第18話 第五章 衝突 (3)


一時間後、ペルリオン星系軍から射出された長距離ミサイルは、全て迎撃された。

無駄なことだと思いながら、既にオブザーバ席に戻っているウッドランド大将を見ると満足そうな顔をして頷いた。


更に七時間後、アルテミス級航宙母艦から次々とスパルタカスが発進して行った。発進が第二グループになるカワイ中佐も自機のコクピットに座って発進の準備を待っていた。既にスパルカスを覆うドームもクローズしている。


「A3G宙戦隊カワイ中佐、発進準備完了」


カワイが発着管制官に言うと

「エアロック解除、発進して下さい」


アルテミス級航宙母艦ラインの戦闘機射出口から強烈なダウンフォースを感じながら射出されると、同時に射出された四八機のスパルタカスを確認した。


ヘッドディスプレイに映る計器を見てオールグリーンを確認すると

「ジャック、キリシマ、キリン、ウォッカー。各中隊射出できたか」


各中隊長からの返答を確認すると、口元にあるヘルメット一体型のコムに向かって

「こちらカワイ中佐、全機良く聞け。今回の作戦はあくまでも敵の迎撃兵器の破壊だ。いらぬ攻撃はするなよ。ステルスモードを忘れるな」

そう言うと僚機を連れてペルリオン星系軍に向かった。


カワイはペルリオン星系軍をレーダー内に捉えると、ミサイルで航行不能になっている艦が、少なからずあるのを確認し、コムに向かって

「全機、攻撃開始。航宙可能な艦から攻撃しろ」

と言って、自らも一番近くにあるヘーメラー級航宙駆逐艦に向かった。


この艦は、艦本体前方にレールキャノンが八門、本体両脇上部に装備されたパルスレーザ砲六門とパルスレーザ砲の下部に両舷側に少しはみ出た筒状の近距離ミサイルランチャーが一二門装備されている。これを破壊し、後から来る雷撃型スパルタカスが攻撃されないようにするのだ。


カワイは、下方から航宙駆逐艦に近づくと近接戦闘モードで攻撃目標のパルスレーザ砲をレーダーで視覚に入れ一気に上方に飛び抜けた。


航宙駆逐艦との交差は一瞬だ。スパルタカスの両脇についている口径一メートルの収束型粒子砲二門が通過中に発射されたことは、全く認識できない。

大きく旋回すると目標がヘルメットのレーダーに映る映像から消えていた。先にパルスレーザ砲を潰せば、近距離ミサイル発射管を潰すのは容易だ。


駆逐艦に積んでいるレーダー波は何万キロもの遠方にある物体は識別するが、数百キロ以内の至近にある物体が、ステルスモードで急速に近づくとレーダーでは捉えきれない。

カワイは急いで駆逐艦方向に機首を向けると続けざまに目標を捉えた。


一時間後、ほぼ航宙している艦でパルスレーザ砲と近距離ミサイル発射管が生きている艦は無くなっていた。カワイは、各中隊に残存機を報告させた。


「ジャック中隊、一二機全機無事です」

「キリシマ中隊、一一機生存」

「キリン中隊、一〇機生存」

「ウォッカー中隊、一一機生存」


報告を聞いたカワイは、主砲の射角に入ったか、敵艦から離れすぎたところを、パルスレーザ砲で撃たれたのだろう。敵にミレニアンがいなくてよかった。いればとてもこれだけでは済まないそう思ったカワイは、コムに向かって

「ジャック、キリシマ、キリン、ウォッカー、全機帰還する」

そう言って自らも第一七艦隊に機首を向けた。


「ウッドランド大将、予定通りペルリオン星系軍を足止めしました。予定通り、ペルリオン軍を攻撃する方向へ第一七艦隊を向けます」

ヘンダーソンの報告にウッドランドは頷くとうまくリギル軍が、こちらの希望通り動いてくれると嬉しいのだがとつぶやいた。ミルファク星系軍とリギル星系軍は、既に三〇光分を切っていた。


「シャイン司令官。ペルリオン星系軍の動きが止まりました。敵右翼、ペルリオン星系軍に向かいます」


レーダー管制官の報告にシャインは、ペルリオン星系軍が長距離ミサイルをミルファク星系軍右翼に対して発射したが全て迎撃された。

アイゼル中将は艦数の少ない右翼を狙って少しは顔を立てたかったのだろうか。何もしなくても良いはずだったが。まさか、星系代表から何か含められたのだろうか。いずれにしろ助けない訳にはいかない。あれでは狙い撃ちされて終わりだ。そう考えていると


「ファイツアー大将、第三艦隊アンダーソン中将から連絡です。繋ぎます」

とアダムスコット艦長から報告が入り、司令官のいるフロアの中央にミル・アンダーソン中将とヤン・マーブル中将の姿が映像で現れた。


「ファイツアー総司令官、ペルリオン星系軍を支援する為、第三艦隊を左翼方向に向かわせたいと考えます。ペルリオン星系軍を攻撃する艦隊との間に入り迎撃します。ご許可願います」

ファイツアーはアンダーソンに

「もう敵との接触まで後一五光分を切っている。ここで左舷回頭すれば、敵に横っ腹を見せることになるぞ」

「しかし、時間がありません。このままでは、ペルリオン星系軍は、全滅です。目の前で同盟軍を見捨てたとなれば、ペルリオン星系は同盟も解消するかもしれません。ここはペルリオン軍を助けるべきです」

そう言うとマーブル中将も

「私もアンダーソン中将に同意します」

まるで事前打ち合わせしていたかの様だ。


「シャイン中将、君はどうだ」

ファイツアーからの問いに

「仕方ないでしょう」

シャインの返答にファイツアーは、

「分かった。全艦左舷回頭し、ペルリオン星系を攻撃する艦隊を撃つ。敵右翼艦隊を攻撃後、中央の艦隊、左翼艦隊を攻撃する。各個撃破だ」

ファイツアーはそう言って三人の司令官の顔を見た。


「ヘンダーソン司令。リギル星系軍左翼回頭します」

レーダー管制官の報告に

「ウッドランド大将、うまくかかりました」

と言ってオブザーバ席の方に振返り含み笑いをした。ウッドランドは

「フェイクか。うまくいきそうだな」

そう言うとヘンダーソンの顔を見て頷いた。

ミルファク星系軍は、第一八艦隊と第一九艦隊が最大艦速〇.三光速で突進し始めた。


「シャイン司令官。敵左翼、中央加速して突っ込んできます」

レーダー管制官の声に

あれでは、攻撃できないではないか。どこかで速度を落とすはずだと考えながら、敵の考えが見え始めていたが、既に行動を起こした自艦隊を止めることはできなかった。


・・航宙艦が正面攻撃(あまりないが)を行う場合、相対速度が〇.二光速以下でなければメガ粒子砲のレーダー照準は効かない。相対速度が〇.五光速以下でないと粒子砲も当たらない・・


ミルファク星系軍はリギル星系軍の手前一光分の位置に来ると、急減速で〇.一光速まで減速した。第一八艦隊を統率するギヨン中将はシートに押しつけられていた体が、楽になると

「全艦、攻撃開始」

と言った。


第一八艦隊、第一九艦隊の艦隊正面に位置するワイナー級航宙軽巡航艦合計二五六隻から中距離ミサイルが発射された。

両腕にミサイル発射管二〇門が付いている独特の形状をもつ軽巡航艦からリギル星系軍第一艦隊と第二艦隊に向かってシャワーの様なミサイルが射出された。

「艦長、主砲の射程に入り次第攻撃してくれ」

そう言うとギヨン中将はスコープビジョンに映るリギル星系軍を見つめた。


「敵、ミサイルを発射しました」

「迎撃しろ」

レーダー管制官の報告に第二艦隊旗艦ベルムストレンの艦長アダムスコット大佐は、ミサイル管制官に命令した。ミサイルが到着する前にリギル星系軍右翼側面に第一艦隊、第二艦隊の全戦闘艦からアンチミサイルとmk271c(アンチミサイルレーダー網)が展開した。


八割方は迎撃されたが、残り二割は側面を固める何隻もの航宙艦の側面シールドに当たって光り輝いた。

同じシールドの位置に何発かのミサイルが当たるとシールドが崩壊し、シールドを突き抜けたミサイルが、シャルンホルスト級航宙戦艦の側面に直接当たると側面が一瞬輝いたと思った瞬間、戦艦の右舷側面に大穴があいた。ミレニアンがそのまま入りこめそうな穴である。戦艦の大きさからすれば小さな穴だが。


「あの辺は兵士居住区当たりか」

スコープビジョンを見ながらギヨンは、やはりミサイルでは大した効果はないなそう思っていた。既に戦艦に開いた穴は、すぐに自動補助機密液によって塞がれ始めている。


「主砲、射程内に入ります」

既に三光秒の近接戦に入っていた。


「シャイン司令、第一艦隊、第三艦隊、右翼側面被害大です」

続いて

「敵、右翼、ペルリオン星系軍を攻撃する様子ありません」

シャインはレーダー管制官からの報告にスコープビジョンを見ながら眉間に皺を寄せ考えていた。


「ヘンダーソン司令、敵左翼側面、主砲射程内に入りました」

ハウゼー艦長からの報告に頷いたヘンダーソンは、攻撃制御システムが自動的に放つ主砲に高揚感を覚えた。


アガメムノン級航宙戦艦は、艦本体から両足が少し突出た主砲を持つ。一門二〇メートルのメガ粒子砲が片弦二門ずつ計四門ついている。そのメガ粒子砲が、干渉を避けるため片弦一門ずつ外側と内側で交互に撃つのである。


〇.五光速まで加速された陽電子粒子は、収束したまま二〇メートルの巨大な槍となって九〇万キロ先の敵艦に突き刺さる。一度ロックされれば、至近で避けることは不可能だ。

 

側面シールドを簡単に破られ、直撃を受けたロックウッド級重巡航艦は、ミサイル発射管を持つ腕の根元が消滅し、右腕がもぎ取れたようにミサイル発射管が重巡航艦から離れていく。


推進エンジンは被害がないらしく依然戦闘航行している。二射目が発射された。今度は右側の推進エンジンをやられたらしく、急激にスピードが落ちた。

あれでは、もう攻撃できまいそう思うとスコープビジョンに映る戦場全体を見つめた。


リギル星系軍からもミサイルの応酬がある。ミルファク軍は、全艦が前面にシールドを展開しているとはいえ、駆逐艦や軽巡航艦のシールドでは、大した役に立たない。

レールキャノンやパルスレーザ砲に対するシールドだ。集中して攻撃を受ければ簡単に破られてしまう。


ミルファク軍は、標準戦闘隊形で前方に航宙駆逐艦、航宙軽巡航艦を配置しているので一番に攻撃を受ける。

ヘルメース級航宙駆逐艦が正面に中距離ミサイルを受け、前方上下に六門ずつ一二門あったレールキャノンの下半分が一瞬にて消滅する。続いて受けたミサイルで完全にデブリに変わった。

アテナ級重巡航艦は、本体両脇の下段に突き出た粒子砲が粉砕されるが、残った粒子砲で応戦する。


リギル軍は粘るがこのままでは被害が増すばかりだ。何か仕掛けてくるだろうそう思いながらヘンダーソンはリギル軍を見ていると

「リギル軍、後退します。後退しつつ、中央右翼が正面をこちらに向け始めました」

「リギル軍右翼、中央、左翼と離れていきます」

それを聞いたヘンダーソンは、

「第一七艦隊全艦に告ぐ。第一九艦隊と呼応して敵の左翼を集中して叩く。敵の後退速度に合わせながら前進しろ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る