第2話 第一章 遭遇(2)
「いつまでもお前たちとお散歩しているとでも思ったのか」
ミールワッツ星系調査派遣艦隊が星系外縁部に到着し、リギル星系第一〇一広域偵察艦隊に発見されてから、ヘンダーソン中将は、自分たちについてくる偵察艦隊の航路を予測させた。
その航路を後方より追随するようにワイナー級航宙重巡航艦から慣性航法射出によって発射された六四発の長距離ミサイルが攻撃したのである。
レーダー探知による軌道射出だとレーダーの逆探知による迎撃により撃ち落とされる確率が高い為、レーダー探知軌道は、艦隊同士の近接戦闘の時しか使えない。
慣性航法射出により発射された長距離ミサイルは、計算された軌道にのり目標の三〇万キロまで近づいた時、自ら目標に対してレーダーを射出し、相互連動しながら、目標に向かって進むのである。
「司令、敵偵察部隊の全滅を確認しました。」
「たった一〇隻に六四発のミサイルは多すぎたかもしれないな。無駄使いかな」
「しかし、慣性航法射出では、敵の軌道変更に対応できない為、複数航路に射出しなければなりません。仕方ないと思います」
第一七艦隊司令チャールズ・ヘンダーソン中将は、少し低い左前方に座るアッテンボロー副参謀に目を流すと解っているというような目線を送った。
「陸戦隊長のルイ・アシュレイ少将を呼び出してくれ」
二分後・・・
「司令。お呼びですか」
「第二、第三惑星の展開は予定通りか。」
「予定通りです。後二時間で簡易基地の建設も完了します。その後、スケジュールに沿って、磁気探査艇による鉱床の調査、メガトロンによる試掘を始める予定です」
メガトロン・・・磁気探査艇が上空より地下一〇キロまでの地質調査を行い、そのデータをもとに掘削、簡易精錬を行う全長一〇〇メートル、全高三〇メートル、全幅三〇メートルの無人巨大モグラマシンである。
モグラの先頭に装着しているドリルは、毎時三キロの速度で掘り進むことができ、ドリルの先に鉱床が見つかるとドリルが円形に展開し、鉱床から原石を腹の中に飲み込むのである。
腹の中では、熱処理とレーザー処理により、採掘されたレアメタル毎に精錬され、品質検査が行われる。そのデータを地上にいる技術者に送るとともに採鉱した鉱石と精錬した金属を運び出す仕組みになっている。
「アシュレイ少将。ここにいる時間は一〇日間だけだ。予定の調査が終わり次第、後続の第一九艦隊につなぐ。宜しく頼む」
「了解しました」
惑星としては小さい部類だが、第二惑星は直径三万キロ、第三惑星は直径八万キロもある。調査としては十分な大きさだ。
もちろん、全ての調査をするのではなく、今回の派遣艦隊の任務は、鉱床の有無と埋蔵範囲の広さ、そして品質調査が目的だ。
アシュレイ少将は、それぞれの惑星に磁気鉱床探査艇を一〇〇機ずつ飛ばし、鉱床の探索を行うとともに、メガトロンを五〇台ずつ投入し、良質な鉱床の調査を行う予定にしていた。メガトロンは専用輸送艇で発見した鉱床まで運ばせればよい。
この作業を行う為、各惑星に調査担当者三〇〇名と基地設営と調査担当者の保護を目的として一〇〇〇名ずつの隊員が投入された。
「ウォッカー主席参謀。周辺宙域の状況はどうだ」
「はっ。宙戦司令アティカ・ユール准将に星系外縁部周辺から内側の宙域に一五万個のプローブをアクティブモードで展開させています。また、アルテミス級航宙母艦二六隻から常時一〇〇〇機のスパルタカスを三交代で展開し、担当周辺宙域の警戒にあたらせています。現在、敵を探知したという連絡は入っていません」
「わかった。引き続き厳重な警戒を行ってくれ」
第二惑星と第三惑星衛星軌道から一〇〇〇万キロほど離れた宙域で五グループに分かれたアガメムノン級航宙戦艦三二隻、アルテミス級航宙母艦三二隻、ポセイドン級航宙巡航戦艦四八隻、アテナ級航宙重巡航艦六四隻、ワイナー級航宙軽巡航艦一二八隻、ヘルメース級航宙駆逐艦一九二のうち、四グループが第二、第三惑星を四象限の中心にしてそれぞれ一から四象限に展開し、外側に警戒態勢を敷いている。残りの一グループは、第二惑星と第三惑星の衛星軌道上に展開し、惑星上の作業の後方支援を行っている。
調査から調査から七日目、ほぼ調査も終了に向かって進み始めていた時、・・・
第三象限ミールワッツの主星を右上方に、惑星を上方に見ながら警戒飛行を行っていた第一七艦隊A3G宙戦隊長ユーイチ・カワイ中佐は、最遠方のプローブから発信された探知信号を中継プローブからの伝達により受信していたのであった。
探知信号を発信したのは第三象限の最外縁部におかれたプローブからである。そのプローブが発信するアクティブソナーが何かを捉えたとすれば、ソナー探知範囲以内に何かがいるということである。一瞬、考えた後、
「ジャック、キリシマ、キリン。反応あったか」
カワイ中佐は、同象限を警戒中の自分と同じ宙域を飛行中の各中隊に確認をとった。彼は、酒好きが功をそうして中隊にニックネームを付けている。
「はい、反応がありました。一番遠方のプローブからです」
「よし」
そう言うと
「こちらカワイ中佐。ユール准将、第三象限の最遠方に配置したプローブより反応がありました。位置は座標アルファ二一○.三○、ベータ三一○.五○、ガンマ九○.二○の宙域。正体は不明です」
宙域偵察を行っているプローブから反応があったことの連絡を受けたヘンダーソン中将は、
「どう思う、ウォッカー主席参謀」
「はっ、リギル星系軍が現れるとすれば第一象限方面です。第三象限方面はペルリオン星系です。しかし、彼らは、我々に対抗する軍事組織を持てるほどの力はありません。それに早すぎます。たとえペルリオン星系から来たのだとしても一五日はかかるはずです」
現れたのは、デリル・シャイン中将率いるリギル星系第二艦隊である。第二艦隊は、ペルリオン星系との合同軍事演習に参加する為、二か月ほど前にリギル星系を経ち、軍事演習が終了した後、帰途に就いていたのであった。
合同演習の為、通常のフルスペック一個艦隊が参加したわけではなく、全体の八〇%、艦艇総数五一二隻が参加しただけだ。
第二艦隊側にとっても、ミルファク星系第一七艦隊の出現は突然のことであった。
シャルンホルスト級航宙戦艦第二艦隊旗艦ベルムストレンに乗艦する主席参謀グラドウ大佐は、
「シャイン司令。ミールワッツ星系第二惑星、第三惑星付近及び主星ミールワッツを中心とした宙域全体に艦影発見」
そう報告するとシャイン中将の反応を伺った。
「うむっ、とんだおまけだな。こちらは軍事演習が終わったばかりだというのに」
一瞬の間をおいて
「グラドウ主席参謀。こちらのエネルギー及び補助資材の状況はどうだ。演習で少なからず使ったが」
グラドウは、目の前のパネルから資材担当官を呼び出すとすぐにエミール・ラッゼ大尉より状況を報告させた。
「現在、戦艦、巡航戦艦のミサイル、エネルギーは六五パーセント、重巡航艦、軽巡航艦は七五パーセント、戦闘母艦九○パーセント、駆逐艦、哨戒艦は六五パーセントです。母艦に搭載している戦闘機ミレニアンは三二〇〇機ですがエネルギーは一〇〇パーセントの充填を完了しています」
「補給艦から各艦にミサイル、砲エネルギーを補給するのにどの位かかる」
「補給をする場合、艦隊の航行をいったん停止し、補給を開始します。補給完了まで一三時間は必要とします。また今回の補給で補給艦の補助資材は底をつきます」
航宙艦艇の推進エネルギーは核融合により生み出される。核融合を制御する推進剤に限りはあるが、恒星の様な爆発的エネルギーではなく、一艦の推進エネルギーだ。少しの核融合を誘発する推進剤は少量で良く、航宙戦艦レベルの推進剤保管庫を一〇〇%にしておけば、複数の星系を往復する航宙が可能である。現在、艦艇がエネルギーパックによる航法をとっているのは、惑星間貨物船と宇宙遊覧飛行艇位なものである。
戦闘機ミレニアンは対局宙域戦闘用である、その大きさからエネルギーパックを使用している。これは、航宙母艦に搭載されているエネルギーパック充填装置により何回もの利用が可能になっている。
艦艇が推進を目的としたエネルギーに対し、戦闘艦が搭載している荷電粒子砲は、対象物へ当った時に莫大な衝撃エネルギーを発生させるのが目的の為、おのずとそのエネルギー要素は違ってくる。
「シャイン司令。敵は四グループに分かれています。とるべき選択肢が三つあります」
シャインはそれを主席参謀より聞くと話してみろと言うように目で合図した。
「一つ目の選択肢です。今第三象限にいるグループを撃破した後、第二象限グループを迂回しつつリギル星系に進む。二つ目は一度ミサイル、エネルギーを充填後、敵全艦艇を相手取る。三つ目は第三象限を受け流しながらリギル星系に逃げ込む」
シャイン司令は一瞬目をつぶると
「逃げるは好まない。かといってミサイル、エネルギーに不安を抱えながら戦闘に入るのは愚だな。よし、グラドウ主席参謀、各艦艇に連絡し、エネルギーの充填とミサイルの補給を行う」
「全艦艇に告ぐ。こちらリギル軍事演習部隊第二艦隊司令デリル・シャイン中将だ。レーダーに発見された敵艦隊との不足の事態に対応する為、各艦艇の砲エネルギーの充填及びミサイルの補給を行う。全艦三○光分後退。後に全体相対速度を〇にとり補給を開始する。補給可能時間は一三時間。この間、艦長は各士官、兵を交代で休ませるように。以上」
第三象限にいるミルファク星系軍とは四二光分、あの拡散された位置なら艦隊の体制立て直しに一四時間、更に第一級戦闘航行しても七時間必要だ。我々が八時間の後退と一三時間の補給時間をとっても、戦闘隊形に持っていくには十分な時間だそう思いながらシャインは、スコープビジョンに映るミルファク星系軍を見ていた。
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