第22話 第六章 それぞれの帰環 (2)
ノースサウス衛星第三号内環状から少し入ったところ中枢区の一角にあるユニオン星系連合評議会のビルの一室に星系連合体ユニオン議長タミル・ファイツアー、リギル星系代表クロイツ・ハインケル、アンドリュー星系代表アヤコ・ヤマモト、ペルリオン星系代表マイク・ランドルそしてリギル星系軍事統括ユアン・ファイツアーの顔があった。ユニオン同盟の他の委員五名の顔もある。
「今日、集まって頂いたのは、ミールワッツ星系における戦闘後のミルファク星系への対応と西銀河連邦への報告内容の決定です。皆さんには事前に資料を送っていますので、既に目を通していると思います」
そこまで言うと一度言葉を切り、全員の顔を見た。アンドリュー星系代表ヤマモトと目が合った時、
「ファイツアー議長、その前に一つ議事の提案があります」
ヤマモトはそう言うと隣に座っているアンドリュー星系の別の議員と目を合わせ、
「今回は、ミルファク星系軍とは対峙の上、星系交渉部との結果を待って行動を起こす予定でした。しかし、我アンドリュー星系軍アーサー提督からの報告では、ミールワッツ星系に着いたとき既に戦闘が開始されていたと聞いています。それに至った経緯をランドル氏・・ペルリオン星系代表・・からぜひ説明を頂きたい。ペルリオン星系軍が入らぬ事をしなければこのような事態ならなかったのではないですか」
そういうとヤマモトはランドルの顔を見た。他の議員の視線もランドルに集まった。ランドルは、平気な顔で
「軍部の勝手な暴走です。私も報告を聞くまで知りませんでした」
こいつの顔の皮は、特殊合金で出来ているのか。自星系軍の失敗を代表として責を取るのではなく、軍部のせいだと言って切り捨てるとは、なんという汚さだ
軍事統括のファイツアーは、アイゼル提督の性格から誰かに指示されない限り自分で行動を起こすような人間でないことを知っているだけに怒りが心頭した。ただ今は自分が発言する時ではないと自覚し、黙っていると
「ランドル代表、あなたはそれでもペルリオン星系の代表か。あなたがここですべき事は、自身の保身ではなく、星系代表として貴星系軍がなぜあのような行動に出たかを説明することです」
怒りを抑えながら話すヤマモトは、体を貫くような鋭い眼でランドルを見た。
ランドルは、自星系軍が出動する前にアイゼル提督に言った言葉を思い出し
「そっそっそれは、・・・」
顔を真っ赤にして話せないランドルにハインケルは、
「ランドル代表。ペルリオン星系からの説明は、早急にして下さい。ファイツアー提督からも今回の貴星系軍の動きは不自然であると報告があります。ことによっては賠償の話が出るかも知れません」
少し脅すつもりでハインケルは言うとランドルは、
「賠償」
自星系内における自分の立場も危うくするハインケルの言葉に顔を下に向けたまま何もいえなくなっていた。ヤマモトは更に
「我星系軍が機転を利かせなかったら、リギル星系軍は全滅であったかも知れないと聞いています。いわば、ミールワッツ星系をミルファク星系にとられたのも同じです。しかし、我軍も少なからず損害を被りました。その代償としてミールワッツ星系を我星系の自治星系としたい」
そこまで言うとヤマモトは、ファイツアー議長とハインケル代表の顔を見た。
既にランドルは数に入れていないようだ。ファイツアーとハインケルは顔を見合わせると
「ヤマモト代表。貴星系が機転を利かし戦闘を優位に持って行った事は認めます。しかし、それは貴星系軍が遅れてきたからこそです。最初から参加していればどんな結果になっていたか分かりません。今回の戦闘では我リギル星系軍も少なくない損害を出しました。後出したことを棚に上げ、結果だけでミールワッツ星系の自治権を主張するのはいかがかと思いますが。ミールワッツはユニオン連合配下の共有自治にすべきと考えます」
そこまで言うとファイツアーは一度言葉を切ってヤマモトの出方を見た。しかしヤマモトは、更に
「ユニオン連合配下の自治と言っても、どの星系が鉱床探査を行うのです。ペルリオン星系は見つけただけで何もしていません。このまま放置すれば、再度ミルファクが出てくるのを待つだけになります。また同じ事をするつもりですか」
そう言ってファイツアーの顔を見た。ファイツアーは、自星系軍の損害も馬鹿にならず、今鉱床探査を開始できる状態ではないと考え、答えないでいるとヤマモトはハインケルに
「我星系がミールワッツの鉱床探査を行います。探査後の権利は、我々が五〇%貰うという事でよろしいですね」
強気のヤマモトになんて人だ。遅れて来たのはそちらの都合に合わせてやっただけだ。たまたま都合がいい時に現れただけなのにここまで言うとはファイツアー大将は、頭の中でそう考えているとハインケルが、
「探査後の配分については、今後の議事としましょう。今早急に結論を出すわけには行きません」
そう言ってヤマモトの顔を見た。ヤマモトは自分が主張すべき事を言い終わったのか、素直に
「そうしましょう。ただし、ペルリオン星系には、それなりの負担をして頂きます」
そう言って、下を向きながら何もいえないで入るランドルの姿を見た。
一時間後、ユニオン星系連合評議会のビルを出たハインケル代表とファイツアー大将は、自走エアカーの中で、
「今回の艦艇の被害の復旧に半年はかかります。その負担は少なくありません。星系評議会の中で特別予算の編成を頼みます」
そう言うファイツアーにハインケルは
「分かっている。しかし、ヤマモト代表がまさかミールワッツの自治権を要求するとは思わなかった」
そう言って窓に外に流れる景色を見ていた。
「今回の戦闘でリギル星系軍が失った艦数七二五隻、特にシャルンホルスト級航宙戦艦とテルマー級航宙巡航戦艦の損失は大きい。しかしシャルンホルスト級航宙戦艦の改良型であるマルドーク級航宙戦艦、テルマー級巡航戦艦の後継であるエンリル級巡航戦艦の開発が進んでいる。いずれ、またミルファク星系とは、砲火を交える事があるだろう。その時までには、これらの艦の習熟が完了していなければならない」
そう考えながらファイツアーも窓に流れるオフィスの景色を見ていた。
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