第20話 第五章 衝突 (5)


三時間後、硬直状態になっていた戦線に変化があった。

「ウッドランド総司令官。アンドリュー星系軍が、ミールワッツ星系第二、第三惑星上にある我星系の鉱床探査の為の簡易施設を攻撃しています。映像拡大します」


レーダー管制官からの報告にウッドランドとヘンダーソンは目の前に広がるスコープビジョンを見た。

アンドリュー星系軍は第二、第三惑星の衛星軌道上まで降りると長距離ミサイルを惑星降下軌道に発射した。苦味虫を潰した様な味が口の中に広がった。


ウッドランドはヘンダーソンに

「このまま戦闘を継続して鉱床探査を継続できる状況まで持っていけるか」

と聞いた。ヘンダーソンは

「既に第一八艦隊の鉱床探査着陸艇、機材、技術員は失われています。第一九艦隊に鉱床探査を継続させるのは、この戦闘で不可能になっています。幸いミールワッツ星系の鉱床探査の結果は、ほとんど無傷のままあります。第一八艦隊の被害も甚大です。ここはいったん引いて戦線を組みなおした方が良いと考えます」

「しかし、敵は素直に引いてくれるか」


そんなウッドランドの疑問にウォッカー主席参謀が、

「総司令官、敵も相当な被害を受けています。我ほうが引く形を見せれば、引くのではないでしょうか」


ウッドランドは少し考え、ヘンダーソンの顔を見た。ヘンダーソンは

「ここは一旦引きましょう」

と再度言うとウッドランドは、顎を引いて了解するしぐさをするとコムを口元に寄せ、

「第一八艦隊ギヨン中将と第一九艦隊ドンファン中将を呼び出してくれ」

とハウゼー艦長に命令した。


数分後、ギヨン中将とドンファン中将の姿が司令官席階の中央に現れた。二人とも敬礼をしているが、ギヨン中将は疲れきった顔を無理に元気に見せているような感じだ。


二人に答礼した後、ウッドランドは

「ここは一旦引いて態勢を立て直す。敵左翼と中央、右翼とも大きく開いている。各艦隊は、敵と反抗戦を取りながら敵の攻撃を受け流し、敵の後方に抜けてくれ、集合場所は直ぐに連絡する。すぐにかかってくれ」

これを聞いたギヨンは何か言おうとしたが、自艦隊の惨状を思うと強く出られなかった。


「敵、三艦隊全て反抗戦を取りながら、各艦隊の脇を急速に抜けて行きます」

レーダー管制官からの報告にシャインは、ファイツアー大将の顔を見た。

「潮時だな」

そう言うとシャインに

「どう思う」

と聞いた。


シャインは、

「私もそう思います。アンドリュー星系軍のおかげで敵の新たな鉱床探査隊は壊滅し、惑星上の施設も破壊されています。当初の目的は達成されたと考えてよいと思います」

それを聞くとファイツアーはアダムスコット艦長に

「マーブル中将とアンダーソン中将に連絡を取りたい。つないでくれ」

と言った。


各艦隊が広く散開した為、直ぐに連絡は来ない。五分後、マーブル中将とアンダーソン中将の姿が司令フロアの正面のスクリーンに映し出された。両中将とも心なしか疲れているようだった。


「マーブル中将、アンダーソン中将。よく戦ってくれた。敵が撤退するようだ。こちらも敵に合わせて戦線を収束する。各艦隊は、敵との交戦が終了した後、敵の後方に哨戒艦を出し監視してくれ。破壊された艦から射出された救命ポッドは全て回収するように。敵が完全に再交戦の意思がないと判断した状況で、ペルリオン星系群を助けに行く。動けないで困っているだろうからな」

そこまで言うと一度言葉を切った。


今言った言葉は、五分後に届くはずだ。更に五分後、マーブル中将からは、

「ファイツアー総司令官。了解しました」

と言って敬礼するとスクリーンから消えた。アンダーソン中将からも返答があったが、

「ファイツアー総司令官。了解しました。ミルファク星系軍の救命ポッドは如何いたしますか」

と尋ねられたのでファイツアーは、

「悪いが一緒に回収してくれ。色々情報も得るだろう」


再度五分後、

「了解しました」

そう言ってアンダーソンもスクリーンから消えた。


ファイツアーは、アダムスコット艦長にアンドリュー星系軍司令官チェスター・アーサー中将に連絡を取るように指示した。アンドリュー星系軍は、既に第二艦隊の左翼後方に位置した為、直ぐに連絡が取れた。


スクリーンにアーサー中将の姿が映し出されると、ファイツアーとシャインはリギル星系航宙軍式敬礼を行った。アーサーもアンドリュー星系航宙軍式敬礼をした。


アーサー提督のスクリーンに映った姿を見てシャインは、驚きを危く顔に出しそうになった。通常、中将であれば、五〇歳は過ぎる。ここに映る人はどう見ても三〇代後半か入っても四〇歳だろう。アンドリュー星系軍軍服も始めて見たが、全く自分たちと違う姿に驚いていた。


ファイツアーは、少し間をおいて

「アーサー提督。まずはお礼を言います。この度の派遣と貴官の機転の利いた行動により敵の目的を砕く事が出来ました。ありがとうございます」


そう言うとアーサーは、

「ファイツアー提督、初めてお目にかかります。アンドリュー星系軍司令官チェスター・アーサーです。間に合ってよかった。本来は、後五日後の予定でしたが、ヤマモト星系代表の強い意向で急行したのが、功を奏したようです」

そう言って一旦言葉を切り、

「我艦隊の救出ポッドも救出したいので、会話中ですが、救出後に再度話したいのですがよろしいですか」


ファイツアーは、自星系軍が先に救命ポッドを回収している事を思い出し

「まずは回収を優先して下さい。その後、再度お会いしましょう」

そう言うと敬礼をした。アーサー提督がスクリーンから消えるとファイツアーは、シャインの顔を見て、何とも言えないという表情をした。


シャインはファイツアーを見返すと優勢だったミルファク星系軍第一八艦隊を長距離ミサイルによって後方から攻撃し、間をおかず主砲の斉射により第一八艦隊に多大の損害を出させた。第一八艦隊後方を迂回した時、少なからず攻撃を受けたとはいえ、艦数全体から見れば大した数ではない。

本来、あの状況ではそのまま反撃に移るところを第一艦隊と第二艦隊の間を通り抜け、惑星上のミルファク星系軍の鉱床探査施設を破壊するという機転まで利かせた。見た目は若いが侮れない相手だ、そう頭の中で思った。


それから二時間、戦場に漂っていた両星系軍の救命ポッドを回収するとファイツアーは、

アンドリュー星系軍アーサーと今後の対応について話し合った後、帰還後、再度会う事を約束した。

アンドリュー星系軍が自星系方面の跳躍点方面に向かったのを確認すると、全艦隊に漂っているペルリオン星系軍救出の指示を出した。


ウッドランドは、ミールワッツ恒星の第五惑星の公転軌道下方、ADSM82方面の跳躍点から三光時の位置の集結点に集合したミルファク星系軍の残存勢力を見て、胸焼けするような痛みを感じた。


スクリーンに移る第一九艦隊司令ドンファン中将と第一八艦隊司令ギヨン中将の顔を見ながら

「今回はよく善戦した。これ以上の戦闘は、何も益を生まない。幸い、救命ポッドはリギル星系軍が救ってくれたようだ。いずれ返還の機会もあるだろう。ミルファク星系に帰還する。報告にあった被害艦の修復が済み次第、出発する」


言葉少なくそう言うと三人の艦隊司令の顔を見た。これを聞いたギヨンはミルファク星系で自分を待つ運命を考えるとふらつきそうになった。


ドンファンは仕方ないという表情をした。二人の映像がスクリーンから消えると自分の体をオブザーバ席に戻し、手で顔を覆った。

スコープビジョンには、タイタン級高速補給艦の周りに僚艦に引かれて集まる被害艦の姿があった。


今回の戦闘でミルファク星系軍の戦力に動員した艦数は、

アガメムノン級航宙戦艦九一隻

ポセイドン級航宙巡航戦艦一三六隻

アテナ級航宙重巡航艦一八〇隻

ワイナー級航宙軽巡航艦三七一隻

ヘルメース級航宙駆逐艦五四八隻

アルテミス級航宙母艦九一隻

ホタル級哨戒艦五四八隻

タイタン級高速補給艦八〇隻

スパルタカス戦闘機一〇四三九機

他に陸戦隊六〇〇〇名。強襲揚陸艦一二〇隻

総艦艇数 二八〇四隻

この内、戦闘によって失われた艦数は七二二隻、死者のみで三九三六〇名。この内半数が第一八艦隊の被害であった。


リギル星系軍を主力とするユニオン連合派遣艦隊の戦力に動員した艦数は、

シャルンホルスト級航宙戦一六五隻

テルマー級航宙巡洋戦艦一七一隻

ロックウッド級航宙重巡洋艦二六四隻

ハインリヒ級航宙軽巡洋艦二六四隻

ヘーメラー級航宙駆逐艦八〇九隻

ビーンズ級哨戒艦八六四隻

ライト級高速補給艦一〇八隻

エリザベート級戦闘母艦一〇六隻

ミレニアン戦闘機一六九六〇機

総艦艇数二七五一隻

この内、戦闘によって失われた艦数は、ペルリオン星系軍が被害のみである事を除くと八二五隻、死者のみで四二七二〇名。


両星系軍共に少なからぬ損害を出したのであった。



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