第8話 第二章 ミルファク (4)


(4)

全員が座っているテーブルの前にミールワッツ恒星を主星とするミールワッツ星系が現れた。続いて、第二、第三惑星付近に駐留する第一九艦隊が現れた。

第一九艦隊は、主力艦をリギル星系方面に防御隊形である台形型で布陣し、補助艦艇を第二、第三惑星付近に駐留させ、その周りを駆逐艦、軽巡航艦で固めている。哨戒艦は星系各方面に展開している。


「諸君、ユニオン加盟軍はどう出てくると思う」

ウッドランドの質問に第一七艦隊主席参謀ウォッカー大佐が答えた。

「普段単独行動をとっているリギル星系軍、ペルリオン星系軍、アンドリュー星系軍の艦隊が一つの艦隊として作戦行動をとることは難しいと考えます。更にリギル星系とペルリオン星系は四〇〇光年、リギル星系とアンドリュー星系は三〇〇光年、公式航路チャートでは、互いの合流にそれぞれ六日と五日かかります。リギル星系に同盟艦隊が合流してミールワッツ星系に進行することは無いと考えます。ここは艦隊編成が少ないと考えられるペルリオン星系軍を先に叩き、次にリギル星系軍、アンドリュー星系軍の順で攻撃すれば各個撃破ができ、我星系軍の被害も少なくて済みます」


「理想ですが、敵がミールワッツ星系に個別に派遣すればの話です。各個撃破されることが解っていて、その愚を犯すでしょうか。ここは、ユニオン加盟軍の全艦艇が一つのグループで動くと考えるのが上策かと思います」

ウォッカー主席参謀の考えに第一八艦隊主席参謀ボールドウィン大佐は、反論した。


「発言宜しいでしょうか」

主席参謀同士の会話に、礼儀として聞いたホフマン副参謀は、

「ユニオン加盟軍と言っても寄せ集めではありますが、主力と考えられるリギル星系軍は、正規艦隊として三個艦隊以上の軍事力を保有していると聞いています。先の戦闘で一個艦隊の大半を失ったとはいえ、二個艦隊が出てくると、十分それだけで脅威になります。アンドリュー星系軍、ペルリオン星系軍を補助数としても三個艦隊以上の脅威になります。まずリギル星系軍を先に叩くのがよいと小官は考えます。他の二星系軍は、艦艇数は整っていますが、それ程の力は出せないと思います。状況において対応できるのではないでしょうか」


「まず一番強い敵から叩く。戦術の常識だな。しかし、リギル星系軍が戦っている間、他の二星系軍が見ているわけでもあるまい。それはどうするのだ」

ホフマン副参謀の考えに第一八艦隊副参謀のウエダ中佐が聞くと

「リギル主力艦隊を第一八艦隊と第一九艦隊に対応して頂き、アンドリュー星系軍及びペルリオン星系軍を艦艇数の少ない第一七艦隊が対応するということではどうでしょうか」


ホフマン中佐の言葉にギヨン中将は、にやりとして

「ホフマン副参謀の意見に賛成だ。ヘンダーソン中将どうかね」

自分自身が主役になった気持ちになっているギヨンは、ヘンダーソンの顔を見ながら自慢げに言った。

「ホフマン副参謀の考えでよいでしょう」

ヘンダーソンは答えながら、この男は、リギル星系にあの司令官がいる事を知らない。とりあえずここは花を持たしておくか。しかしいつもながらホフマンは持って行き方がうまいなと頭の中で考えていた。


ウッドランドはヘンダーソン中将とギヨン中将の意見の一致を見たと感じると

「それでは、先程話した布陣で行く。現場における判断は柔軟に行ってくれ」

そういうと、ナカタニ中尉に三次元ディスプレイを消して次の映像を出すよう指示した。

「艦隊編成は以下の通りだ」


続いて、テーブルに長方形型の透明なパネルがテーブル上に縦に現れると、各艦隊の編成表が映し出された。

第一七艦隊 艦隊司令 チャールズ・ヘンダーソン中将

アガメムノン級航宙戦艦二七隻

ポセイドン級航宙巡航戦艦四〇隻

アテナ級航宙重巡航艦五二隻

ワイナー級航宙軽巡航艦一一五隻

ヘルメース級航宙駆逐艦一六四隻

アルテミス級航宙母艦二七隻

ホタル級哨戒艦一六四隻

タイタン級高速補給艦三二隻

スパルタカス戦闘機三二七一機

艦艇数 六二一隻


第一八艦隊 艦隊司令 チャン・ギヨン中将

アガメムノン級航宙戦艦三二隻

ポセイドン級航宙巡航戦艦四八隻

アテナ級航宙重巡航艦六四隻

ワイナー級航宙軽巡航艦一二八隻

ヘルメース級航宙駆逐艦一九二隻

アルテミス級航宙母艦三二隻

ホタル級哨戒艦一九二隻

タイタン級高速補給艦二四隻

スパルタカス戦闘機三五八四機

艦艇数 七一二隻 他に陸戦隊三〇〇〇名。強襲揚陸艦六〇隻

総艦艇数一三三三隻


「これに派遣中の第一九艦隊七一二隻が加わる。私は総司令官として第一七艦隊旗艦アルテミッツに乗艦する」

ヘンダーソン中将とギヨン中将の顔見ながらウッドランドは、

「アルテミッツは新鋭艦だ。通信能力に優れている。戦闘中に於ける状況変化を逐次受けながら対応するには、適切な艦だ」

そう言うと、ヘンダーソンの顔を見た。

ヘンダーソンは分かっていますという表情でウッドランドを見た。ギヨンは面白くないながらも大将の判断には口は出せない。

アガメムノン級航宙戦艦アルテミッツ、前部二〇メートルメガ粒子砲四門、後部一六メートルメガ粒子砲三門、長距離ミサイル発射管一二門、近距離ミサイル発射管二四門、アンチミサイル発射管二四門、パルスレーザ砲一〇門、大型核融合エンジン四基を持つ長さ六〇〇メートル、幅二〇〇メートル、高さ一二〇メートルの航宙戦艦である。特筆すべきは、レーダー機能で半径七光時の走査範囲を持つ。

通常の航宙戦艦がレーダー走査範囲四光時に比べると格段の能力である。また、防御力も強く、三〇万キロの至近からの二〇メートルメガ粒子砲を受け止めるシールドを前部に備えている。


ウッドランドはナカタニ中尉に映像を消すよう促すと

「出発は二週間後のWGC3045/10/25、0800だ。各自、艦隊出動の準備をしてくれ」

そういってヘンダーソン中将とギヨン中将を見た。

提督とその参謀たちが敬礼して航宙軍作戦会議室を出る姿を見ながら、ウッドランドは

「ナカタニ中尉、私はオフィスに戻る」

と言った。

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