悪人とは

砂漠の使徒

One girl

「お母さん!?」


「は!」


 私は自分の叫び声で目を覚ました。

 隣には、夢の中同様苦しそうな顔をしたお母さんが寝ている。

 私はあの日の夢を見ていたみたい。

 そう、あの日からずっとそうだ。


――――――――――――――――――――


「お母さん!?」


 さっきまで、ご飯を作っていたお母さんが突然倒れた。

 顔が真っ青だ。


「シャロール、ベッドに……」


――――――――――――――――――――


 それから、私はお母さんのためにいろいろなお薬を買いに行った。

 中にはとっても高いものもあったけど、お母さんのためだもの。


 けど、どんなお薬を使ってもお母さんの病気は治らなかった。


――――――――――――――――――――


「どうしてなの?」


 私はお母さんに心配かけないように、独り寂しく泣いた。


――――――――――――――――――――


 そんなときだ。

 あの人に出会ったのは。


――――――――――――――――――――


「おい、お前」


 人相の悪い男の人が、私に声をかけてきた。


「な、なんですか? 私、急いでるんです」


 関わりたくなかった。

 私はその人に背を向けた。


「お前のお母さん、病気なんだろ?」


 どうして……。


「なんで、知ってるの?」


「あー、お前の顔を見てりゃあわかるよ」


 顔?


「そんなことより、俺が薬を売ってやろうじゃないか」


 え!


「薬って……お母さんを治せますか?」


 その人はニヤリと笑った。


「ああ、もちろん」


――――――――――――――――――――


 これが間違いの元だったんだ。

 あのとき、あの人に耳を貸さなければ……。


――――――――――――――――――――


「そんな額払えません!」


「お母さんにお金を借りてくれば……」


「嫌です!」


 これ以上、お母さんに心配はかけられない。


「チッ」


 やっぱり、こんな怪しい人に頼るんじゃなかった。


「もう帰ります!」


「それじゃあ、ちょっと取引をしよう」


 席を立った私はその言葉が気になり、立ち止まった。


「簡単なお仕事をしてもらおう」


 お仕事?


――――――――――――――――――――


 実際、あのとき私は断ることはできなかった。

 だって、怖い人が私の周りで目を光らせていたんだもの。

 それに、お薬が手に入るかもしれないから。

 あの後、よくわかんない紙に名前を書かされた。

 お仕事の前準備だって、言われた。


――――――――――――――――――――


「お前が冒険者になって、そこらにいる弱そーな奴とパーティー組んで、森に呼び出すんだよ」

「そこで、俺らは待ってるからよ」


「そ、そんなこと」


 してしまったら、その人はどうなるの?


「大丈夫だって、シャロールはかわいいから」


 違う。

 私はそんなことを気にしてない。


「そしたら、後は俺らでやるからよぉ」


「な、何を……」


 私は恐ろしくて、途中で声がかすれてしまった。


「そんじゃ、二日後までになんとかしろよ」


――――――――――――――――――――


 もう時間がない。

 明日、あそこの広場に行って、声をかける。

 弱そうで、お金を持ってそうな人。

 その人がどうなるか……。

 きっとあの人達に……。


 これって悪いことだよね。


 でも、私はお母さんの薬を手に入れたいの。

 そのためには、協力するしか……。

 

 仕方ないの……。


 ごめんなさい、明日会う、見知らぬ誰か。


 私を許して……。


 そこまで考えて、私は再び眠りについた。

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