第15話 第四章 出動 (4)


ADSM82星系のミルファク星系側跳躍点より艦艇が現れ始めた。先行する哨戒艦のグループを先頭に駆逐艦、軽巡航艦、重巡航艦、巡航戦艦とおびただしい数の艦艇が跳躍点から出てきた。

そして最後に旗艦アルテミッツを中心にアガメムノン級航宙戦艦三二艦が現れた。

「ヘンダーソン司令、ADSM82星系に出ました」

ヘンダーソンは、スコープビジョンに次々と映し出される映像に注目していた。恒星を中心に七つの惑星が公転している。

ミルファク星系がミールワッツ星系からの資源を取得できるようになれば、ここも人類が住むことになるだろうそう思いながら映し出される映像を見ていた。


恒星の近くにある二つの惑星は高温状態でとても人類は住めない。恒星から三番目の惑星と四番目の惑星が大気もありそうだ。第五惑星は、恒星から遠く冷えてとても住めそうにない。第六、第七惑星は、典型的なガス惑星だ。そう思いながらヘンダーソンは、ハウゼー艦長に

「艦長、至急この星系各惑星の大気分布と濃度、状態を調べてくれ」

「解りました」

ハウゼーはそう言うと

「レーダー管制官、至急レーダー担当官に連絡し、この星系各惑星の大気分布と濃度、状態を調べ報告させてくれ」

レーダー管制官は、すぐに復唱すると担当官へ指示を出した。それを確認したハウゼーは、

「ヘンダーソン司令、第一八艦隊がミールワッツ星系跳躍点方向三〇光分の位置にいます。予定通りです」


今のところ、第一八艦隊チャン・ギヨン中将は、予定通りの航宙を行っているようだ。今回の遠征に気を入れているから心配していたが、ミールワッツ星系に着くまでは、大丈夫そうだな。そう思うとオブザーバ席に座っているウッドランド大将の顔を見た。

ウッドランド大将も同じことを思ったらしく、目を合わせると顎を引いて大丈夫だという仕草をした。


「艦長、本星系の分析が終了しました。本星系の恒星の大きさは、直径三〇〇万キロ、ミルファク恒星の二倍の大きさです。公転惑星は七つ。恒星より順に第一惑星、第二惑星は大気がありません。第三惑星、第四惑星は大気があり、濃度は人類の生存許容です。但し第三惑星は、地表温度が二〇度ですが、第四惑星は地表温度が五度と低温ですが、住めないレベルではないようです。第五惑星は大気がありません。第六、第七惑星はガス惑星です。恒星から第四惑星までの距離は二〇光分程度ですが、第五惑星が五〇光分、第六惑星は二光時、第七惑星は四.五光時離れています。第四惑星と第五惑星との間に小惑星帯があります。以上です」

ハウゼー艦長が

「ご苦労」

と言うとそれを聞いていたヘンダーソンは、

まず典型的な移住可能星系だな。リギルは、ミールワッツ星系を超えてこちらには来なかったのだろうか。移住させてもよさそうなものだがそう思いつつ左舷に見える恒星を眺めていた。


ハウゼー艦長は、

「ヘンダーソン司令、ミールワッツ星系方面跳躍点まで三日の行程です」

「分かった」

ヘンダーソンはそう言うとウッドランド大将の顔を見て

「ウッドランド総司令官。第一八艦隊チャン・ギヨン司令とミールワッツ星系に着いてからの行動の最終確認をしたいと思います。総司令官よりギヨン司令にご指示頂けますでしょうか」

本来、このような事は上官であるウッドランド大将に言うべき事ではないが、ミールワッツ星系到着後、いきなり戦端が開いた場合、ギヨンの猪突猛進を押させておかないと面倒になる。

かの宙域では第一九艦隊が、鉱床探査の最終状態のはずだ。戦闘に巻き込まれ大事なデータが無くなっては、何の為の遠征か解らなくなってしまう。キム・ドンファン司令は冷静な人間だ。戦闘が始まっても馬鹿な事はしないだろう。

そう思いながらヘンダーソンはウッドランド大将の言葉を待った。


「ヘンダーソン司令。一時間後に君の司令長官室でギヨン司令と話そう。準備をしてくれ」

通常連絡では三〇光分先にいる第一八艦隊とは三〇分のタイムラグで話す事になる。今ウッドランドがヘンダーソンに依頼したのは、HDGRID(高位次元連絡網)をミニチュア版にしたもので星系間連絡を取るためのネットワークをPTP(ピアツウピア)の交信艦同士で結ばせるという特別な通信方法だ。これによりタイムラグは三〇光分ならば〇.五秒差しかでない。

通常連絡では会話依頼する為に三〇分、このネットワークの構築のために一〇分必要だ。ウッドランドが一時間後と言ったのは余裕を持ってのことだろう。

一時間後、二人は旗艦アルテミッツの司令長官室にいた。スクリーンパネルに映るギヨン司令は、ミルファク航宙軍式敬礼をするとウッドランドも答礼した。3D映像でも映せるが会議に3Dは意味が無い。


「ギヨン司令。先に送った資料に書かれている通り、我々はADSM82星系跳躍点からミールワッツ星系に出たら、第一八艦隊は、第一九艦隊が駐留している第三惑星方面へ向かってもらう。それと同時に第一九艦隊ドンファン司令と連絡を取り現状を把握してくれ。行動指針として三つだ。

第一が最悪の場合だ。リギル星系軍が第一九艦隊と交戦状態に入っている場合、速やかに交戦宙域急行し、第一九艦隊と共にリギル星系軍に応戦してくれ。但し、戦線は拡大するな。

第二に第一九艦隊がリギル星系軍に追跡されていた場合、第一九艦隊と共同でリギル星系軍と対峙してくれ。戦線を開く事は避けるように。

最後は・・この状態を望むのだが・・リギル星系軍が現れておらず、第一九艦隊が駐留を続けていた場合、所定の手続きに沿って鉱床探査を引き継いでくれ。

第一七艦隊はADSM82方面跳躍点から出た後、ペルリオン星系からの跳躍点に向かう。ペルリオン星系軍を牽制する為だ。

もしペルリオン星系軍が現れていた場合は、第一八艦隊と同様に駐留宙域へ急行する。ペルリオン星系軍が後から現れた場合、予定の行動を取る。今回は武力衝突が目的ではない。鉱床探査をリギル星系に認めさせる事だ。不必要な戦闘は絶対に避けなければいけない」


そう言うとウッドランドはギヨンの顔を見た。

「ウッドランド総司令、了解しました。何点か質問がありますが宜しいでしょうか」

「質問を許可する」

「第一のケースの場合、既に戦闘状態になっています。戦線の拡大は避けるにしてもリギル星系軍が手を抜いてくれるとは思いません。正面戦闘になると思いますが、いかがでしょうか」

「第一九艦隊は、数の上で不利になっている可能性が高い。第一九艦隊を支援しつつ、リギル星系軍の攻撃を流してくれ。向こうも好きで戦闘行為に入るとは思えない」

とウッドランドが答えると少しのタイムラグがあった後、

「第一、第二のケースも含めてですが、リギル星系軍が仕掛けてきた場合いかがしますか。受け流すだけでは、我方の損害が大きくなるばかりです」

ウッドランドは

「第一のケースの場合は仕方ない応戦してくれ。第二の場合、出来ればリギル星系軍に戦闘行為に入らないよう交渉してくれ。無理な場合は第一九艦隊と一緒にリギル星系軍に応戦してくれ」

「解りました」

ギヨンが答えるとギヨンの隣にいたボールドウィン主席参謀が

「総司令、質問して宜しいでしょうか」

ウッドランドは軽く頷くとボールドウィンは、

「アンドリュー星系軍は考慮しなくて宜しいでしょうか」

と言った。ボールドウィンの顔を見ながら

「アンドリュー星系軍は情報部からの報告によるとミールワッツ星系に到着するのは二週間後だそうだ。考慮しなくて良いだろう」


ウッドランドは、ギヨンは伝えていないのか、そう言う目をしてボールドウィンの顔を見た。ウッドランドの態度にギヨンは、

「総司令。ミールワッツ星系における我艦隊の行動は解りました。第一七艦隊はペルリオン星系軍対応と言う事ですが、艦数も少ないので万一不利な戦況になった場合、我々は第一七艦隊の支援に回りますか。それともリギル星系軍に対応しておいて宜しいでしょうか」  

それを聞いたヘンダーソンは頭の中がカッとしてスクリーンの中でなかったらその太った体を恒星の中に突っ込んでやると一瞬思ったが、ボールドウィンから話をそらす為のギヨンのいつもの見えだとすぐに分かると一呼吸於いて

「ギヨン司令、我々の艦隊の心配はしなくて宜しい。ご自身の艦隊をまず先に考えてください。我々も第一八艦隊がリギル星系軍に苦戦していても助けに行くには時間がかかりますからな」


実際、ペルリオン星系からの跳躍点から第三惑星まで最大艦速でも二日かかる。応援に行く前に決着がついているだろう。それにリギル星系軍は例の司令官が出てくる可能性があるヘンダーソンは自分の思考を切って、ギヨンも顔を見ると顔を真っ赤にしていた。ウッドランドは二人のやり取りを聞いていたが、

「二人ともその思いはリギル星系軍に向けてくれ。以上だ。終わりにする」

そう言うとギヨン司令と参謀たちは敬礼をしてスクリーンから消えた。


ウッドランドは参謀たちを退席させるとヘンダーソンに

「ミルファク星系を出る前に話していた事だが、ペルリオン星系軍とリギル星系軍が既に第一九艦隊の駐留域に到着しており、鉱床探査を中止させる目的・・表向きだが・・実際は第一九艦隊に仕掛けさせる目的で攻撃を仕掛けてきたらどうする」

ウッドランドの質問にヘンダーソンは

「第一九艦隊司令ドンファン中将は冷静な人間です。戦闘になれば強いですが、無為な行動を起こす人ではありません。総司令の命令通りに動いてくれると信じています」

「ケース二か」

ウッドランドはそう言って既に消えているスクリーンを見つめた。

三日後、第一八艦隊七一二隻の艦艇と強襲揚陸間六〇隻、第一七艦隊六一二隻の艦艇がミールワッツ星系に通じる跳躍点に消えた。

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