君とかくれんぼ

みなみくん

第1話君とかくれんぼ(前編)



霧葉はいつも帰りたがらなかった


塾だったり門限だったり


段々と帰っていくみんなの背中を悲しそうに見ていた


幼い僕でも分かっていた


霧葉が家に帰りたくない理由を


両親が原因だった


霧葉の両親はちゃんと仕事をしてなくていつも喧嘩ばかりしていた


霧葉はクローゼットの中で耳を塞ぐ日々を過ごしていた



分かっていてもどうしようも無くて


僕にできることは1番遅くまで一緒に居ること



いつも最後2人になるとかくれんぼをした



僕が鬼で霧葉を見つける


子供の範囲のかくれんぼなんてすぐに見つかるけど


僕はいつもすぐに見つけなかった


少しでも霧葉が家に帰るのを遅くできるように


霧葉はかくれんぼ上手だね


そう言ってすっとぼけた


遅くなる毎日に親に叱られた


わけを話したかったけど言うに言えなかった


単に門限を破ってる言うこと聞かない子供を演じ続けた


風が冷たくなって来た秋頃


暗くなるのも早まってくるし、冬になればもっと早く暗くなるし寒くなる


そんな心配を持ち始めた時


「ゆずちゃん、きりは1人で大丈夫だよ。寒いし、怒られちゃうよね?ごめんね、早く帰って」



霧葉は気づいていたのか、その時になって僕と同じことを思ったのかそんな事を言った


大丈夫じゃないだろ


特に最近は酒浸りの酔った父親から手をあげられる事もあったみたいで、霧葉の家庭環境は酷くなってく一方だった


僕はもう他に何も浮かばず霧葉の手を引いて僕の家に向かった


お父さんお母さん、霧葉を助けて


霧葉の家庭環境を説明して実際についた痣を見せると、お母さんは直ぐに言った



「霧葉ちゃん、ちょっとの間うちから学校へ行きましょう」



お父さんは「柚子、よく言った」と頭を撫でてくれて

すぐに真剣な顔でどこか電話をしていた


数週間程


霧葉はうちで過ごした


寒い中遅くまで外にいることも無く、普通に学校から一緒に帰って、普通に夕食を食べて、普通に宿題をして、普通に眠って


みんなと同じ生活を送ることが出来た


その時は分からなかったけど


両親は学校や児童相談所、霧葉の両親様々なところに掛け合って霧葉を守ってくれてた



12月に入って少しした時、夕食を食べ終わったあと両親から告げられた


霧葉の両親は共に親族と金銭面のトラブルから数年疎遠になっていて、周りは霧葉の状態を知らなかった


霧葉の母親の妹、叔母にあたるひとが激怒して霧葉を引き取ると言って、それが認められた事



僕らが住む東京から遠く離れた九州に霧葉の叔母は住んでいて、霧葉は九州に引っ越さなければならない


僕は、このまま、霧葉がここに居てこの2ヶ月通リにこのままこれからも生活すればいい、そうあって欲しいと思った


お父さんは僕がそれを言う前に



「柚子、もちろん、お父さん達はこのままでも構わないと思ってる。でも、難しい事でな、やっぱり家族のひとが迎えるって言うとそれを尊重、、そっちを気にしてあげないといけないんだ」



僕が言いたいことが分かっていて、宥めるようにお父さんは言った


霧葉は僕より理解力があるのか、戸惑うこともなく、おじさんおばさんありがとうございますと二つ返事で返した




霧葉の叔母が、迎えに来る前日


霧葉と過ごす最後の日


寝付けずにぼんやりと天井を見上げてると部屋のドアが開いた


「ゆずちゃん起きてる?」


小さな声で、霧葉が顔を覗かせた


「起きてるよ?どうした?」


どうした?と一応聞いてみたけど


不安で眠れないんだろう


直ぐに僕は思った


明日から知らない土地で暮らす


不安になるのは当たり前だろう



「最後だし、少しお話したいなって思って」


申し訳なさそうに言う


「僕も寝れなかったから大丈夫だよ、ほら寒いだろ早く入りなよ」

布団をぽんぽんと叩くと霧葉は少し恥ずかしそうに僕の隣にもぐりこんだ


「今までありがとう本当に」


不安だろうに、それなのにそれを口にせず

ありがとう


僕は泣きそうになった


僕がなにかしたわけじゃない


僕自身の力では何も出来なかった

霧葉を守れなかった

反射的に反転して背を向けた

もし泣いてしまって見られたらと別に僕は何も出来てないよと小さく呟きながら




「かくれんぼさ、いつもわざとすぐみつけなかったでしょ」


唐突に、確信を持って言う霧葉


背中越しに霧葉の体温が伝わる


きゅっと僕のパジャマを摘む




「霧葉が隠れるの上手だったからなー」


とぼけてみるものの、棒読みだし繕えない



「ずっと守ってくれてありがとう」



今度こそ涙が溢れた


「僕は、、何も出来てない。」



背を向けて涙する僕を掴み自分の方へと向かわせられた



恥ずかしい、よりももうずっと違った感情が勝ってそれどころじゃなかった


「ゆずちゃんは、守ってくれた、助けてくれた」



引っ張られ、反転し向き合う


僕の胸に顔を埋める


表情は見えないが、霧葉も泣いていた、涙声だった




長い沈黙だった


お互い少しすすり泣いた後


沈黙が続いた



「辛かったら、、逃げればいい。隠れれればいいよ。例え何処に隠れたって僕が絶対霧葉を見つけるから。」


この先、なにがあるか分からない


そのなにがとやらが具体的には僕には浮かばないけど、霧葉が辛い時また同じように出来る限りのことをしたい


そう思うと自然と言葉が出た




かっこよく、守るからとか助けるからとか


そこまで言えなかった


でも、心の中ではその言葉を付け足した


今は子供だから大人に頼るしかどうにも出来ないけど、たとえ大人になる前だとしても


もしもなにか次にあったら、たとえ自分が子供でも霧葉を守れるくらい強くなりたい



「ゆずちゃんには、迷惑かけてばっかりだね。ごめんね。でも、、」


「うん、いいんだよ。僕がそうしたいんだから」



「ありがとう」


霧葉はまた泣いた


それが悲しくて泣いてるんじゃないということが分かるから僕は安心した



やがて泣き疲れたのか霧葉はいつの間にか眠りについて、僕もそれと同じくらいに眠りについた



これが霧葉と過ごした、最後の日だった



(後編へつづく)





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