第11話 第三章 リギル (3)


「現在、ミールワッツ星系にいるミルファク星系軍は一個艦隊です。わが星系からは二個艦隊、アンドリュー星系からは一個艦隊、ペルリオン星系からは、半個艦隊を出して頂く。三.五個艦隊の軍事力で圧倒し、できれば戦わずしてミルファク星系軍には、ミールワッツから出て行ってもらいたい」

ファイツアーはそう言うとランドル代表とヤマモト代表を見た。

「ファイツアー代表、半個艦隊と言われましても、すぐに用意できるものではありません。どの位の猶予を考えておられますか」

ランドル代表は、そう言うとファイツアーとハイケルの両方を見た。


「一ヵ月後です」

「一ヵ月後ですって」

今度はヤマモト代表が驚いた声で

「我星系は、各艦隊が常時運用されています。リギル星系のように予備に持っている艦隊などありません。すぐに呼び寄せても出動できるまでには二ヶ月はかかります。軍部とも相談しなければなりません」

「ヤマモト代表。先程も申し上げた通りです。早々と対応しないと、時間がミルファク星系に味方します。事情も御有りでしょうが一ヶ月で出動させて下さい。わが星系軍は、ペルリオン星系軍とともに先行して出動します。今回は時間が重要です」


これを聞いていた軍事統括ユアン・ファイツアー大将は、別の不安があることに気がつかない四人を見ていた。

ミルファクがこのままの状態でミールワッツにいる訳がない。必ず援軍なりを送りこんでくる。三.五個艦隊と言っても、軍艦レベルの航宙艦同士の実戦経験があるのはリギルだけだ。アンドリューとペルリオンはせいぜい宙賊相手が関の山だそう考えると、今回の派遣が思い通りに運ばない不安を募らせていた。


結局、リギル星系主導の派遣では、今後の星系連合体ユニオン代表選出の時、不利になると感じたランドルは、ミールワッツ星系への派遣艦隊を星系連合体ユニオンの派遣とし名前をユニオン連合派遣艦隊とすることで同意した。


星系連合体ユニオンの会議終了後、ランドルとヤマモトが自星系への連絡の為、足早に会議室を出るとファイツアー議長が、

「やれやれ、ランドル代表は、次期ユニオン代表選出のことで頭がいっぱいのようですな。今回の派遣が上手くいかなければ、星系連合そのもの存続も危ういというのに」

その言葉を聞いたハインケル代表はファイツアー議長を見ながら

「自星系におけるご自分の立場もあるのでしょう。今回は、派遣協力を取り付けただけで十分です」

と答えた。そして甥のユアン・ファイツアー大将の方を向き

「ファイツアー提督、至急二個艦隊の出動を準備してくれ。星系評議会の方は私が承認を取り付ける。今回の出動は、あくまでミーワッツ星系にいるミルファク星系軍がユニオン連合派遣艦隊の数を見て戦わずに出て行ってくれることが大前提だ。星系外交部の交渉が終わるぎりぎりまで接触は、無いようにしてくれ」

それを聞いたユアン・ファイツアーは

「解りました。ぎりぎりまで戦闘行為におよばないよう気をつけます。人事については私に任せて頂けますか」

「それは構わない。軍事については君が専門家だ。我々民間人が口に出すことではない」

ハインケルはそう言うとユアン・ファイツアーは、はっきりとした言葉で

「それでは、シャイン提督を今回の派遣艦隊の総司令官に任命しても宜しいですね。彼の戦術は高く評価しています。今回ずいぶんやられたとは言え、彼でなければ、もっと被害が出たでしょう。まして一個艦隊に満たない数の艦数でミルファク星系軍第一七艦隊に優勢に出れるなど、他の提督では不可能です」

ハインケル代表とタミル・ファイツアー議長は顔を見合わせ頷くとハインケルは、

「君に任せる」

と言った。


叔父のタミル・ファイツアー議長のオフィスを出るとユアン・ファイツアーは、自走エアカーに乗り自分のオフィスに向かった。オフィスに着くなりスクリーンパネルのセクレタリボタンを押して

「シャイン中将に私のオフィスに来るよう伝えてくれ」

そう言うと眉間に手をやり、目をつむると椅子の背にぐっと寄り掛かった。


軍人は暇なことが世の平和の印。我々が公に動き出す時は、世の中が、憎しみを生み出す産声を上げる時だ。

軍人は死とは隣合わせだ。しかし、軍人を家族に持つ民間人にとって、家族の死は悲しみと憎しみに変わる。憎しみは憎しみを呼ぶ。人類は幾度となくこれを繰り返してきた。今回も同じことになる。

それにもしミルファク星系軍が援軍を送り込んで来たら、この戦いを機に長期戦になる可能性もある。そうなれば戦いはミールワッツだけに留まらない。我星系にそれに耐えうるだけの経済力があるのだろうか。経済力、軍事力、資源力において、我星系を上回るミルファク星系に真っ向から挑むのは無理があるような気がする。

胸の中で呟くように言うと、それを振り切るように軍人は軍人の仕事をしよう。そう言ってデスクに向かった。


ファイツアー大将の呼出しを受けたシャイン中将は、すぐにマーブル中尉に連絡艇の手配を指示すると

私の処分が決まったのか。しかし、査問委員会も開かれていないし、そもそも降格や予備役編入などの連絡は星系軍本部の仕事だ。ファイツアー大将からの呼出しとはどういうことだ。胸に疑問を抱えながらも、すばやく身支度を整え、鏡の前で目をはっきり開け眉毛を上げると上着の裾を引っ張った。


自走エアカーの前で不安そうな顔をしながら待つマーブル中尉に

「煮て食われる訳でもなければ、焼いて食われる訳でもない。心配そうな顔をするな」

そう笑顔でマーブル中尉に言うとエアカーのウィングを開けて乗り込んだ。

シャインは宙港で連絡艇に乗り、指定軌道にて第二軍事衛星を左に見るとこの景色も当分、いやもう見られないかもしれない。そう心に呟きながら自分が予備役編入を覚悟している事を自覚した。


二時間後、シャインはファイツアー大将のオフィスの前に着くと再度服を正し、オフィスに入った。リギル航宙軍式敬礼を行ったシャインは、ファイツアー大将の答礼が終わると直立の姿勢を取った。

「シャイン中将。そんなに固くなってどうしたのかね。いつもの君らしくないが」

それを見たファイツアーがそう言うと、

「はっ、私の処分について、本来本部事務方の仕事をわざわざ閣下直々のご命令と受け取っております。航宙軍最後の命令を・・」

そこまで言ったシャイン提督の言葉を抑えて、ファイツアーは

「確かに命令だが、処分ではない。星系連合体ユニオン評議会の結論が出た。ミールワッツ星系にユニオン連合派遣艦隊として三.五個艦隊を送る。同盟星系との混成艦隊だが、二個艦隊は我星系軍だ。その艦隊総司令官に君を任命する。これが命令書だ」


ファイツアーの言葉にシャインが言葉を詰まらせていると

「いやか」

と少し笑いを堪えながらシャインに尋ねた。

「いえ、とんでも。ありません。しかし、私は、予備役に編入させられるものとばかり思っておりましたので」

シャインの応答に

「我星系軍は有能な将官を遊ばせておくほど、やさしい組織ではないということだよ。君の手腕に私は期待している」

ファイツアーの言葉に意味を理解したシャインは、

「ありがとうございます」

それだけ言うと笑顔をファイツアーに見せた。そして

「質問があります。三.五艦隊と言うのはどういうことでしょうか」

「我星系から第一艦隊と第三艦隊の二個艦隊、アンドリュー星系から一個艦隊そしてペルリオン星系から半個艦隊と言う訳だ。ランドル代表が艦隊を参加させるのを渋りおったが一隻も出さないでは、事が終わった時、まずいと思ったのだろ。それにそもそもペルリオン星系は、通常編成とは違う艦隊編成だからな。仕方ないところだ」

「よくペルリオン星系が半個艦隊も出しましたね。合同演習の時に見ましたが、ほぼ全鑑に等しいです。これでは、輸送艦の護衛が滞ります」


ファイツアーの考えにシャインは自分の考えを言うと

「今回の件が終わらなければビジネスどころではないと考えたのだろう。ランドル代表は」

ファイツアーは自分の考えを言った。

「ところで今回は第二艦隊にも出動してもらう。帰還したばかりで将兵は疲れているだろうが、仕方ない。それと第二艦隊に艦の補充を行う。シャルンホルスト級航宙戦艦一〇隻、エリザベート級航宙母艦一二隻、テルマー級巡航戦艦二〇隻、ロックウッド級航宙重巡航艦二〇隻、ハインリヒ級航宙軽巡航艦二〇隻、ヘーメラー級航宙駆逐艦三〇隻だ。現状はこれが精一杯だ。フルスペックとは行かないが、修復した艦も合わせれば、帰還直後の編成状況よりは良いはずだ。今回の出動は一ヵ月後だ。時間はないが宜しく頼む。但し、アンドリュー星系軍は、都合で更に三週間遅れて出動する。すぐに開戦する予定ではないので構わないと思ったのだろう」

これを聞いたシャインは、後がないな。失敗は許されないと頭の中で考えるとファイツアーに

「今回の出動。必ず成功させて見せます」

と言って敬礼した。ファイツアーが答礼するとシャインはファイツアーのオフィスを後にした。


しかし、一ヵ月後とは、また急いているものだ。準備をしっかりしないと足元を自分ですくうことになる。ペルリオン星系軍はまだしも、アンドリュー星系軍は当てに出来ないだろう。まだ、合同演習もやったことが無い軍と統率の取れた作戦が出来るとは思えないシャインは自走エアカーに乗りながら考えた。


結局、シャインが率いるユニオン連合派遣艦隊の編成は、ヤン・マーブル中将率いる第一艦隊とミル・アンダーソン中将率いる第三艦隊そしてデリル・シャイン中将率いる第二艦隊これにアンドリュー星系軍一個艦隊とペルリオン星系軍半個艦隊だ。

今回は総司令官としてユアン・ファイツアー大将が、デリル・シャイン中将のシャルンホルスト級航宙戦艦旗艦ベルムストレンに乗艦する事になった。

見かけ上は四.五個艦隊に見えるが、アンドリュー星系軍が当てに出来ないことやデリル・シャインでなければという考えからファイツアーが星系軍本部にごり押しして許可させたのであった。


一ヵ月後、第一艦隊が基地とする第一軍事衛星、第二艦隊が基地とする第二軍事衛星、第三艦隊が基地とする第三軍事衛星は、出発前の喧騒の世界にあった。

デリル・シャインは、スクリーンパネル上に映る艦隊編成表を見ながら、見かけの数は立派だが、アンドリュー星系軍は、三週間後、ペルリオン星系軍もミールワッツ星系に直接向かうという。実際の即時稼動艦は、リギル星系軍の一八〇七隻だ。ミルファク星系軍は、こちらの編成を読んだ上で仕掛けてくるだろう。

数を見せてミールワッツ星系に駐留するミルファク星系軍が一時的に撤退したとしてもその後ろに本艦隊がいたら真っ向からぶつかることになる。このことを想定した対応しないと被害が大きいだけで利が無い結果に終わりかねない。そう考えながら、未だ完全修復が終わっていない中破以上の各艦艇の整備状況を見ていた。


結局、ユニオン連合派遣艦隊の編成はリギル星系軍より

第一艦隊 艦隊司令 ヤン・マーブル中将

シャルンホルスト級航宙戦艦四〇隻

テルマー級航宙巡航戦艦四〇隻

ロックウッド級航宙重巡航艦六四隻

ハインリヒ級航宙軽巡航艦六四隻

ヘーメラー級航宙駆逐艦一九二隻

ビーンズ級哨戒艦一九二隻

ライト級高速補給艦二四隻

エリザベート級航宙母艦三二隻

ミレニアン戦闘機五一二〇機

艦艇数 六四八隻


第二艦隊 艦隊司令 デリル・シャイン中将

シャルンホルスト級航宙戦艦二五隻

テルマー級航宙巡航戦艦三一隻

ロックウッド級航宙重巡航艦四〇隻

ハインリヒ級航宙軽巡航艦四〇隻

ヘーメラー級航宙駆逐艦一三七隻

ビーンズ級哨戒艦一九二隻

ライト級高速補給艦二四隻

エリザベート級航宙母艦二二隻

ミレニアン戦闘機三五二〇機

艦艇数 五一一隻


第三艦隊 艦隊司令 ミル・アンダーソン中将

シャルンホルスト級航宙戦艦四〇隻

テルマー級航宙巡航戦艦四〇隻

ロックウッド級航宙重巡航艦六四隻

ハインリヒ級航宙軽巡航艦六四隻

ヘーメラー級航宙駆逐艦一九二隻

ビーンズ級哨戒艦一九二隻

ライト級高速補給艦二四隻

エリザベート級航宙母艦三二隻

ミレニアン戦闘機五一二〇機

艦艇数 六四八隻


ペルリオン星系軍より

シャルンホルスト級航宙戦艦二〇隻

テルマー級航宙巡航戦艦二〇隻

ロックウッド級航宙重巡航艦三二隻

ハインリヒ級航宙軽巡航艦三二隻

ヘーメラー級航宙駆逐艦九六隻

ビーンズ級哨戒艦九六隻

ライト級高速補給艦一二隻

艦艇数 三〇八隻


アンドリュー星系軍より

シャルンホルスト級航宙戦艦四〇隻

テルマー級航宙巡航戦艦四〇隻

ロックウッド級航宙重巡航艦六四隻

ハインリヒ級航宙軽巡航艦六四隻

ヘーメラー級航宙駆逐艦一九二隻

ビーンズ級哨戒艦一九二隻

ライト級高速補給艦二四隻

エリザベート級航宙母艦二〇隻

ミレニアン戦闘機三二〇〇機

艦艇数 六三六隻

総艦艇数二七五一隻

これがユニオン連合派遣艦隊の総数である。

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