。


 ちなみにその日の部活は、山市はしっかりサボり、空気を察した二宮も部活をちゃっかりサボったとか。




 ────────────────


 ボツ案


 問題

 立てば(  )

 座れば(  )

 歩く姿は(  )


 正解


 立てば( 芍薬 )

 座れば( 牡丹 )

 歩く姿は( 百合の花 )



 更科さんの回答


 立てば(ガッキー)

 座れば(環奈)

 歩く姿は(マンドラゴラ)


 山市さんからの一言

「絶対に歩かないでください」

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主人公になりたいっ! izumi @Tottotto7

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