第3話

 あぁ、来たか同志。どうした?顔色が悪いぞ?そういえばさっきこの辺で抗争があったな。ほんの数分前だったからひでぇ有様だっただろう?悪ィな、今度から『抗争の後は奇麗に!』の張り紙でも貼っておくからさ。営業妨害も甚だしいぜ。まぁ、アンタが帰るころには奇麗さっぱり何にも無くなってるだろうよ。ん?血痕や肉片は残ってたけど遺体そのものは無かったって?

そりゃお前、死体をそのまま放置しておく奴があるかよ。アンタ達だって人が死んだらそのまま放置しねぇで葬儀なり何なりするだろ?今の流行は散骨だったっけか?俺達もそれと同じだよ。人が死んだら盛大だろうが盛大じゃなかろうが供養する。特に組織の人間が死んだら尚更だ。それが抗争で死んでようが病気で死んでようがソイツを人生と一緒に送り出してやる。どうせ地獄に落ちるんだ。仲間の供養が俺達みてぇな奴に残された人間としての尊厳を得られる最後の場所なんだよ。

そして組織に属さねえ奴も一人くらいは何かしら手向けてくれる奴がいるもんだ。それで十分供養になる。それに地獄でも生きていけるだろうさ。何たって、こんな生き地獄みてぇな場所でずっと生きてこれたんだからな。今更地獄なんて怖くないだろうよ。そんで生きてる奴は生きてる奴で死んだ奴の事ずっと引きずっていても仕方ない。ソイツが帰って来る訳じゃねぇからさ。もう居ない奴の事はスッパリと区切り付けてまた生きていくしかないんだよ。それに、いつまでもくよくよしてたら今度は自分が引っ張られちまうからさ。何、犯罪者だって一人で逝くのは寂しい奴だっているよ。だから自分の事を一番思ってる奴を引っ張って逝くんだ。だから強く思わない程度に頭の隅で覚えてやってんのが一番良い。そうすりゃ死んだ奴も諦めて勝手に一人で逝く。それがお互いの為の賢い生き方だ。しかも、直ぐに死んだら積もる話も積もらねぇ。多少は面白い話でも何でも用意してから死んだ方が良いじゃねえか。ってこれじゃまるで死んでからが本番みてぇだな!ハハハ!けどそんな人生も悪くねぇ。此処にいる奴らみんな死んでるみてぇなモンだからな!生きてようが死んでようが些末な問題だったな!

 にしてもアンタ、抗争があった直後で店の前は惨状だったってのによく入って来たよな!普通の奴なら見た直後に引き返すモンだぜ!まぁ、『普通』の奴ならな!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バー・エンドルフィン @Sikihiko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る