君とかくれんぼ(後編)
翌日、霧葉の叔母さんが迎えに来た
頭の中ではこれで霧葉が平穏に過ごせるから良かったと分かっていたけれど、心の中の整理がつかなかった
霧葉と離れるのが寂しいんだ僕
大きな喪失感を感じた
でも、ここでわがままは言えない
それだけはしちゃいけない
泣きそうな笑顔で、ありがとうと言ってくれる霧葉を困らせちゃいけない
元気でね
笑顔をつくってその言葉をかけるのが精一杯だった
上手く笑えたのか分からない
定期的に霧葉から手紙が届いた
新しい環境でもなんとかやっていけてる
学校の勉強よりも方言の方が難しくて大変だなんて冗談も書かれていた
安心して生活して、帰る家があって、これで良かったんだ
重なる手紙と共に心から思えるようになった
もう辛い想いをして欲しくない
辛かったことも思い出して欲しくない
そう思った僕は少しずつ
手紙の返事を遅らせていった
僕の存在は間違いなく辛かった日々を否が応でも思い出させてしまうと思った
霧葉にはもう前だけを見て、笑って過ごせる毎日に溢れて幸せでいてほしい
思い出して欲しくない
僕も少しは違う場所を見なきゃ
そんな事を思って地元から離れた高校を志願した
ちゃんとアルバイトもして、勉強を怠らない事を条件に一人暮らしをさせてもらう事になった
反対されるかと思ったけど、不思議とお父さんもお母さんも二つ返事だった
自分でいうのもなんだけど、真面目に優等生やってきたからこその信用もあるのかなとその時は思った
それらを書いて霧葉に手紙送って
それ以降の返事は封を開けずにいた
二通
封の開かない手紙を大事に引き出しにしまったまま僕は卒業した
最後のかくれんぼ
この手紙の中身を見つける時、僕が少しは変われた時だろうと思った
引越しを済ませて入学式を迎えた朝
お父さんからLINEが入った
今のゆずなら大丈夫だ、頑張れよ
不思議な言い方をするなと思ったけど
ありがとう、ちゃんと頑張るよと返し学校へ向かった
入学式を終え、ホームルームが終わり、帰りにスーパーに寄って夜ご飯のメニューを決めなきゃと考えながら帰ろうと席を立ち
僕は固まった
5年前の面影があるその子
教室の入口から見回して目が合った時、泣きそうな笑顔を浮かべた
僕もそうだった
なんで?どうして?
どうでも良かった
夢かと思う現実が目の前にあった
「今度はあたしの番だからね、ゆずちゃん見つけたよ!」
エピローグ
僕が霧葉に返事を返さなくなってから
お父さんと霧葉の叔母さんは色々と話し合っていたらしい
霧葉の叔母さんは霧葉が強く望んで真面目に勉強して生活して、明るさを取り戻した事から、九州からこっちへ(僕の近くへ)戻して暮らさせてあげたい
でも地元では霧葉の両親が居る
ちょうど僕が離れて一人暮らしをする事を希望したのはお父さんや霧葉の叔母さんには願ったり叶ったりだったとか
一人暮らしを希望した理由を聞いてこなかったのもお見通しだった
何も知らなかったのは僕だけだったのか、、
複雑だったけど、腑に落ちない所はなかった
だから二つ返事だったのか
だから今日あんな連絡をしてきたのか
「叔母さんがね、別々で暮らすのが面倒になったらすぐお父さんと私に言ってきなさいねって言ってたよ」
悪戯っぽく笑う霧葉
そして
「冗談は置いといて」
真剣な顔で僕に尋ねる霧葉
「勝手に見つけに来ちゃってごめんね。。その、、また、ゆずちゃんと居ていいかな」
僕は肩をすくめる
恥ずかしいけど、ちゃんと言わなきゃ
「あの頃より出来ることは増えたかもしれないけど、まだ僕はきっと僕だけで出来ることは少ないと思う。でも、一緒に居たいと思う」
霧葉の顔に涙と笑顔が溢れた
その後日
「そういえば手紙ごめんね。今更だけど、読んでもいいかな?」
「え、今?」
僕の部屋でゴロゴロしてる霧葉は飛び起きた
恥ずかしそうな表情を浮かべながらも
ま、いいか
と。
その手紙には、あたしも頑張ってるよ
ゆずちゃんの傍でまた過ごしたいから
今度はあたしが絶対見つけに行くからね
などと綴られてきた
改めて思った
きっともう隠れんぼは必要ない
きっと、いや、もう絶対にずっと
(おしまい)
君とかくれんぼ みなみくん @minamikun
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