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星 太一
車社会
千代のお気に入りは自転車でした。
もうそれはその町に一つしか無い代物なので大人達はそれを見る度、良いなあそんな頃に戻りたいよと懐かしそうに笑い、時には窓から身を乗り出して彼女の頭を優しく撫でます。
確かにこんなに長い時間この自転車に乗っていたのは千代だけでしたので、どんなにガタガタでも彼女には愛着というものがありました。
何処へ行くときも一緒です。
学校に行く時も、銭湯に行く時も、お出かけする時も。
例えお母さんに「いい加減車に乗りなさい!」と怒られても彼女は断固として拒否します。
それ程の強い愛着でした。
それに、この自転車だって。悪い事ばかりじゃないんですよ。
何百メートルと続く長い渋滞も自転車ならば横を通り抜けられます。
学校の校門に長く続く自動車の列も教室に並びごった返す自動車も。
千代の小さな自転車ならば、何のその。
ただ、時偶男子が暴れて乗り回す自動車に轢かれそうになったりするのでそこは注意が必要です。
そんなある日のこと。
ファストフード店の車窓から出て来たテイクアウトを受け取り、外に出た彼女はいつものように自転車にまたがって漕ぎ出した所で車に遂に跳ね飛ばされました。
そして隣の席に座るお母さんはこう言いました。
「明日軽自動車買ってあげるね」
自転車に乗る千代の為だけにあった店という建物や学校という建物は翌日全て解体されました。
千代は自転車を卒業できたのです!
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