無法地帯殺し

猫町大五

第1話

 かつての『W.P.A』の存在を語る人間達が、決まって語る言葉が二つある。一つ目は、『殺人の掟』。俗にそう呼ばれ、当時の機関員たちが遵守したというその掟は、以下の三条からなっていたという。


一、人間を殺傷する存在は、人間自身に限る。

一、人間を殺傷する道具は、それに制限が加えられる。

一、人間を殺傷する際は、その理由が正当かつ、公的に証明できるものでなければならない。またそれに際して、攻撃のやりとりは単独対単独の存在同士でなくてはならない。


 さらにはもう一つ、『S.M.T』。『トッキハン』とも呼ばれるらしいそのセクションは、機関員でもその一切が不明、当時は下手に言葉に出すことも許されていなかったという。おまけに、そのことを口にした人物は皆、一様に暗い顔をするのだった。

 『トッキハン』とは何か。我々は、これからも調査を続けていく――






「中々真に迫ってるじゃないですか」


 とあるオフィス。テレビ画面を見、男は笑いながら言った。


「報道規制も、半世紀の内に随分変わったものだ」

「この組織自体が時代遅れなんですよ。確かに、必要ではあるかもしれませんが・・・この時代に派手に偽装工作をしようったって、個人端末から破られます」

「だからこそこの半世紀、アナログな手段で秘密を守ってきた、が・・・」


老人は疲れたような顔で言った。


「引退した機関員から語られちゃあ、どうしようもない」

「言いたくもなるでしょう、人間ですから。この人員でやっていく限り、『トッキハン』の内情はバレませんよ」

「・・・そう思ってたんだがな」

「は?」


 不意にオフィスのドアが開く。


「・・・ここは立ち入り禁止だぞ」

「関係者以外、ですよね?なら、問題ないはずです」


 僅かに笑みをたたえた少女が、そこに居た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無法地帯殺し 猫町大五 @zack0913

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ