肥えた男

 机に突っ伏して死んでいる男の手元に手記がある。


 ――――――――(切り抜き)

 夢見ダイエット!

 CONNECTを試してみましょう

 ――――――――(切り抜き)


 つまりはこういう事だ。

 意識に鮮明な影響を残す技術が開発された。

 CONNECTと言うらしい。


 それを使うと、夢がより鮮明な物になる。


 つまり。食べたはずではない、夢の中の食事が意識に反映されて、覚醒した時には満腹の錯覚をするのだ。


 面白い。


 最近ファストフードにハマっていた自分は沢山のフライドポテトを収めた下腹を撫でた。

 楽して痩せよう。

 二言目にはそう言いながらダイヤルを回していた。


 * * *


 実物を見れば益々簡単な話である。


 寝る。

 食べる。

 起きる。

 満腹。

 生活。

 昼寝。

 食べる。

 起きる。

 生活。


 この繰り返しで私の食事はラムネみたいな栄養剤だけになった。

 鏡を見るのが楽しくなった。

 みるみる痩せていく。


 世の中上手い話は無いと、散々言われてきたが、それが段々と認められている事実を我々は見逃してはならない。

 何か口実を作れば甘みに浸って生活出来る、そんな世界が目の前に来ているのだ。

 享受しないでいつするというのだ。


 ○月×日……。

 ここからは日記である。

 ざっくりまとめれば以下の通り。

 寝て、食べて、覚醒する。

 夢なのでメニューは想像創造し放題である。

 嗚呼楽しい。


 伊達にファストフードにハマっていると言っている訳じゃ無いな、と無邪気な日記を見て髭面の刑事はハの字眉毛で笑った。


 しかしある日。


 自転車の女の子をうっかり跳ね飛ばしてしまった所で彼の人生は一変する。

 それはお気に入りのメニューをドライブスルーで受け取った時の事だった。

 この時彼は一日一枚ずつ増えるパティに挑戦していた。

 どぎついケチャップの匂いとむさ苦しい様な鉄の臭いとが充満した車内に彼は口を押さえた。溶けて貼り付いたチーズが纏わり付くパティが、何かに見えて、外に出た。


 息が苦しい、息が苦しい。


 ふとファストフード店のガラス戸に手を置いて――。


 視界にふと入った肥えた男。


 あれ、コイツ誰。


 * * *


 どういう事だと髭面の刑事。

 知らないんですか? と眼鏡の部下。


 何が。

 何がって、新常識ですよ、最近発表されたじゃないですか。


 人間、覚醒した時、丁度夢に入るんですよ。


 え?


 ――――――――


 Please Entry, please.

 This is a new system.

 Name : CONNECT.

 Welcome new customer.

 We glad to see you.


 エントリー を お願いします。

 これは 新しい システム。

 名前、CONNECT。

 ようこそ 新しい お客様。

 私達 は あなた 歓迎します。


 夢の深みで狂った何かを辿りましょう。

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CONNECT 星 太一 @dehim-fake

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