第14話 第四章 出動 (3)
(3)
リギル星系ムリファン惑星上空四五〇〇〇キロ。ノースサウス衛星と同軌道を回る第二軍事衛星の宙港にリギル星系評議会代表クロイツ・ハインケル、星系連合体ユニオン議長タミル・ファイツアー、軍事統括ユアン・ファイツアー大将そして第二艦隊司令長官デリル・シャイン中将の姿があった。
ファイアー議長は、ファイツアー大将に
「残念ながら星系交渉部の結果は、望まない方向に動いた。ミールワッツ星系よりミルファク星系軍を追出し、戦線を決して拡大せずにアンドリュー星系軍、ペルリオン星系軍と一緒にミルファク星系軍と対峙してくれれば良い。後は再度、星系交渉部にミルファク星系との和解を探らせる。頼むぞ。今回の結果次第では、同盟星系間に歪が生じかねない」
そう言うと少し目元に皺を寄せて
「ユアン、無理を頼んで申し訳ない」
再度そう言って、ファイツアー議長は甥のファイツアー大将の手を握った。
ファイツアー大将は、後ろに控えているシャイン中将と一緒にリギル式敬礼を行うと
「微力を尽くします」
と言ってシャルンホルスト級航宙戦艦旗艦ベルムストレンの待つドックヤードへ歩いて行った。
両脇には数キロにわたり、航宙戦艦がドックヤードに並んでいる。そうそうたる風景であった。
ドックヤードから航宙戦艦に乗艦する為の誘導路に乗るとファイツアーとシャインは振り向いて再度敬礼をする。
シャルンホルスト級航宙戦艦、全長五五〇メートル、全幅一八〇メートル、全高一〇〇メートル。形状は曲面が緩やかな直方体に上部艦橋を持ち、艦先頭部分に口径一六メートルメガ粒子砲六門、艦の両脇に大きく出ている長距離ミサイル発射管一六門、艦下部に中距離ミサイル発射管一六門そして艦橋の両側にアンチミサイル発射管一六門、パルスレーザ砲一〇門を装備し、艦後部に核融合エンジン四基を備えている。連絡艇のハッチは舷側後方に付いている。
ファイツアーとシャインは、カバーで覆われたエスカレータの前に来ると誘導路を降り、艦の中ほどまで続いているエスカレータに乗った。航宙戦艦は誘導路の面に対して三分の一程度ドックヤードの中に沈む形で係留されている。
エスカレータを降りると艦の中に入る通路につながっている。二人は通路を真直ぐに三〇メートル程行くと左手にあるエレベータに乗った。
艦橋へ行くエレベータである。エレベータを降りて右手に曲がり少し歩くと艦橋の入口がある。二人が中に入ると、旗艦ベルムストレン艦長ジョン・アダムスコット大佐が、敬礼をして
「ファイツアー大将、ベルムストレンへ、ようこそいらっしゃいました」
そう言って笑顔を見せた。二人は答礼をし、ファイツアー大将は
「よろしく頼む」
と言って艦橋を見た。
ここ数年衛星上の勤務になっている為、ファイツアーにとっては久々の艦橋である。艦橋の中では各管制担当官が最後の調整に慌しく動いていた。
艦隊司令長官席から見ると前面と左右側面に多元スペクトルスコープビジョンが、まだ映像を映さないまま白くなっている。
その手間には、メガ粒子砲管制官席、右に右舷パルスレーザ砲管制官席、右舷ミサイル管制官席、左に左舷パルスレーザ砲管制官席、左舷ミサイル管制官席があり、その中央にレーダー管制官席がある。
そして少し高くなっているフロアの前部に艦長席、右後部に艦隊司令長官席、主席参謀席、副参謀席があり、一番左側にオブザーバ席があった。第二艦隊司令官はシャイン中将であり、ファイツアーの今回の派遣艦隊への参加は全艦隊総司令としている為、オブザーバ席に座った。
自分の役割は全艦隊総司令としての判断が必要な時、ユニオン連合派遣艦隊としての判断が必要な時であり、実際の指揮は、先の戦闘でも優秀な戦いを見せたシャイン中将に頼むつもりであった。
WGC3045/12/20 0800
第二軍事衛星より次々と航宙艦がドックを離れて行った。
先頭を進むのは、第四層宙港より出航したビーンズ級哨戒艦、前部及び両舷に直径三〇メートルのレーダーを持ち半径七光時の全象限を索敵範囲に持つ。自星系の為の警戒態勢は取っていない。
次に進むのが第三層宙港より出航したヘーメラー級航宙駆逐艦、全長二五〇メートル、全幅五〇メートル、全高五〇メートルと細身ながら艦前方にレールキャノン八門、艦本体両脇上部にパルスレーザ砲六門、パルスレーザ砲の下部には両舷側に半筒状の近距離ミサイル発射管六門ずつ一二門装備され、その俊敏な動きは、重装備の航宙戦艦も脅威となる。
続いているのが、ハインリヒ級航宙軽巡航艦、ロックウッド級航宙重巡航艦と同じ独特の形状をもつ全長三一〇メートル、全幅二〇〇メートル、全高八〇メートル、両舷のミサイル発射管は、片舷一〇門同時に二〇本の中距離ミサイルを発射でき、艦前部には八メートル粒子砲六門、前部両脇にレールキャノン一二門、艦上部に近距離ミサイル発射管一〇門、アンチミサイル発射管一二門を備えている。
第二層宙港よりロックウッド級航宙重巡航艦、テルマー級航宙巡航戦艦が出航した。
ロックウッド級航宙重巡航艦は全長三四〇メートル、艦本体は一二〇メートルながら全幅二六〇メートル、全高一二〇メートル、全長は航宙戦艦より短いが、艦本体の両脇に腕を出しながら長距離ミサイル発射管を持っているような独特な形状を持つ。
ミサイル発射管は片舷一六門、両舷同時に三二本の長距離ミサイルを発射することが可能であり、更に艦前部には一〇メートル粒子砲六門、前部両脇にレールキャノン一二門、艦上部に近距離ミサイル発射管一〇門、アンチミサイル発射管一六門備える、まさに重装備の巡航艦である。
テルマー級巡航戦艦は、形状は航宙戦艦と同じだが、全長五〇〇メートル、全幅一七〇メートル、全高一〇〇メートルと一回り小さい。前部一六メートルメガ粒子砲四門、後部一〇メートル粒子砲三門、長距離ミサイル発射管一二門、近距離ミサイル発射管二四門、アンチミサイル発射管二四門、パルスレーザ砲一〇門を装備し、半径四光時のレーダー走査範囲を持つ。
同じ時刻、出航の準備が第一層宙港に係留されているシャルンホルスト級航宙戦艦旗艦ベルムストレンと宙港管理センターとの間で行われていた。
「第一層宙港管理センター。こちらドック番号四〇、第二艦隊旗艦ベルムストレン出港準備完了」
「こちら第一層宙港管制センター。ドック番号四〇、エアロック解除します。第四〇航路に沿って出航してください」
管制官からの連絡と同時にベルムストレンを覆っていたドームの前方が大きく両脇に開いた。
ベルムストレンをつなぎ止めていたランチャーロックが解除されゆっくりと誘導ビームにしたがって進み始める。
艦橋では同時に多元スペクトルスコープビジョンが、真っ白な色から星系内の映像を瞬時に映し出した。前方には先に出航し、所定の発進位置に着こうとしている第二艦隊の雄姿があった。航路管制官が
「艦長、後二分で誘導ビーム出ます。第四〇航路進行後、所定の位置に着きます」
「了解」
アダムスコット艦長が返答した。自星系内は、第二級航宙隊形で進む為、宙港を出航後、各艦は所定の位置に着くのである。最後にエリザベート級航宙母艦が発進した。航宙母艦フランシスコを基点に隊形を整えつつある。
第二艦隊旗艦ベルムストレンに各戦隊司令から発進準備完了の報告が届くとアダムスコット艦長は、
「シャイン司令、全艦発進準備完了しました」そう告げた。
シャインは、自分のヘッドセットにあるコムを口元に下ろすと
「こちら第二艦隊司令長官デリル・シャイン中将だ。第二艦隊全艦に告ぐ。本星系内は第二級航宙隊形で航宙する。本星系離脱前に次の航宙隊形を連絡する」
シャインは、自分の言葉が全艦に届くタイムラグを考慮し、一呼吸置くと
「全艦発進」と命じた。
自艦から第二艦隊の先頭の艦まで五〇〇〇キロ、一呼吸おいて丁度いい。
シャインの命令が先頭のビーンズ級哨戒艦パネレの元に届くと第二級航宙速度〇.一光速に加速し始めた。後続に続く艦が順次加速し始める。旗艦のスコープビジョンでは、艦隊の先頭の艦から順次色がグリーンからブルーに変わって行くのが映し出された。
シャインは、前方に広がるスコープビジョンからそれを確認すると
「ファイツアー総司令、発進しました。ミールワッツ星系跳躍点まで五日間の行程です」
そう言うとシャインはファイツアーと目を合わせ頷いた。
シャインは左少し前に座る主席参謀グラドウ大佐、副参謀ライアン中佐の顔をチラッと見ると二人とも少し高揚した顔でスコープビジョンに映る艦隊の姿を見ていた。
「発進直後のこの光景を見ると、誰だって高揚するものだ。事実私も例外ではない」
頭の中で思いながら、艦隊が徐々に速度を上げて行く姿を見ていた。
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