第16話 爬虫類と哺乳類の違いってなんですか?
念願の休みであった。三日働いて一日休むとか楽じゃない?そこまで軟弱じゃないし、と思っていた時期が俺にもありました。
今なら堂々と胸を張っていえる。絶対に無理だ。ヒゲの言っていたことは正しかった。こんなのを5日間連続で続けたらまず腰が死ぬ。平日休みだと曜日感覚がなくなってしまいそうだが、体が資本の職場ではそんなこといってられない。なにより健康第一だ。今日は電車の時間とか気にしないでいつまでも寝ていられる。
かくして二度寝をし、次に起きたときには時計の針は11時を回っていた。時間を見てまず思ったことは“昨日の俺だったら、この時間にはワーム舎の掃除を終え、リンゴもあらかた切り終わっているだろう”であった。そして、こうも思ってしまう。“今日の俺は惰眠をむさぼって半日が終わろうとしてる”
いや、この睡眠は気力回復のために必要なものだったのだ。今日寝たからこそ、明日からも元気に働ける。そう自分に言い聞かせ暗黒面に陥りそうになるのをくい止める。しかし、休みだっていうのに仕事のことを思い出すなんてだいぶ毒されている。
とにかくだ。過ぎた時間は戻らないし、3日分のたまった洗濯物を洗わなければ着る物がなくなり、買い出しにいかなければ鮭フレークごはんしか食べられない。気だるい体を起こし、気持ちを切り替えようと大きくのびをした、と同時に思い出した。燃えるゴミ、出し忘れた。
冷蔵庫にあった最後の卵でつくったスクランブルエッグとベーコンと白米のブランチを食べ、服を干した後にネットで調べ物を開始した。
レジン作りですっかり後回しにしていたヒゲの「哺乳類と爬虫類の違いは何か」という質問の答えを調べねばならない。哺乳類と爬虫類の違いなんて見ただけで分かる。だが、どう違うかと言われると説明できない。ウロコが全身に覆われているのが爬虫類かなと哺乳類の解説ページを開いて早々、最初の一文に目玉がひんむいた。
“哺乳類の祖先は獣弓目として知られている爬虫類のグループである”
え? 人の祖先って爬虫類なの?太古の昔は魚だったのは知っていたけれど、その後は海の中で哺乳類っぽい動物が現れて上陸したものと思っていた。“ディキノドン類”という哺乳類の祖先グループに属する動物のイラストは、カバと魚とワニをたして3で割ったような造形で、見た目はどっちかというと爬虫類である。そこからどうやって今の哺乳類になりヒトへと続くというのか、生物の進化とはまこと不思議だ。進化論なぞ神への侮辱だと一部の宗教家が怒るのも無理はない。
ざっと調べたところ哺乳類の特徴は、赤ちゃんを体内で育てる、口を動かし咀嚼できる、乳を与える、汗をかくための汗腺がある、熱を生産できる、の5つらしい。
哺乳類が卵を生まないことは知っているが、爬虫類の顎では食べ物を切り裂くぐらいしかできず、くちゃくちゃ噛めないことは初めて知った。言われてみれば恐竜映画で恐竜が人を食べるときはぶんぶん振り回すが、あれは噛み切れないからだったのか。
乳を飲ませることが哺乳類と爬虫類との違いと言われれば確かにと思う。だが、はるか昔は乳ではなく栄養のある汗を子供になめさせていたこと、やがて汗腺が母乳をだす乳腺へと進化し授乳の始まりになるとは、なかなか腋フェチもびっくりな衝撃的な話だ。これなら爬虫類と哺乳類の違いに聞かれても大丈夫だろう。たぶん聞かれずに別の質問がくるだろうけれど。
この調子でドラゴンを調べようと思ったがいいが、すぐに行き詰まった。どの本を見ても書いてあることはてんでバラバラなのだ。
“ドラゴンは爬虫類である”
“ドラゴンは恐竜の生き残りである”
“ドラゴンは哺乳型爬虫類である”
“ドラゴンは哺乳類である”
それぞれ根拠を提示しこれが真実に近いと言い張るが、自説を述べるにあたり都合の悪いことはふれていない。今までこんなことなかった。本なりネットなり、ちゃちゃっと調べれば答えはすぐに見つかった。どうしてドラゴンに関してはこんなにも混沌としているのだろう。爬虫類か恐竜かなんて足の付き方で分かるだろうとワイバーンとナッカーを思い浮かべる。だがワイバーンは足が体からまっまっすぐ下に伸びて恐竜型な一方、ナッカーは足が横に突き出て爬虫類型だ。そもそもワームに至っては足すらない。……おや? すでに分類できないぞ。それにドラゴンって卵を生むから哺乳類ではないと思ったが、ドラゴン哺乳類説の著者は、理由として顎の構造をあげていた。たしかにドラゴンは唾を吐いたり、咀嚼できるのだ。あれは爬虫類では無理なことだ。体温を生産できるかは分からないが、炎を吐いているドラゴンもいるし、できるのではないのだろか。これではどこにも分類できない。けれど、どうして他の動物と違ってドラゴンだけこんなに分類があやふやなのだろうか。調べてもかえって謎が深まりこんがらがるばかりで同じ疑問がぐるぐる回っていた。ドラゴンってなんなんだ? どこにも分類できない生き物なんて、果たして存在するのだろうか?
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