最終章 電柱女の伝説
翌日、放課後、天上橋下。
ついに頼子と貞子の決闘の時間がやってきた。
貞子側には、伽耶子含む全員のチア部員たち、合計20人近くが集まっていた。
これに対して頼子側は、頼子と理恵と千鶴の3人だけ。
これを真ん中でジョックスが見ている形になる。
ジョックスは頼子を心配そうな顔で見ていた。
頼子(ジョックス…私、必ずあなたとの愛を貫いてみせる!)
問題は貞子だった。貞子の様子がおかしい。
貞子「よくいらしたわね…頼子さァん…んうっ!あなたのお手紙…読ませていただき…くっ!…ましたワぁよ…くふっ!」
どうやら貞子は、自分の怒りを制御するのが非常に難しくなっているようだった。さながら今にも爆発しそうな火山を観測しているかのようである。
貞子は歯ぎしりしながら、こぶしを強く握り締めていた。
そして貞子のバストがビクビク揺れている。
バストといっても、ポルノ的な色気はまったくない。そもそも貞子の胸はあまりにも大胸筋が強力に発達しているため、どこが乳房かわからないのだ。
ボディビルダーの男性の胸板よりも大胸筋が広く厚く、今にもセーラー服を引きちぎってしまいそうなくらいである。
この大胸筋がビクビク揺れているというのは、貞子が怒りのあまり全身に力が入りすぎているという意味だった。
それほどまでに貞子の怒りは爆発寸前だったのだ。
伽耶子「では勝負…始めっ!」
決闘が始まった。だが頼子たちは動かない、いや動けない。
貞子はまるで山のようだった。どうしたらこの怪物を少しでもひるませることができるのか?
まず向かっていったのは理恵と千鶴だった。
理恵「やああーーっ!!」
千鶴「とあああっ!!」
理恵と千鶴のパンチが貞子の胸に炸裂した!
理恵「うわああっ!!」
千鶴「ぐうっ!!」
しかし意外にも、倒れたのは理恵を千鶴だった。なぜか?
貞子の全身は鋼鉄のような硬い筋肉で覆われている。
理恵と千鶴は、いわば鉄の壁に向かって思い切りこぶしをたたきつけたようなものだ。
あまりの痛みに二人は悶絶する。こぶしの骨が砕けたかもしれない。
理恵と千鶴は倒れて動けない。
貞子「フーッ…こんな雑兵には…用はなくってよ、頼子さァん…」
貞子は頼子に迫ってきた。
貞子「ねえ頼子さァん…私はねぇ…くっ…とても寛大で麗しい、可憐で優しい淑女なの…ぐうっ!だからね…フッ!」
頼子「…」
頼子はあまりの恐怖で声が出ない。
貞子「今すぐわたくしに土下座して…もう二度とジョックスに近寄らないと…誓うならねぇ…ウウッ!…許してあげなくも…なくってよ…オォッ!!」
頼子「…」
貞子「さあ早く…土げェ座ァッ!!…しなさァい…さもないとわたくし、どうなるか…わからないワッ!!ぬ、ヌヌゥッ!!地球を…破壊してしまいそうなッ…衝動ッ!すごいヨォッ!!この気持ちィッ!!」
しばらくの沈黙が流れた。
頼子はゆっくりと…しかしはっきり、大きな声でいった。
頼子「それは…できません!」
貞子「ン…んうッ!?」
頼子「私は…ジョックスのことを心から愛しているんです!私はどうなってもかまわない!退学になろうがバラバラにされようが、私はジョックスが好き!あなたには譲れない!」
しーん
恐ろしい沈黙が流れた。
その沈黙はたったの5秒だったのだが、周りの者たちには数時間のことのように長く感じられた。
周りの誰もが、地球の終わりのような終末感に襲われた。
貞子「よく聞こえなかったわ…NO!と聞こえてしまったの…わたくし最近体調が悪くて…聞き間違えたのねッ!」
頼子「いいえ、聞き違いじゃありません!私はジョックスと結ばれます!あなたには譲れない!」
貞子「…」
………
……
…
貞子「ば…」
伽耶子「ば?」
貞子「バァーーラバラにィィィッ!!してくれるワァァーーーーッッッ!!!」
伽耶子「おいお前たち!今すぐ逃げろ!!」
伽耶子がチア部員たちに促すと、チア部員たちは一目散にその場から逃げ出した。
貞子が関取のごとく、ひときわ強力に四股(しこ)を踏むと、震度7程度に大地が揺れた。
ジョックス「こ、これはいったい…あの『麗しの淑女』と呼ばれる貞子さんが…これは?」
伽耶子はジョックスに向かっていった。
伽耶子「ジョックス…実は貞子様の『麗しの淑女』という二つ名は、本当の二つ名ではないんです」
ジョックス「そ、それはどういう意味で…」
伽耶子「『麗しの淑女』は、貞子さまが自らのイメージアップを図るために、自分でつけて広めさせた名前なのです」
ジョックス「では…本当の二つ名が別にあるということ?」
伽耶子「貞子様の本当の二つ名は…」
暴 虐 の 魔 人
ジョックス「な、なんということだ…」
伽耶子「もうこうなってしまったら取り返しがつかない。何もかも終わりだ…天上高校も、独尊高校も…すべてが破壊されつくしてしまうだろう」
ジョックス「…」
伽耶子「いやそれどころか、地球が危ない」
だがそこで叫んだのは理恵と千鶴だった。
理恵「頼子ちゃん、今よ!」
千鶴「魔法少女!今こそ!」
頼子「わ、わかったよ、理恵ちゃん、千鶴ちゃん!」
貞子「ヌゥゥッ!?」
頼子、理恵、千鶴の3人は、ヴァルキリーから授かった宝石を握り締めて、魔法少女の変身呪文を叫んだ。
3人「ドラドラドラゴン、ドラドラァ!サイボーグ!!」
☆ 合 ッ … 体 ッ ☆
まばゆい光をあたりを包み、そして3人は合体し…
伽耶子「なんだ、あれは!」
ジョックス「??」
貞子「これは…」
ウルリカ「魔法少女ウルリカ、見参!!」
3人が合体してできた「魔法少女ウルリカ」が、ついに現れた。
ところでウルリカの見た目は、普通に想像される魔法少女のそれではない。
簡単にいえば、ドラゴンに中世の騎士の鎧を着せたような外見である。ドラゴンであって、人間ではない。
体は鋼鉄よりも硬いうろこで覆われており、鉄をチーズのように簡単に切り裂く巨大な爪が、左右とも3本ある。
頭部は竜そのものであり、飛び出たギョロ目と爬虫類の耳、サメのような牙が歯茎から生えている。
がっしりした二本の脚で立っており、尻からは巨大な尻尾が生えている。
いちおう元が頼子なので、制服を着ている。セーラー服である。セーラー服に鎧を着せたような感じである。
制服の短いスカートがめくれ、そこから2メートル近い尻尾が出ているため、スカートの中身が丸見えである。
だが、すでに肉体が人間ではないので、色気などあったものではない。
そしてこれは爬虫類ではなく、厳密にはサイボーグとドラゴンの中間の性質を持っている。
背中に航空機の尾翼のような羽があり、そこに左右合わせて8筒のジェットロケットエンジンがついている。
これを使って空中を飛行することもできるのである。神話のドラゴンのような翼はない。
貞子「ドラゴンに変身したくらいで…このわたしくに勝てると思ってかァーーーッッ!」
貞子の光速正拳突き(ライトニングボルト:邦夫を一撃で失神させたあのパンチ)がウルリカに炸裂した。が…
貞子「なッ…」
伽耶子「し、信じられん…貞子様のライトニングボルトを食らって傷一つつかないなんて…」
ウルリカ「フシュー…」
貞子「……」
ウルリカ「フシャーッ!!」
貞子「とんずらァ!!」
貞子は一目散に逃げ出した。
ウルリカはすぐそばにある電柱に向き直ると、腰を深くしてまっすぐに拳を突いた。
ウルリカ「ドワッシャアァーーーッ!!」
電柱が根元から折れ、折れた電柱をウルリカは両手で担いだ。
貞子「あ、あいつ…あの電柱でワイをブン殴る気か!」
しかしウルリカは、電柱を横たえると、自分の背部に取り付けてあるロケットエンジンをすべて外し、一つ一つ丁寧に、電柱の側面に突き刺していった。
貞子「なにやっとるんやアイツ……」
8つすべてのロケットエンジンを電柱に突き刺すと、ウルリカは電柱を両手で担ぎ、そのまますさまじいスピードで貞子に突進してきた。
貞子「うわーーッ!!」
そしてすべてのロケットエンジンを点火すると同時に、ウルリカはホームランバッターのように電柱を振り回す。
ロケットエンジンの噴射の勢いで電柱を振り回す速度が激増、激しく対象を殴打し、粉砕する「鉄塊粉砕殴打(「マスブレード」と読む。気になる人は「マスブレード」でGOOGLE検索してみよう!)」
しかしロケットエンジンの噴射の勢いがあまりに激しいため、傍から見ると、カッ飛んでいく弾道ミサイルに怪物がしがみついているようにしか見えない。
ウルリカ「死にさらせーーッ!!」
貞子「ギャーーーッ!!」
電柱が激しく貞子に激突、貞子は30メートル吹き飛び、その後80メートルも跳び、跳ね、転げまわって、ようやく静止した。
貞子は倒れた。
一同「……」
ジョックス「あの、伽耶子さん?」
伽耶子「え?…あ、ああ…勝負あり!勝者、頼子…いや、魔法少女ウルリカ!」
ジョックス「頼子さん!!」
ジョックスはウルリカに走って近づいた。
ジョックス「ヴァルキリーの伝説は本当だったのか!!信じられない、こんなことが起こるなんて!」
ウルリカ「ギャッ!!ギャッ!!」
ジョックスとウルリカは抱き合って喜んだ。
伽耶子「まさか、これをやってしまうとはな…」
伽耶子はある本を取り出していた。この本は、生徒会室の記録書である。
この記録書には生徒会で起こった過去の歴史がつづってあり、過去に起きた身分違いの恋愛についても書かれている。
ずっと以前にも、このように魔法少女に変身してジョックスやチアと戦闘した事例が書かれていた。
伽耶子「だが…この変身には問題があるのだ。それは…一度変身してしまうと、二度と元に戻らないことだ!!だから過去のこうした恋愛はすべてうまくいかなかったのだ…」
だがジョックスはひるまなかった。
ジョックス「かまうもんか!僕の愛は外見が変わったくらいでなくなったりはしない!頼子さん、いや魔法少女ウルリカ!!ぜひぼくの恋人になってください!!」
ウルリカ「ギャーッ!!ドギャッ!!ギィィ!!(うれしいわジョックス!喜んであなたの伴侶になりますわ!!)」
この戦いは後に「電柱女の伝説」として、生徒会の歴史に記録され、身分違いの恋を初めて成就した例として、ずっと後の世まで語り継がれることになった。
そしてこれをきっかけに、天上高校の厳しいスクールカーストは廃止され、皆が仲良く平和に暮らせるようになった。
伽耶子「そういえばあの、理恵と千鶴とかいう二人はどうなったのだ?」
世界に平和が戻ったのだ!
めでたし、めでたし。
おしまい
頼子の恋~戦乙女ヴァルキリーと電柱女の伝説~ ヴァレー @valleysan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。頼子の恋~戦乙女ヴァルキリーと電柱女の伝説~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます