【400字】23時のショートショート

10^12田

2/8 お題:一人きりの体育館、コーヒー、悲しい話


体育館の倉庫が喫茶店だったら良かったのに。


私の影だけが長く伸びる体育館で、転がった最後のゴムボールを拾って力任せにカゴに戻した。昼間に当てられた部分がヒリヒリと痛む。


私は体育が嫌いだ。肺が痛くなるまで走ったり、手が汗でびっしょりの同級生と二人組になったり、グループで競わせられたりするなんて最悪だ。


ああ、この重くて鉄臭い扉の中に、こじんまりしたカウンターがあればいいのに。

安っぽいゴムボールじゃなくて、挽いたばかりの香ばしい豆の匂いがしていればいいのに。

古ぼけた跳び箱の代わりに、よく磨かれた木の椅子があって、そこに座ると遠くから馬鹿みたいな同級生の喋り声が聞こえてくればいいのに。

大嫌いな体育の時間、そこで静かに温かいコーヒーを飲めたら良いのに……



突然、口の中に甘いコーヒーの味が広がった。


 「居ないと思ったら……こんなとこで寝てたの?」

飴の包紙を丸めながら友達がこちらを覗き込んでいた。


 「また片付け押し付けられたんでしょ。ほら、帰るよ!」

床に転がったボールをポンとカゴに投げ入れ、こちらを振り向いた彼女からは少しだけコーヒーの香りがした。


(460文字)

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