2/10 お題:朝陽の当たる堤防 積木 楽しい話

夜明け過ぎの海はまだ暗い。しかし、早くも水平線の近くだけがテラテラと明るく揺らめき始めていた。マズい、時間がない。

人魚は陽が完全に上り切る前に、海の底に帰らねばならないのだ。


積み上がった貝殻の山の向こうで、カニがニタリと笑った。

「アンタ、相変わらず弱いなあ」

そう言いながら、赤いハサミが器用にまた貝を積み上げる。

「日の出までに積めなかったら、またそっちの負けだぜ」


手応えがなくて困るなあ、とブクブク泡をふかすカニを睨みつけ、大急ぎで次の一手を考える。ツルツルした殻の表面が虹色に光っている。ここは引っ掛けやすいサンゴを使うか…それとも小さめのコマ貝でバランスを取るか…


その時。うねった波が堤防に打ち寄せた。


潮辛い風に乗って、冷たい飛沫がはねる。顔を拭い目を開けると、カニはいなくなっていた。時間切れだあ、と叫ぶ声が海の方から聞こえる。


「また明日ここで!」

ドポン、と飛び込む音がして波間が揺れる。そして、段々と揺れは小さくなり、静かな海へと戻っていく。誰もいない堤防は、今日も朝陽に包まれている。


(450文字)




追伸:楽しい話ではなくない?  by10^12









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【400字】23時のショートショート 10^12田 @pi8_mo

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