第21話 第六章 それぞれの帰環 (1)
既にリギル星系のミールワッツ方面からの跳躍点から出ていた、帰還途中のリギル星系軍第二艦隊旗艦ベルムストレンの司令長官室の中でシャインは、壁に映し出される星系の風景を見ていた。
各惑星の公転の中心に位置するリギル恒星、そしてそれを取り巻く七つの惑星。リギル星系はまるで今までの事が何も無かったかのように各惑星が恒星の周りを公転している。
その恒星の第三惑星、首都星ムリファンまであと一〇時間、出撃前と比べて艦数の激減と損傷艦があること以外は、整然とした隊形で航宙していた。
最後にファイツアー総司令官に会ったのは、四時間前。今頃就寝されているのだろう。
艦内時間は、午後一一時を過ぎていた。・・今回の出兵で得たものは何だ。確かにミルファク星系の鉱床探査は中止させる事ができた。
一時的だろう。今回の撤退でミルファクが鉱床探査を諦める理由は何も見つからない。
先の遭遇戦でも今回の戦いでも多くの兵が死んだ。
顔を手で覆い、自分の罪意識が大きく被さり、自分ではどうしようもなく抜け出せない気持ちに潰されそうになっていた。
シャインが星系軍士官学校を卒業し、リギル星系軍に入って以来、他星系と何度かの戦闘は経験したが、今回のような損害を出したのは初めてだ。
シャインは、壁に映し出される艦の外の風景、首都星ムリファンの姿を見ながら寝られない自分を持て余していた。
壁に映し出された宙港に入ってくる艦艇の姿を見ていた星系評議会代表クロイツ・ハインケルは、スクリーンパネルの脇のアラームがなり、我に返った。
ハインケルは、パネルに表示されるボタンを触ると
「ハインケル代表、今回の派遣の報告がまとまりました」
評議会代表付き武官からの連絡に
「分かった、すぐにこちらに転送してくれ」
そう言うと再度宙港に入ってくる艦艇の姿見ていた。
「第二軍事衛星宙港第一管制センター。こちら第二艦隊旗艦ベルムストレン。入港許可願います」
「こちら、第二軍事衛星宙港第一管制センター。第二艦隊旗艦ベルムストレンの入港を許可。誘導ビームに従い、第四〇ドックヤードへ入港せよ」
「こちらベルムストレン。了解しました」
そんなやり取りを司令官席で聞いていた第二艦隊司令官デリル・シャイン中将は、左後ろを振り向き、オブザーバ席に座る今回のユニオン連合派遣艦隊総司令官でリギル星系軍軍事統括ユアン・ファイツアー大将の顔を見た。
ファイツアーは黙ってうなずくとシャインは振り返り、スコープビジョンに移るドックヤードの巨大な姿を見た。
やがて、艦の動きが止まり、艦の高さの三分の一が少し下がるとランチャーロックがベルムストレンの艦体をロックした。数分後、
「こちら宙港第一管制センター。ベルムストレン。ドッククローズ。エアーロックオン」
「こちらベルムストレン。了解しました」
これを聞いたアダムスコット艦長は、コムを口元にすると
「各管制官はファイヤープレイスロック。ダブルチェック後、宙港第一管制センターにリモートオン。三〇分後、ブリーフィングルームに集合」
そう言うと後ろを振り返り、ファイツアー大将とシャイン中将に敬礼をして
「第二艦隊旗艦ベルムストレン。第二軍事衛星に帰還しました」
シャインは答礼しながら
「ご苦労」
先にそれだけ言うと
「引き続き報告と整備を頼む」
そう言って司令官席を立った。同時に席を立ったファイツアーの後に続き、司令フロアを出ると何も言わないファイツアーの後に従った。
「ファイツアー提督、ご苦労だったな」
ハインケル星系評議会代表の言葉にファイツアーは
「申し訳ありません」
と言って目を少し下に向けた。
「報告書は既に読んでいる。問題はこれからだ。ペルリオンの失態、アンドリューの攻勢。いずれにしろユニオン星系連合評議会を開催し、これからの対応を考えなくてはいけない。ところで報告書にあったペルリオン星系軍からミルファク星系軍に攻撃を仕掛け、それが戦端を開いたというのは事実ですか」
強い口調になったハインケルは、しっかりとファイツアーの目を見据えると
「事実です。跳躍点から現れたペルリオン星系軍は、一旦、ミルファク星系軍から遠ざかる方向に動きました。予定通りの進攻です。その後、我リギル星系軍一光時手前にて長距離ミサイルを発射し、それを感知したミルファク星系軍に攻撃されました。しかし、ミルファク星系軍は、結果的にペルリオン星系軍を破壊せず、航宙機能のみを奪う攻撃でした。それに気づかなかった我々は、ミルファク星系軍に攻撃を仕掛けました。明らかにこちらが仕掛けた戦いです。戦端を開くときは、ミルファク星系軍からという当初の計画は全く機能しませんでした。やられました。ミルファクに」
それを聞いたハインケルは、
「しかし、なぜペルリオン星系軍はミルファク星系軍に攻撃を仕掛けたのだろう。彼らの戦力ではミルファクに対抗する事は出来ない事ぐらい分かっていただろうに」
そう言うと、ペルリオン星系代表ランドルの顔が頭に浮かんだ。それは顔に出さずファイツアーの顔を見た。ファイツアーは、分かりませんという顔をするとハインケルは、
「いずれ、改めて命令が下る。それまでゆっくり休んでくれ」
と言うとファイツアーは敬礼をしてハインケルのオフィスを出た。
ファイツアーは誘導路まで歩くと自走エアカーにのり自分のオフィスに戻った。
星系連合体ユニオン、アンドリュー星系代表アヤコ・ヤマモトはスクリーンパネルに移るチェスター・アーサーの青黒い髪と精悍な顔を見ながら
「アーサー提督、今回の活躍大変ご苦労様でした。評議会は、アーサー提督を大将に推薦する事を決定しました。おめでとうございます」
そう言って笑顔を見せた。アーサーは、
「ヤマモト代表の英断により五日早く出動する事により、戦場を大観することが出来ました。それによりどうすれば良いか判断できたのは、ヤマモト代表のおかげです」
そこまで言うとアーサーは、少し下を向き
「申し訳ありません。敵戦艦のスペックを調べておくべきでした。そうすれば今回の被害は受けずに済んだと思います」
そう言うとヤマモトは
「仕方ありません。敵の航宙艦のスペックは最高軍事機密です。初めて交戦したミルファク星系軍の戦艦のスペックを事前に調べる事は無理でしょう。しかし、今回の戦いでミルファクの航宙艦のことが少し分かりました。十分な成果です。いずれ貴官の労に報いる褒章があるでしょう」
そう言うとヤマモトは、敬礼するアーサーの姿を見ながらスクリーンパネルのスイッチを切った。
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