失われた部屋

@styuina

第1話

 わたしたちの知り合いのおじさんが天涯孤独で急死したので、友人と遺品を整理しにいったときのお話です。

 おじさんは小さいけど、2階建ての一軒家に住んでいたので、友人とわたしは軽い冒険気分でした。

 外はびゅうびゅうと吹雪いています。

「まったく、こんなときに亡くなることねえのに」

「ホント、そうだよな」

 二人でぐちりながら、わたしたちは片付けをしていました。

 おじさんは、文章を模写するのがすきだったらしく

『先生が友だちのお墓の側を通って、ため息をついた。「なぜため息をつくのですか?」付き従った弟子が訪ねると先生はこうおっしゃった。「この人が死んでから、私には相手となる人がいなくなった。私にはもはや、語り合える相手がいないのだ」』

『マゼランはこの海にMare Pabificumつまり平和の海と名付けた。今で言う太平洋(Pacific Ocean)の語源だ。しかし、この海は私にとっと、友をさらった海でしかない』

 といった文章が書かれたノートを見つけました。

「おい、これ見ろよ」

 友人が指差したページには、この家の間取りらしいもの(というのも、大雑把な地図みたいになっていて、実際の間取りと対応させて気づいたくらいです)が書かれていました。

「こんなもんも、描いてたんだなあ」

「ふうん」

 しばらくその間取りを見ていたのですが、『?』とだけ書かれた部屋があることに気づきました。

「どこだろ、これ」

「ああ、この本棚で隠してある感じのトビラかな」

 トビラを開けてみると、そこは昼間なのに光がいっさい入らない漆黒の闇がありました。

「探検してみようぜ」

「いや、いいよ。なんかいやな予感がする」

「度胸ねえな」

 友人がその部屋に入ろうとするのを、わたしは不安そうにみていました。

「ホントに大丈夫かよ?」

「ダイジョーブ、大丈夫」

 友人はそのまま闇の中に消えていきました。

 遺品の片付けを済ませたあとも、帰って来なかったので、スマホで連絡をとろうとしましたが、

「電波の届かない場所にあります」

 というメッセージだけが聞こえます。

 不安に思ったわたしは警察に届け出をだしました。


 結局、友人は二度とわたしの前に姿をあらわすことはありませんでした。

 のちに捜索してくれたおまわりさんから伝え聞いたのですが、スマホの位置情報で捜そうとしたら、スマホはアメリカの田舎にいったり、サハラ砂漠にいったり、例の部屋のあたりに反応があったりととても役にたたなかったということでした。

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