最終話 これから先
おれと瑛華は後ろの先に座っていた。ロケバスは数台用意されており、スタッフや演者が乗り込むのを待っていた。
おれは窓際の席で、外を眺めていた。落神村へ入るための入口と、生い茂った木々が見える。ここから村へ入り、すべてが始まった。あのときのおれはコラムのための取材と思っており、おれ以外のものはなにが起こるか知っていた。まんまと騙された。よくぞ気づけたなと、自分を褒めたくなる。解決することができ、番組として成立することができた。あとはスタジオで収録し、夜の七時から放送し視聴率が何%取れるかだ。人気が出てくれたら良いが。
中田の出現には驚いたが、良い企画を考えた。やはり、あいつもおれも才能があるのだ。自信を持っていいんだ。数時間前のおれならば、才能があるなんて思えなかったはずだ。
「ももちゃん」
「ん?」
おれは窓から瑛華の方を向いた。
「騙してごめんね」
「まだ言ってるのか? 気にするなって」
「うん……。でも気になってね。ほら、騙すのって気持ち良くないじゃん」
「そう思ってくれてるのなら、なにも言うことはないって。それに、瑛華のおかげでこの企画は成り立つことができた。おれにとっては、この番組はチャンスなんだ。話題になれば確実に売れる。だから気にすんな」
「うん!」
瑛華は表情を明るくした。
それに芸人として成功すれば、今まで躊躇ってきたプロポーズの言葉も告げられる。肩を並べ、胸を張ることができる。なんの気兼ねはない。前々から言葉を熟考し、何度も練習もしているのだ。おれとしては、早く言いたいのだ。
窓の外では沢村と中田が、村長や慎太郎や亜美、他の村のものと話していた。別れを惜しんでいるようにも思えた。村長も、なかなか帰って来ようとしない息子に、言いたいことがたくさんあるのだろう。
沢村や中田が、ロケバスに乗り込んだ。扉が閉まり、バスが動き出した。窓の外でみなが手を振っていた。おれたちも手を振り返し、窓を開け言葉を交わした。
ゆっくり進み出したバスは、段々とスピードを上げていった。手を振っている村長たちの姿が小さくなっていく。ドラマのように、追いかけてくるものはなかった。
村の姿を見たいなと思っていると、バスは坂道を上がり、山に囲まれた落神村が見えた。なにもないが自然が豊かで、静かで神秘的な村だった。おれは小さくなっていくあの村で、謎を解くため奔走していた。苦労もあったが、離れると寂しくもあった。
悩みに悩み、解決し、最後は自信を取り戻した。落神村には感謝しかない。必ず売れてみせると思った。
「たったの五日だけだったけど、なんだか寂しいね」
と瑛華は言った。おれは頷いた。
「そうだな。忘れられない経験をさせてもらった」
すると突然、沢村は立ち上がり言った。
「まだ時間は浅い! 帰ったら打ち上げするぞ!」
オオーッ!! と歓声が上がった。みな手を上げ喜んでいた。まるで歌手を待つライブ会場であった。
中田は勢い良く手を挙げると焼肉を提案した。誰も反論せず、それがいいと言った。
瑛華はおれの方へ向くと、頬を緩めた。嬉しそうな顔をする。瑛華も焼肉をご所望らしい。
よし、とおれは思った。英気を養うため、特上の牛を食いまくってやろう!
バスの中は終始わいわいと盛り上がりながら、街へ進んでいった。
落神村の神隠し タマ木ハマキ @ACmomoyama
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