2/9 お題:騒がしい教室、林檎、告白する話
「こっちを見て」
ホームルームのざわつきの中で、私の耳元で呟いたその声は明らかにクラスメイトの誰のものではない低く甘い響きをしていた。
4月の教室にはどこか余所余所しく、互いの腹の内を探り合うような異様な熱気が絶え間なく渦巻いている。今誰とも仲良くなれなければ、ここから先の3年間はきっと地獄だ。まだ半月しか経っていないのに、既にクラスの中にはグループのようなものができ始めている。
背後の楽しげな声に耐えかね、横の窓を少しだけ開けた。まだ冷たい春の空気が流れ込んでくる。少しだけ胸が透くような空気の中に、微かに甘い匂いが鼻をくすぐった。窓の横に植えられた小さな林檎の木が白い花をつけている。
教室中の誰もが人間関係に夢中で、ここに林檎の木があることすら知らないだろう。
桜に混じって、1本だけそこに小さく立ち続けるその木を私が好きだった。
「今のところ、あなたのことがいちばん好きだよ」
そっと手を伸ばして一つだけ咲きかけの蕾を摘んだ。
林檎の花言葉「誘惑」
(420字)
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