第2話
二話
「お、やっぱりまた来たのか同志。前回の依頼の件はどうだった?
他の奴に写真見せてもらったけど、自然なほど事故死だったな!」
依頼料は振り込み制だったので最初、つまり前回来たきりエンドルフィンへはもう来ないつもりだったのだが、気付いたらまた店に来ていた私に白は、まるでこうなる事を知っていたかのような口ぶりで饒舌に話しかけてきた。
今回は前回話はおろか、顔すらよく見えなかった店員のアレンもカウンターに立ってグラスを磨いている。なるほど、確かにあまりお目にかかれない程の美男だ。
さて、前回依頼した件だが、確かにニュースや新聞では事故死という事になっていたのをしっかりと見たし、その後、住所も教えてないのに勝手に家に送られてきた死体写真の顔も、個人情報も正真正銘この数年間私が殺したいほど憎んでいたアイツに間違いなかった。そして、アイツが死んんだ事実を認知した瞬間私は何とも言えぬ多幸感を全身にひしひしと感じていた。
「そうか、喜んでもらえたようで良かったぜ。報酬の方も弾んでくれたみたいだな。ツバキも喜んでたよ」
ツバキというのは、私が白経由で殺しを依頼した万屋の名前らしい。普段は此処の常連らしいが、私が来た時には別の仕事で居なかったようで、私はそのツバキと呼ばれた人間の性別も年齢も容姿もほとんど知らない。ただ分かる事はアイツを消してくれた神のような存在という事だけだった。
そういう事なので私はここに来るつもりは無いと思いつつもツバキに礼を言いたいと考えていたのだ。
「ツバキに礼言いたいのか?アンタも変わってんなぁ。悪党に礼を言いたいなんて。まぁいいや。ツバキなら今日来てるから行って来いよ。ほら、あそこで何かダラーっとしてる奴」
白が示した方を見ると、テーブルを挟んだ対面式の二人掛け椅子に二脚に誰かが座っているのが見えた。しかし、やはり店内が暗いので顔は良く見えないが、
学生なのだろうか、他の客よりも小柄に見えた。
「な?いただろ?ほら話しかけて来いよ。心配しなくてもいきなり取って食われるなんて事無いだろうしな。人懐っこくて良い奴だぞ」
白に促されるまま私はその二人の元へ、テーブルの間を縫いながら近づいて行った。席に近くなっていくにつれて、先程まで良く見えなかった二人の姿が段々鮮明に見えてきたのだが、どちら共まだ学生だろうか。
片方の少年は怪我をしているのだろう、全身に包帯やらガーゼやらを身に纏い、椅子に深く腰掛け、テーブルに足を投げ出し如何にも行儀が悪いような姿勢で座っていた。また、そこに向かい合って座るもう一人の少年は行儀の悪そうな少年とは裏腹に近くの高校の制服を身に纏いきちんと座っている。髪を高い位置で結っていて、それを纏めている赤いリボンが目を引いた。顔に関しては双子なのだろうか、二人とも眼帯をしていて、全く同じ顔をしていた。
私が来たことに気付いたのか、赤いリボンの少年が話しかけてきた。
「あれ?君、初めて見る顔だね?この辺りじゃ見ない顔だけどもしかして表の人?え?たった一人でこの場所見つけたの?すげーじゃん!なぁ、ツバキ!」
赤いリボンの少年は驚きが混ざったような感嘆の声を上げて向かいの包帯少年に向き直った。どうやらツバキと言うのは包帯少年の方らしい。
話を振られたツバキは横目で私の顔をちらりと見てから姿勢を正し、満足そうな笑みを浮かべた。
「あんた、この前の依頼人でしょ?ま、白さん経由だけどな!
いやー、依頼ありがとう!しかも報酬まで弾んでくれちゃって!あの日はご馳走だったよ!
しかし人間の執念って怖いね~、久々の表の人間からの依頼だと思ったらまさかの人殺しの依頼!人は誰だって嫌いなやつを殺したいって思ってるモンだけどさ、それを実際頼んだりしてくるのって少数な訳よ。まぁそういう事やってくれる奴探すのより自分で直接手を下したり嫌いな奴から離れるって人のが多いってのもあるけど、そういう事が多いから表の人間が殺しの依頼をしてくるの珍しくって驚いた。そしてあんたを見てもっと驚いたよ。だって如何にも殺しなんて頼めそうにもない超々普通の奴なんだもん!エンドルフィンにいる事自体浮いてるよ!やっぱ人って見かけによらないのな!そんな普通って感じのあんたが何でまた此処に来たんだ?何か頼み事か?」
私は礼を言うのをすっかり忘れていたのでツバキに礼を言い、今日此処に来た目的は自分でも分からない。
「何で来たのか自分でも分からない?あぁ!たまにいるよ、そういう客!特にあんたみたいなこの街に慣れてない奴!多分この空気間が癖になっちゃうんじゃない?ヤベェ事やってるみたいな!そして無意識だろうと意識してようとまた来ちゃうってワケ!他の理由もあると思うけど。そんな感じだと思うな。でも、まだ表の人間でいたいなら程々にしておいた方が良いぜ?あんまり浸かりすぎると戻れなくなる。薬物みたいなもんだから。ただ、戻れなくなっても良いならあまり強くは止めないけどな!でもあんた素質あると思うから何もかも嫌になって自由が欲しくなったらいつでも相談しろよ!あ、けど裏の奴ら皆正直で嘘つきだから気を付けろよ~」
そう元気よく言うとツバキはテーブルの上に置いてあったクラッカーを美味しそうに頬張った。
さて、私もそろそろ帰ろうか・・・・そう思いカウンターまで引き返そうとした時
「あっ!ちょっ、ちょっと待って!」
先程まで黙っていた赤いリボンの少年が私を引き留めた。
「まだ自己紹介してなかったよね。俺、焔って言うんだ!よくツバキと此処に来るから、もし君もまた来る事があったらよろしく!」
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