第21話
マーウエの町に現れたワイバーンは、俺のアーバレストの一撃で沈んだ。
町の北側は隕石でも墜落したみたいな大穴と、白煙みたいな粉塵がもうもうとあがっている。
それでもそこは町の外側だったので、被害はほぼゼロで、道がへこんだくらいだ。
横たわるワイバーンの死体を、コスモスたちは紅潮しきった顔で見つめていた。
「う、うそ……うそでしょ? ワイバーンを、こんなにあっさりやっつけちゃうだなんて……」
「兵士100人がかりでやっとの相手を、たった一発だなんて……」
「も……もしかして俺たちには、とんでもねぇ味方がついてるのか……!?」
そして、進軍してきたモンスター軍団は青ざめていた。
虎の威を借りていたタヌキが、化けの皮をはがされたように狼狽している。
しかしここまで来て引き下がれるかと、モンスターたちは蛮勇をふるって攻め込んできた。
身構えるコスモスたち。
「来るわよ、みんな! ワイバーンがいなくなったモンスター軍団なんて怖くないわ!
わたしについてきて!
さあっ! アーサーくんの活躍に、つづけぇぇぇぇぇーーーーーっ!!」
「おおーーーーっ!!」
サーベルを振りかざし、先陣切って突っ込んでいくコスモス。
その姿は華麗にして勇猛。
見る者すべてを奮い立たせる、戦いの女神のようだった。
後ろに控えていた援護部隊たちも動き出す。
隊長であるクロッカスが「援護用意」とつぶやくと、隣にいたスピーカー役の女
「援護用意っ!」
と叫ぶ。
すると、
「撃て」「撃てーーーーっ!」
ふたつの掛け声とともに、矢弾が一斉に大空に放たれる。
コスモスたちと今まさにぶつかり合おうとしていたモンスター軍団の先陣に、黒い雨が降り注いだ。
「ギャッ!?」「ウギャッ!?」「ギャアーッ!?」
射貫かれたゴブリンたちは、突っ込んできたコスモスたちに弾き飛ばされていた。
その様子をヨルムンガンドの上で見ていた俺は、息ピッタリの連携に舌を巻く。
「すごいな。先陣が敵と衝突する直前のタイミングで援護の矢を当てるだなんて」
『さすが賢者のクロッカス様ですね。と、感心している場合ではありませんよ、アーサー。
アーバレストの射角を下方に傾斜させて、今度はコスモス様たちを援護しましょう』
「よし、わかった」
俺は水平だったアーバレストを操作して、前傾に傾ける。
『アーバレストは着弾時にかなりの衝撃が発生します。
味方を巻込む恐れがありますので、敵だけが密集している箇所を狙ってください』
「わかってるって」
コイツの威力はガキの頃からさんざん試してきたんだ。
連なった大岩を、3つまるごと粉砕したこともある。
俺はトリガーを引き絞り、麓の町めがけて大槍を解き放った。
……ドシュウンッ!!
発射の衝撃に、座席が揺れる。
……ズドォォォォォーーーーーーーーーーーンッ!!
直後、土煙ととともにゴブリンやオークが派手に宙を舞っているのが見えた。
爆発で吹っ飛ばしているみたいで、なんだか楽しい。
俺は調子に乗って、次々と大槍を打ち込んでいく。
その頃、最前線で戦っていたコスモスたちはというと、
「あっ、コスモス様! ゴブリンたちが荷車で突っ込んできます! このままでは……!」
「みんなよけて! わたしが止めるわ!」
「そ、そんな! いくらコスモス様でも走ってる荷車を止めるなんてムチャです!」
……ズドォォォォォーーーーーーーーーーーンッ!!
「ギャアアーーーーーーッ!?」
直後、問題の荷車に大槍が突きたてられ、ゴブリンごと爆散していた。
コスモスはハッと振り返り、山の頂上にあるマーウエの駅を見やる。
「こ、こんなに離れてる距離から当てるだなんて……!」
コスモスたち先陣の周囲には、落雷のような轟音ととともに、次から次へと大槍が降り注いでいた。
「す……すごい! 敵がどんどん吹っ飛んでいく……! まるで神様が味方してくれてるみたい!
よぉし、みんな! わたしたちには神様がついているわ! だから怖れずに、ガンガン行きましょう!」
「おおーっ!!」
さらに勢いを増すコスモス軍。
数で上回るモンスター軍団の勢いで圧倒、無数の敵軍勢を、抉るように突っ込んでいた。
と、クロッカスたちの所にもモンスターたちが近づいている。
モンスター軍団たちは手勢を分けて援護部隊を急襲するつもりなのだろうが、この山の上からだと手に取るようにわかる。
「あっ、クロッカス様、モンスターたちが攻め込んできました!」
「援護中断、中距離戦闘に切替」
「間に合いません! このままでは、一気に攻め込まれて……!」
……ズドォォォォォーーーーーーーーーーーンッ!!
「て、敵奇襲部隊、ヨルムンガンドの援護射撃により全滅しました!」
「あっそう」
モンスター軍団の手はクロッカスの援護部隊だけでなく、さらにその後ろに控えた衛生兵たちにも及んでいた。
「大変です、グラジオラス様! ゴブリンたちがこの塔に迫って来ています!」
……ズドォォォォォーーーーーーーーーーーンッ!!
「と、思ったんですけど全滅しました! ヨルムンガンドの援護射撃です!」
時計台の上にいたグラジオラスは、マーウエの駅に向かって跪いた。
「わたしたちには戦う力などありません。でもわたしたちにはアーサーさんと、ヨルさんがいます。
いま、わたしたち聖女にできることは、ご武運をお祈りすることだけです」
すると、まわりにいた聖女たちも一斉に膝を折る。
「アーサー様……! どうかそのお力で、わたしたちをお守りください……!」
「そしてこの戦いを、勝利にお導きください……!」
俺は知らなかった。
クロッカスはなんとも思ってなかったみたいだが、コスモスからは頼りにされていること、そして聖女軍団からは神様のように祈られていることを。
なんにしても俺はガキの頃の『射撃ごっこ』を思いだし、大槍の雨を絶え間なく降らせ続けた。
すると気付いたら、モンスターの姿はどこにも見当たらなくなっていた。
相手は数百匹規模の軍勢だったはずなのに、もはやその面影はない。
わずかに残ったゴブリンやオークたちは敗走。
モンスターたちに壊滅的な打撃を与えたにもかかわらず、地上軍の死傷者はゼロ。
まさに、圧倒的といえる大勝利だった。
町のあちこちでは、勝どきをあげる声がおこる。
ヨルムンガンドにいた町の人たちもホームに飛び出し、快哉をあげていた。
「やったやった! やったぁぁぁぁぁぁーーーっ!」
「まさかワイバーン率いるモンスター軍団に勝利するだなんて!」
「しかも町の被害はほとんど無いぞ! 町に残った人たちも全員助かるだなんて!」
「モンスター軍団に襲われて、こんなに無事だった町は初めてだわ!」
「こりゃ奇跡だ! 奇跡だぞっ!」
「いや、奇跡なんかじゃないわ! ユーピトア三姉妹と、ヨルムンガンド……そして、アーサーのおかげよっ!」
「ユーピトア家、ばんざーいっ! ヨルムンガンド、ばんざーいっ! アーサーばんざーいっ!」
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