おうち時間と友だち追加

おうち時間と友だち追加

 大学のサークルに入った華音カノンは、そのグループチャットで『追加してもいい人~?』と送信した。追加とは、友だち登録のことである。これを行えば個々で連絡ができるので、なるべく多くの人を登録したかった。


 数秒もたたないうちに『いいよ~』という返事が送られてきたので、その人たちのプロフィール画面に移動し追加ボタンを押していった。

「よし、これで全員……あれ?」

一人合わない。


 確認すると、井紅瀬イグセさんがまだだった。

グループチャットでの発言に既読はついているから、追加が嫌なのだろうか。

「ま、聞いてみるか」

私はそう呟き、

『イグセさんはダメな感じかな?』

送って数秒、

『いいけど……』

ほっ。よかった。

ありが…… と打っていた指が次に送られてきたメッセージに止まった。


 『俺、重いから……それでもいいなら』

あー、なる、ほど?

確かに文面からもそれが伺えるようだ。


 『そう、なんだ。全然いいよ?』

ありがとうと吹き出しが出ているハリネズミのスタンプを送ってから、イグセさんのプロフィールに移動した。無事、全員の登録が完了。


 次にすることはあいさつ回りだ。といってもチャット上でだが。


 お辞儀したクマとかウサギとかのスタンプを次々と、だが全員に同じのを送ってると思われないようバリエーションを変えてみんなに送っていき、残るはイグセさんだけだった。


 よろしクマスタンプを送ってから、

「……ちょっと話してみようかな」という気になり、『追加OKしてくれてありがとう(人´∀`)♪』と打ち、送信ボタンを押した。


二秒もたたないうちに既読がついた……わお。

次の瞬間、

『好きなアニメってある?』

『俺はそれいけカットビ君かな』

『ちなみにこれよ』

画像×10。


 な、なんだこの怒涛のなにかは。重い人みたいなこと言ってた、よね……?

その間にもイグセさんは一人で喋り続けている。


 やっと解凍されたカノンは、

『ど、どしたの?』と打って送った。

『言っただろ? 俺……重いって』

だーかーら、……あっ、もしかして。


『容量のこと!?』

『正解!』


 ピンポンピンポン~と鳴るスタンプにちょっと殺意をおぼえた。


 『俺、最初に言ったハシモトかんな。覚悟しときな?』

な、なんだその臨戦体勢はっ!? てか、見えてるからね? ハシモトって文字。

それなら……やってやろうじゃないか。

『好きなアニメは抹殺の世界線』

『あー、いいよねそれ』

『主人公がいい奴すぎて泣ける』

『あいつはいい奴だったよ』


 等々、私たちは気づけば一時間ぐらいぶっ通しで喋り続けていた。

『ところで今なにしてんの?』

『なんだと思う?』

『なんかおうち時間的な?』

『そうそう……っておおざっぱすぎるだろっ』

『わーるどわいどうぇぶ』

『わーるどわいどうぇぶて、それじゃ読者に伝わりにくいだろ』

『読者ってなんだよ(わーるどわいどうぇぶ)』

『それはともかく……いいのか?』

『何が?』

『せっかくのおうち時間だろ。俺なんかとのこんな会話で浪費していいのか?』

『いいよ?』

――――事実だった。暇で暇で仕方ないおうち時間を全力で照らしてくれたのが彼だったから。

『へぇ』

『そっちこそいいの? 

面識ない女子とこんなに喋っといて』

『大丈夫、残念ながら彼女はいない(星)』

『草』

『それに、』

「、」ということは続きがあるということだ。どうしたのだろう?

『?』

『アンタ、可愛いからもう彼女つくる気ねぇわ』

『ちょ、』


そんな――――冗談、であってほしくない自分がいた。

気づけば心惹かれていた。


『だからさ、』

『……うん』

『大学始まったら聞かせてよ、答え。』

『今じゃ、ダメ?』


彼の答えも聞かずに、私は――――


怒涛のスタ連を始めた。そのすべてに、ハートマークが。


『ははっ』

『おかえし、よ。最初に驚かせてきたのはそっちでしょ』

『それもそうだ。……お互い、踏ん張って、大学で会うのを楽しみにしてる』

『……うん』

『死ぬんじゃねーぞ』

『お互いにな!』

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