第17話 第五章 衝突 (2)
(2)
第一七艦隊がミールワッツ星系跳躍点から一光時航宙した時、ペルリオン星系跳躍点が揺らいだ。そして徐々に艦艇の姿が現れ始めた。ユニオン星系連合軍に参加する為に遠征した総艦数三〇八隻のペルリオン星系軍である。
突然、艦橋にブザーが鳴り始めた。
「どうした。艦長」
ヘンダーソンの質問にハウゼーは、
「はっ、ペルリオン星系跳躍点より艦艇が現れました。ペルリオン星系軍と思われます」
スコープビジョンの前にある四象限立体レーダーパネルから、右舷後方を拡大した映像がスコープビジョンに映し出された。
既に一〇時間前の映像である。その映像を見ていたウォッカー主席参謀は、スコープビジョンから目は離さずにヘンダーソン中将に向かって
「ヘンダーソン司令、少ないですね。三〇〇隻程度です。編成も通常と異なるようです。艦艇はリギル星系軍と同じ様ですが」
初めて見るペルリオン星系軍に主席参謀は違和感を覚えたようだった。
ヘンダーソンは、
「理由は解らないが、こちらとしては好都合だ。また一個艦隊増えたら大変だからな」
「艦数三〇八隻、シャルンホルスト級航宙戦艦二〇隻、テルマー級航宙巡航戦艦二〇隻、ロックウッド級航宙重巡航艦三二隻、ハインリヒ級航宙軽巡航艦三二隻、ヘーメラー級航宙駆逐艦九六隻、ビーンズ級哨戒艦九六隻、ライト級高速補給艦一二隻です」
レーダー管制官からの報告にアッテンボロー副参謀は、
「航宙母艦はいないのか」
と聞くと
「航宙母艦の反応ありません」
とレーダー管制官は応答した。ヘンダーソンは、コムを口元にすると自分のデスクにあるスクリーンパネルのボタンを押し、
「ユール宙戦司令。スパルタカスの発進準備をしてくれ。指示あり次第発進できるように」
航宙母艦ラインを指揮艦とする宙戦隊司令ユール准将は、スクリーンパネルの向うで敬礼しながら
「解りました」
と応答した。
ユール准将は、他の航宙母艦の各宙戦隊長に
「こちらユール准将だ。各航宙母艦宙戦隊司令に告ぐ。スパルタカス全機発進準備。作戦内容はA一〇二だ」
そう言うとスコープビジョンの前にあるスパルタカス発着庫の監視映像を見つめた。
ラインの艦内に発進準備を告げる放送とブザーが鳴り始めた。スコープビジョンの前に並ぶ各戦闘機ライン別ゲート担当官席が、急に慌ただしくなる。
その一人オカダ少尉も自分の担当ラインの八機のスパルタカスのゲートの発進準備に忙しかった。一ラインに八機のスパルタカスのゲートがある。これが六列あり、一回の発進で四八機の発進が可能である。
搭載一一六機の内、補用を除く九六機のスパルタカスが二回の発進で可能である。航宙母艦ライン所属のA3G宙戦隊長のカワイ中佐は、二回目の発進グループ四八機を率いている。
カワイ中佐は、宙戦隊指令室で部下の中隊長と一緒にユール准将から今回の作戦について作戦行動のブリーフィングを受けていた。
ユール准将は3D映像パネルに表示された自軍と敵艦隊位置を示しながら
「今回の作戦は、ペルリオン星系軍の戦闘艦を叩く。彼らは、航宙母艦を持っていない。そこで戦闘が始まったら、ペルリオン星系軍の戦闘艦の防御兵器を攻撃型スパルタカスで潰し、制宙権を取ったところで雷撃型スパルタカスを出撃させ戦闘艦の推進エンジンを攻撃する。動かなくすればよい」
と説明するとブリーフィングに集まった隊長、中隊長の顔を見た。
「破壊してはいけないのですか」
中隊長の一人が質問すると
「今回の目的は、ミールワッツの資源だ。無益に人を殺す必要はない。戦いが終わったら引揚げてもらう。不必要に戦線を拡大しないという星系評議会の命令だ」
ユール准将の説明に仕方ないという顔をして
「やりにくいですね」
と言うと中隊長は自分の椅子に座った。
事実、敵はこちらを破壊しようとするが、こちらは敵を破壊してはいけないと言っている。無理な話だ。戦闘艦の迎撃斜角を避ける方向から仕掛け一気に防御兵器を潰すという作戦だ。
「これでブリーフィングを終了する。各自準備にかかれ」
ユール准将の言葉にカワイも宙戦隊指令室のブリーフィングルームを出ると横にいる中隊長-通称キリシマ-が
「ミレニアンと交戦するより簡単ですね」
と言うと
「まあな」
と言ったが、頭の中では簡単に済めばいいが、前回の戦闘を考えるとそうはいかないだろと考えていた。
ペルリオン星系軍司令官シュティール・アイゼル中将は、スコープビジョンに次々と映し出される映像に驚いていた。
左前方一光時にミルファク星系軍か。数が少ないようだが、あれだけではあるまい。ここは、リギル星系軍と早く合流することが重要だ。そう考えながら
「オルドリンゲン艦長。ミルファク星系軍に近寄らずにリギル星系軍と合流したい。リギル星系軍は、第三惑星付近に布陣しているはずだ。ミルファク星系軍とは一光時以上離れた距離を保ちつつ、合流する航路を取ってくれ」
ペルリオン星系軍はリギル星系軍と六光時以上離れている為、レーダーでは捉えていなかった。
「アイゼル司令長官。了解しました。一度アルファ二七〇、ベータ一八〇、ガンマ九〇方向へ四光時航宙した後、アルファ〇、ベータ二七〇、ガンマ一八〇地点でリギル軍方向へ向かいます」
これによりペルリオン星系軍は、ミールワッツ星系水準面を下から上に抜けた後、左下方にいるリギル軍の左翼側に着くことになる。
アイゼルはオルドリンゲン艦長に頼むと言う風に頷くと司令長官席からスコープビジョンを見ていた。
「ペルリオン軍、我軍右後方より更に右舷へ離れていきます」
レーダー管制官からの報告にヘンダーソンは、コムを口元に置くと
「ユール准将、すぐに宙戦隊が出ることはないようだ。隊員を休ませてくれ」
そう言うと左前方一〇光分のところで第一九艦隊方向へ航宙している第一八艦隊を見ていた。
ADSM82方面跳躍点から三〇時間後、遂にミルファク星系軍第一七艦隊と第一八艦隊は第一九艦隊と合流した。リギル星系軍と四光時、ペルリオン星系軍と二光時の位置だ。
スコープビジョンでそれを確認した旗艦アルテミッツに乗艦する今回のミールワッツ星系派遣艦隊総司令官のウッドランドはコムを口元に運ぶと
「全艦隊に告ぐ。こちらミールワッツ星系派遣艦隊総司令官ウッドランド大将だ。これよりミールワッツ星系第二、第三惑星の鉱床探査を再開する為、惑星前方に布陣しているリギル星系軍にどいてもらう。各艦隊の作戦行動は、既に伝えてある通りだ。一二〇〇に全艦隊前進」
二〇分後、スコープビジョンに映る各艦隊の前方に位置する駆逐艦から順次、艦マーカーがグリーンからブルーに変わって行った。
リギル星系軍に向かって全艦隊が動き出したのである。しかし、すぐに戦闘が始まるわけではない、リギル星系軍との距離は四光時。
リギル軍が第一級戦闘速度で進んできても二〇時間はかかる。ウッドランドは、ヘンダーソンに
「戦闘が始まったら休めなくなる。自室に戻って少し休んでくる」
そう言って艦橋を出てオブザーバルームに向かった。
ヘンダーソンもハウゼー艦長に向かって
「私も少し休むが、緊急事態が起こったら、すぐに起こしてくれ」
ハウゼーと視線が合うと、顎を引いて頷きシートを離れ艦橋を出て行った。
それを見たハウゼーは、コムを口元に置くと
「全員交代で休憩を取るように」
そう言うとスコープビジョンを見つめた。
士官食堂でウッドランド大将と一緒に食事を取った後、司令長官室に戻ったヘンダーソンは、我々が艦橋を後にしたのを見て、ハウゼー艦長は、交代休憩の指示を出しているだろうそう思いつつ、ベッドの中に入った。
一〇時間後、十分な休憩と食事を取ったヘンダーソンが艦橋に戻るとウッドランドはまだ来ていなかった。ヘンダーソンの姿を確認したハウゼー艦長は、
「ヘンダーソン司令官。今呼ぶところでした」
「どうした」
「スコープビジョンをご覧ください。ペルリオン星系軍の動きがおかしいです。我艦隊に向かってきます」
ヘンダーソンは、スコープビジョンに映るペルリオン星系軍の動きを見た。
突然艦橋にブザーが鳴り始めた。レーダー管制官が、
「ペルリオン星系軍がミサイルを発射しました。距離は一光時。数が多いです」
アガメムノン級航宙戦艦アルテミッツは最新のレーダー機能を備え、最大半径七光時までの走査能力を備えている。
そのレーダーが二時間前に発射されたペルリオン星系軍の長距離ミサイルを一時間前に捉えたのだった。
ハウゼー艦長は、ペルリオン星系軍こちらのレーダー走査能力を知らなかったらしいな。しかしそれにしても遠すぎると思いながら、
「ミサイル管制官、各重巡航艦、巡航戦艦に連絡。ミサイルが到着まで五光分の位置に来たら、アンチミサイル、mk271c(アンチミサイルレーダー網)を発射するよう伝えてくれ」
それを聞いたヘンダーソンは、
「ハウゼー艦長。攻撃を受けたのだからお礼をしよう。ペルリオン星系軍の行く方向は、はっきりしている。各ミサイル管制官にペルリオン星系軍の予定航路に向けて慣性航法射出で長距離ミサイルを発射するよう伝えてくれ」
ヘンダーソンの指示にハウゼーは含み笑いをすると
「もぐらが穴に入っていれば、けがをしないのですが」
と言ってミサイル管制官に指示を出した。
続いてヘンダーソンはハウゼー艦長に
「右舷上方二光時方向にあるペルリオン星系軍をスパルタカスで攻撃する。艦隊をペルリオン星系軍に向けてくれ。但し破壊はしない。足止めをするだけだ。素人さんが戦闘に巻き添えを食うのはかわいそうだからな」
そう言うとコムを口元にして
「ユール准将、右舷上方のペルリオン星系軍を予定の作戦行動に沿って攻撃を加える。出撃は八時間後だ」
その頃には、後方管制射出された長距離ミサイルで混乱しているだろう。
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