第40話 見切り発車で行こう
「テレビに出れば新垣結衣に会えるかもしれない、って言われたから出たけど、まだ会えないって詐欺じゃない?」
「そもそも、なぜテレビに出ればガッキーに会えるって言われて鵜呑みにするのよ」
「だって、新垣結衣もテレビ出てるじゃん」
「何がだってなのよ。ガッキー詐欺とか万が一流行ったら即引っかかりそうね」
「たしかに芸能人は来るみたいなんだけどさ、全然新垣結衣に繋がらない。私ほとんど芸能人知らないしさ」
「あ! ユイちゃん、
「だって、意味分からん親父ギャグばっかり言うから、めんどくさくなっちゃって」
「こっちに苦情が来るのよ! いまだに! なんでこっちなのよ? 私はユイちゃんの保護者じゃないっての!」
「あはは! 今度インタビューの時に使お! 私には、2人お母さんがいます。1人は田舎のお母さん、もう1人は、天神森の母、エミリさんです!!」
「やめてよ!」
食べ終わってからもしゃべり続けてたけど、そろそろ3時半だ。
「あー、そろそろ行かないと」
「ヘアメイクをプロに任せられるってのは、いいわねぇ。その分早く入らないといけなくはなるけど」
「もー楽ちんよ。すっかり自分でメイクしなくなるけどね。エミリさんに言われた通り、日焼け止めだけは塗ってるけどさ」
「肌年齢は日焼けと比例するからね! 日焼け止めだけは、まず塗ってから日に当たるのよ!」
「分かってるよ。私、エミリさんに教えてもらったことは完璧に覚えてるから、安心してよ」
「頑張ってね、ユイちゃん」
「おう! 今日もやってくらあ!」
笑い合ってカフェの前でエミリさんと別れ、店に向かう。
と、黒っぽいスーツの男性2人が現れた。
なんだ? 引き抜きか?!
「ユイさんですね? 私、こういう者です」
名刺を差し出してくる。デジャブかな?
rializzare un sogno
(リアリッザーレ・ウン・ソーニョ)
と、書かれている。
「少し、お時間いただけますか」
「これは何語ですか」
「イタリア語です」
もう1人の名刺には、
rializzare un sogno
(リアリッザーレ・ウン・ソーニョ)
と書かれている。
あ! 愛と勇気だ!
「あはは! これこそ、完全にアンパンマンだ!」
「おーマジだ! マジで声がガッキーで顔が橋本環奈だ! すごい!」
「……はい?」
アンパンマン2号が、満面の笑みで言ってくる。
はしもとかんな? よく似てるって言われる、若い人気女優さんかしら?
「銀座でも絶対トップ取れますよ! ぜひ、うちの店に移籍して下さい!」
「銀座? 銀座って、東京ですよね?」
「はい、もちろん」
真剣な話担当であろう、高橋さんが答える。
「東京って、新垣結衣いますよね?」
「……はい、たぶん」
「おお! 新垣結衣に、会えますよね?!」
「それは……どうでしょう」
高橋さんの左手を取り、上目遣いで目を見つめる。
「新垣結衣に、会えますよね?」
「あ、会わせます! あらゆるコネを当たります!」
「ありがとう!」
両手で、キュッと包み込む。
エミリさん! エミリさん直伝のおねだり、銀座の人にも通用したよ!
「今から行く! 新垣結衣のいる、東京に!」
「今からですか?!」
「そうよ!」
やった! きっと夢に近付いてる!
後先なんて考えられない、準備を整えて動くなんてできない。でも、私はきっとこれでいい。私は、見切り発車で行く!
見切り発車 ミケ ユーリ @mike_yu-ri
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