第4話 第一章 遭遇 (4)

(4)

 戦闘開始から三時間。

 ミルファク軍は数の優位差を生かせず不利な状況に陥っていた。開いた花びらが閉じるようにリギル星系軍は上下左右からミルファク星系軍を攻撃して行った。

 当初、数の優位で押していたミルファク星系軍もリギル星系軍第二艦隊デリル・シャインの戦術に徐々に押された。

 ミルファク星系軍左翼を守るマイケル・キャンベル少将率いるA2Gだけが、リギルの右の花びらを食いちぎる様な善戦を見せている。


「少してこずったが、何とか勝てそうだな」

とデリル・シャインは言うとそれに頷きながら

「しかし、このまま勝ったとしても惑星上の施設はどうします。陸戦隊はつれてきていないし、惑星攻撃用兵器も搭載していません」

とグラドウ主席参謀は言った。

「なあに、補給がなければ干上がるさ。かわいそうだがな」

と言うとほとんど勝利を確信していたシャインは前方のスコープビジョンに映し出される映像を見ていた。


「左舷よりエネルギー波多数接近」


「ふうっ。危ないところだった」

 旗艦アルテミッツに乗るアッテンボロー副参謀はそう言うとヘンダーソン司令を横目で見た。

 既に味方の三割を失い、劣勢にたたされていたミルファク星系軍は、ぎりぎりのところで味方艦隊に助けられたのである。

 駆けつけたのは、ミルファク星系先遣艦隊第一七艦隊の後に惑星の鉱床探査を行う予定だったキム・ドンファン中将率いるミルファク星系遠征軍第一九艦隊である。


「なんとか、間に合ったな」

ヘンダーソン中将はそういうと

「体制を立て直す。第一九艦隊に呼応していっきにリギルのやつらを押し返せ」


 リギル星系軍は、第一九艦隊の攻撃に左の花びらがぼろぼろになって行った。元々前方の敵を考慮した戦術である。少ない艦数で敵を討つには適しているが、花びらのように開いている分側面は薄い。

 更に右側の花びらもキャンベル少将率いるミルファクA2Gにやられている。中央の二枚の花びらだけで、自軍に倍する敵にかなうはずがなかった。リギル星系軍は徐々に右後方に動かされて行った。


「これ以上右に行くと機雷源に接触します」

グラドウ主席参謀が、そう言った時であった。機雷源の一番左側に位置する機雷群が、ぼろぼろになった右の花びらめがけて迫ってきた。

「下だ。全艦そのままの位置からガンマ三一〇。潜れー」

 立ち上がりながら、ほぼ絶叫に近い声でシャイン中将は言うと、司令官の椅子にどっと倒れこんだ。


 二時間後、リギル星系群は艦数を二分の一近くに減らしながら何とか、窮地を脱した。左上にミールワッツ恒星を見ながら、何とか逃げ切れた艦隊の状況をスクリーンビジョンに見ながら

「グラドウ主席参謀。被害状況をすぐに報告してくれ」

「はっ」

グラドウはそういうと自分前にあるスクリーンパネルに手早く指示を打ち込んだ。


五分後、

「被害状況がわかりました。すぐに司令のスクリーンパネルに送ります」

映し出された数字を見てシャイン中将は、左の脇腹を押さえた。


シャルンホルスト級戦艦三二隻中、撃沈一二隻、大破五隻、中破六隻、小破二隻

エリザベート級戦闘母艦三二隻中、撃沈八隻、大破六隻、中破一二隻、小破二隻

ミレニアン艦載機四〇〇〇機中、未帰還一二〇〇機、使用不能と判断された機数六〇〇機

テルマー級巡航戦艦三二隻中、撃沈一五隻、大破六隻、中破五隻、小破三隻

ロックウッド級重巡航艦五二隻中、撃沈一二隻、大破七隻、中破五隻、小破一〇隻

ハインリヒ級軽巡航艦五二隻中、撃沈二〇隻、大破一二隻、中破七隻、小破三隻

ヘーメラー級駆逐艦一五三隻中、撃沈三〇隻、大破一五隻、中破三五隻、小破一〇隻

ビーンズ級哨戒艦およびライト級高速補給艦 損害無し


「なお、撃沈及び大破が確認された艦は、戦闘宙域に残したままです」

左側の花びらを受け持ったグループは全滅、右側の花びらを受け持ったグループの損耗率六割。上下の花びらの損耗率二割。

「何と言うことだ。あの時、無理に戦わずにいればこのような損害は出さずにすんだものを。私の責任だ」

「グラドウ主席参謀。中波と判断された艦の状況はどうだ」

「はっ。全艦航行可能ですが、通常航行の七〇%しか出せない艦が二五隻います。位相慣性航法による跳躍が不可能です。またミルファク星系軍が追ってきた場合、すぐに追いつかれます」

「それはないと思います。ミルファク星系軍の目的は資源惑星の確保です。我々との戦闘は、予定外の行動と考えます。彼らが我々を追いかけてくる理由はありません」

グラドウ主席参謀の言葉にライアン副参謀は言い返した。

「確かにな。しかし、全く追っ手がこないという保証もない。艦速に問題がある艦は、乗員を他の艦に移乗後、爆破しろ」

「しかし、それでは、星系に帰還後、責任を問われます」

「構わん。責任は私が取る。艦はいくらでも作れるが、ここでこれ以上の人的被害を出すわけには行かない」

シャインはそう言うと頭の中でもう既に責任を取らされる立場になっている。今更少し重くなったところでたいしたことは無い。乗員の命が優先だ、そうつぶやいた。

 シャイン司令の言葉にグラドウ主席参謀もライアン副参謀も出る言葉が無かった。

 責任を部下に 押し付ける将官が多い中でこの人は将官の責務をわきまえているようだ。しかし、私も責任は免れないだろう頭の中でそう考えたグラドウ主席参謀は、頭を振ってすぐに自分の考えを打ち消すと自席にあるコムに向かって

「シャイン司令の命令を伝える。艦速に問題のある艦は、すぐに乗員を近くの艦に移乗。その後、艦を爆破。以上だ」

 一瞬、艦橋がざわついたが、グラドウ主席参謀が見つめるとすぐに静かになった。


二時間後、更に少なくなった艦数を見つめながらシャイン中将は

「全艦、帰還する。進路をリギル星系に取れ」


 その頃、ミールワッツ星系調査派遣艦隊第一七艦隊も体制を立て直し、ヘンダーソン中将も被害報告を見ていた。


アガメムノン級航宙戦艦四〇隻中、撃沈五隻、大破四隻、中破三隻、小破五隻

アルテミス級航宙母艦三二隻中、撃沈三隻、大破四隻、中破二隻、小破一隻

スパルタカス戦闘機三五八四機中、未帰還二六〇、使用不能と判断された戦闘機五三機

ポセイドン級航宙巡航戦艦四八隻中、撃沈七隻、大破八隻、中破六隻、小破三隻

アテナ級航宙重巡航艦六四隻中、撃沈八隻、大破五隻、中破八隻、小破一二隻

ワイナー級航宙軽巡航艦一二八隻中、撃沈一〇隻、大破三隻、中破八隻、小破一二隻

ヘルメース級航宙駆逐艦一九二隻中、撃沈二〇隻、大破八隻、中破六隻、小破一〇隻

ホタル級哨戒艦、タイタン級高速補給艦に損害無し

哨戒艦、高速補給艦などの補助艦艇は戦闘時、後部に下がらせるため被害はでない。


 今回の派遣目的は資源惑星の鉱床調査。その為にリギル星系軍に悟られない航路を選びここまで来た。調査もほぼ順調に進みもう少しで終わる予定だったはずである。まさかこのタイミングでリギル艦隊と戦闘になるとは、全く予想していなかったことだ。艦隊体制も艦隊戦まで考慮したものではない。鉱床探査のための体制だ。そう考えながらもこれだけの被害を出すとは頭の中でそう考えながらヘンダーソン中将は被害報告をみていた。

「グラドウ主席参謀。破壊された艦の修復予定がまとまり次第報告してくれ。鉱床探査の再開予定も至急報告してくれ」

と言うと

「修復予定は今、調べさせています。損害が多きいため、修復見積もりに時間がかかっています。鉱床探査の再開はすぐにでも行えます」


「アシュレイ少将。鉱床探査をすぐに再開してくれ。調査再開の時間と残った探査作業含め、どのくらいの時間になる」

「戦闘開始が分かった時点で、回収した磁気探査艇とメガトロンを元の位置に戻すのに半日、作業は残り二日です。第一九艦隊との引継ぎが一日を予定していますので、すべて終了するまで三.五日を予定しています」

「わかった。すぐに再開してくれ」

アシュレイ少将からの報告を受け終わるとヘンダーソン中将は司令席にあるパネルに第一九艦隊司令キム・ドンファン中将を呼び出すよう指示を入れた。


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