第9話 第三章 リギル (1)

第三章 リギル


(1)


銀河の西に位置するオリオン宙域のはずれにあり、ペルセウス宙域方向を望む宙域にあるリギル星系。オリオン宙域のはずれにある太陽系からは四五光年と近く人類が初めて移住した星系である。


リギル恒星を中心に七つの惑星があり、第三惑星ムリファンと第四惑星ハタルが人類の住む惑星。それより遠くにある第五惑星レオンは人類が住むに適していないが、衛星を四つ持ち、資源豊富な惑星である。第六惑星は、周辺を岩石の輪で覆われており、人類が住むに適していない。第七惑星はガス惑星である。

周辺宙域三〇〇光年にあるアンドリュー星系とは、今から五〇年前に軍事協力を目的として同盟を結んだ。また周辺宙域四〇〇光年にあるペルリオン星系とは資源調達を優先してもらう代わりに軍事的技術供与を行うことを目的として同盟を結んだ。


リギル星系はアンドリュー星系とペルリオン星系を含めて同盟とし、名前を星系連合体ユニオンとした。星系連合体ユニオンは各星系の代表者から構成され、同盟に関わる経済、軍事について双方の協力の元、共同歩調を取るようにしており、星系外の対外的な交渉については星系連合体ユニオンが決定することになっている。

各星系の自治については、各星系独自の事とし、リギル星系では、星系評議会がリギル星系を統括し、リギル星系の第三惑星ムリファンを首都星と定めている。

軍事組織はリギル星系を主体としているが、各星系からの派遣艦隊と合同で構成されている。


首都星、第三惑星ムリファンの上空四五〇〇〇キロに浮かぶノースサウス衛星・・・

直径八キロ、厚さ二キロの円盤状の外形を持つ衛星。

円盤の上部は、強化軽合金クリスタルパネルで覆われ、恒星の光を吸収し、その内側にある五六キロ平方に人類としては初めて牧草、田園地帯を持ち食料の自給自足が出来るようになっていると共にこの衛星の空気の一部をまかなう大事な区画になっている。

衛星内部は大きく二層に別れていて、上部の外円から二キロまでが大きく四ブロック、円を四分の一ずつ区切った軍事、政治、警察の中枢区をなし、残り四分の一が商用区、そして外形の中心から半径二キロがこの衛星の住人の居住区としている。


自走エアカーが通る道は、外側から大きく三本の環状線が走っており、正式名第一号外環状、第二号中環状、第三号内環状と呼ぶが通称は番号を外した外環とかで呼ばれている。

この環状にクロスするように〇度、四五度、九〇度、一三五度で交差する四本の幹線が走っており移住区や各オフィスへは、この幹線か環状線を走れば行ける様になっている。

下部は外円から二キロを宙港と資材地区で分けており、中心半径二キロをこの衛星の心臓部であるエネルギープラントとグラビティユニットが占めている。

宙港は二段式になっていて、上部星系間連絡艦、下部が惑星間連絡艇、衛星間連絡艇が出入りできるようになっている。


星系評議会は中枢区の政治地区の一角にオフィスを構えている。そのオフィスの中で

「一体、どうなっているのです」

スクリーンパネルの向こうで厳しい口調で叫ぶ星系連合体ユニオン代表タミル・ファイツアーをリギル星系代表クロイツ・ハインケルは、冷静に見つめると

「私も先程報告を受けたばかりです。詳細については、追って連絡します」

そう言うと一方的にスクリーンをオフにした。

自分のオフィスに来させているユアン・ファイツアー大将に話しかけた。


「提督、なぜこのような事態になったのかね。シャイン提督の報告ではミルファク星系軍が先に攻撃を仕掛けてきたと聞いているが、それは事実なのかね」

「第一〇一広域偵察艦隊所属航宙軽巡航艦テルマーテよりミルファク星系軍がミールワッツ星系外縁部に到着したことは、報告が届いておりますが、その後、連絡が途絶えました。更にその後、シャイン提督よりミルファク星系軍と交戦状態入った報告を受けています」

「それでは、向こうから仕掛けてきたかどうか、全くわからないではないか。今回の件で同盟星系は非常に動揺している。何としてもミルファク星系軍の攻撃により我々が被害を受けたことにしなければ、今後の同盟関係に支障がでる。同盟解消まではいかないだろうが、資源調達などに相当の影響が出るぞ。もしそうなれば、わが星系は大変なことになる」


ファイツアーは叔父にあたるユニオン代表タミル・ファイツアーの顔を思い浮かべながらハインケル代表の言葉を聞いていた。

「シャイン中将より直接、話を聞きます。そのうえで対策を立てます」

ファイツアーは、ハインケルに敬礼すると彼のオフィスを出て行った。ファイツアー大将のオフィスは、政治地区の隣に位置する軍事地区のブロックでハインケル代表のオフィスより自走エアカーで一〇分のところにある。

ファイツアーが自分のオフィスに戻るとすぐにデスクにあるスクリーンパネルのセクレタリボタンを押した。

「すぐにシャイン中将に連絡を取り、私のオフィスに来るように言ってくれ」

そう告げるとファイツアーは壁のスクリーンパネルにあるリギル星系を含む同盟領とミールワッツ星系の星系図を見ていた。


シャイン中将率いる第二艦隊が母港と定める第二軍事衛星は、ファイツアー提督のオフィスがあるノースサウス衛星と同一軌道上にあった。呼出しを受けたシャインは、セクレタリのメグ・マーブル中尉に

「ファイツアー大将のオフィスに出かける。すぐに連絡艇を手配してくれ」

そういうと、鏡の前で自分の顔見て、目と眉毛をぐっと引き締めると上着の裾を引っ張り、ふっとため息を漏らし、オフィスを出た。


今回の件は、簡単には片付くまい、責任も中途半端ではないな。降格もしくは予備役に編入されるかもしれん。そう考えながら移動通路に出ると宙港に向かう自走エアカーの前に立ってシャインを待つ、マーブル中尉を見た。

二時間後、連絡艇にてファイツアー提督のオフィスの前にいた。

到着の報告を先にセクレタリより聞いていたファイツアーはシャインがオフィスの前に来ると扉を開けた。


シャインの敬礼にファイツアーは答礼するとテーブルの前にある椅子を勧めた。

ファイツアーがデスクにあるパネルのボタンを押すと脇のドアからセクレタリをしているエラーソン中尉が出てきた。

「中尉はじめてくれ」

ファイツアーがそう言うと部屋がだんだん暗くなり、テーブルの上にリギル星系と同盟星系であるアンドリュー星系、ペルリオン星系が現れてきた。

やがてリギル星系とペルリオン星系を結ぶ底辺の両端から三角形の頂点に向かって光が伸びると頂点の周辺にミールワッツ星系が現れてきた。

ミールワッツ星系がテーブルの中央に移動し3Dの四象限体で拡大される。

中央にミールワッツ主星、アルファ軸に四つの惑星そして第三象限の星系外縁部にペルリオン星系から戻ってくるペルリオン軍との合同事演習から帰還途中の第二艦隊が映し出された。


「シャイン中将、君の報告は読んだ。二つ解らないことがある。一つは第一〇一広域偵察艦隊の行方だ。そしてもう一つ、なぜ戦闘状態になったのかね」

ファイツアーの質問に一瞬考えた後、シャインは口を切った。

「第一〇一広域偵察艦隊からミルファク星系軍を発見した報告を聞いたのが、ちょうど今、映し出されている位置です。その後、リギル星系への帰還予定航路に従い、航宙していたところ、ミールワッツ第三惑星より前方一〇〇〇万キロの位置に敵艦隊を発見しました。わが軍からの四二光分です。予定航路にて航宙した場合、双方の主砲射程内に入ることになります。エネルギー、補給資材を考慮し、三〇光分後退し、万一の為の体制にして再度、進行しました。予定航路上に機雷源が敷設されていた為、やむなく左舷迂回航路をとった時、交戦状態に入りました」

淡々と説明するシャインの顔見ながらファイツアーは、この男は戦いたかったのではないかと感じていた。


「最後に第一○一広域偵察艦隊ですが、最後の報告が発信された地域を通過しました時、あの宙域としては、多すぎるデブリを確認しました。また、艦艇の爆発に伴う放射エネルギーの残存を確認しましたが、艦隊の影も形もありませんでした。もし、攻撃を受けていたとしたら、粉々に破壊されたと思われます」

シャインの話を聞いたファイツアーは、

「機雷源を右舷に迂回して交戦を避けることはできなかったのかね」

「その場合、ミールワッツ恒星の重力磁場を通ることになります。航路局からも恒星が不安定な為、近寄らないように指示が出ています。そこで左舷迂回しましたが、敵ミサイルを感知した段階で交戦状態に入りました」

シャイン提督の話に多少の疑問を持ちながら、これ以上この男の事を掘り下げても評議会の餌になるだけだと考えると、言葉をつないだ。


「君の報告によると今回の件について、これはあくまで偶発的な遭遇戦であり、敵の攻撃に対応しただけである。今回の多大な損害は、ミルファク軍第一九艦隊の出現により、当初優勢であった隊形が破られ、やむなく撤退に至った。ということで正しいかね」

「間違いありません」

そうファイツアーの結論に同意を示すと

「シャイン中将、今回の君の処分については、追って連絡する。それまで自身のオフィスで謹慎するように」

シャインはファイツアーの言葉に一瞬、顔をこわばらせたが、リギル航宙軍式敬礼をしてファイツアーのオフィスを出て行った。

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