第8話

 ヨルムンガンドの技能スキルリストは、こんな感じだ。


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ヨルムンガンド レベル17(スキルポイント残3)


 基幹

  1 オートパイロット

  0 ネットワーク

  0 ワールドマップ

  0 レコーディング


 外装

  1 外部カメラ

  1 外部マイク

  1 外部照明

  0 外部アーム

  0 カラーリング

  0 耐火

  0 耐水

  0 耐震

  0 耐雷

  0 耐衝

  0 サインボード


 内装

  1 内部カメラ

  1 内部マイク

  1 内部照明

  0 内部アーム

  2 調理器具

  1 給水

  1 排水

  0 金庫

  0 空調

  0 娯楽

  0 防音

  0 スペース拡張


 非常

  0 防犯

  1 医療

  0 脱出

  0 消化


 兵装

  0 ドローン

  0 リピーター

  0 アーバレスト

  0 パイルバンカー


 腕輪

  1 時計

  1 通話

  0 アシスト


 機動

  0 スピード

  0 パワー

  0 スタミナ


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 ヨルムンガンドは経験を積むことによってレベルアップしていき、スキルポイントを得られる。

 そのスキルポイントを割り振って、技能スキルを覚醒させるんだ。


 ようは、人間と同じだな。


 俺はガキの頃にオモチャがわりにヨルムンガンドを操縦していたので、17レベルまで上がっている。

 スキルも遊び半分で取得していたようだ。


 俺は懐かしい気持ちでスキルリストを眺めたあと、ヨルに尋ねた。


「『基幹』の項目にある、『ネットワーク』と『ワールドマップ』を取得すればいいんだな?」


「はい、そうです。そのふたつがあれば、路線図の作成と登録が可能になります」


 俺は言われるがままに、魔導モニターに映し出されているスキルリストに触れる。

 スキルポイントを2ポイントほど消費して、ふたつのスキルを解放した。


 すると、モニター上のスキルリストが地図に切り替わる。

 俺が今いる、『プリセリア王国』の全体図だ。


 さらに厳密にいうと、俺が今いるのは全体図の南側に位置する『サウスプリセリア領』の『イマイニの街』。


 全体図のイマイニの所には、現在地を示すヨルムンガンドの蛇のマークと、駅を示すマークがあった。

 周囲には駅と駅とを繋ぐようにびっしりと線路が描かれている。


『今日の運行ルートを指でなぞって決定してください。そうすれば自動的に「魔導鉄道ネットワーク」に登録されます』


 ヨルからそう言われ、俺はしばし思案する。


 旅客列車ならば、なるべく人のいる駅を目指したほうが良いのだろう。

 この国でいちばん人が集まる場所といったら、やっぱり……。


 王都っ……!


 俺は車内マイクをオンにして声を張り上げた。


「おい、みんな聞いてくれ! 『アーサー鉄道』はこれより、プリセリア領を北上、各駅停車で王都へと向かう!」


 すると、スピーカーから返事が返ってくる。


『オッケー!』『はい、かしこまりました』『了解』


 車内の様子を映し出している魔導モニターに目をやると、三姉妹は自分の持ち場についていて、張り切って営業の準備をしている真っ最中。

 異論は出なかったので、俺は魔導モニターを指でなぞり、現在地から王都までの路線図を確定する。


 すると、目の前にあった地図は切り替わり、外の様子が映し出された。


 丘の上から見下ろす景色は、どこまでもどこまでも広がっている。

 生まれたての太陽が、俺に向かって微笑んでいるような気がした。


「それでは……出発、進行っ……!」


 新たなる門出に向かって、ゆっくりとアクセルレバーを傾けると、


「「「しんこーっ!!」」」


 と、女神たちの祝福が返ってくる。


 俺にはもう、怖いものなんてない……!

 どこだって行けるし、なんだってできる気がする……!


 灰色一色だった人生をやり直し、塗り替えてやる……!

 いままで俺をイジメてきた奴らを、見返してやるんだ……!


 巨大なる黒蛇が音もなく、丘を這い降りる。

 すると操縦席のスピーカーから、いままで聞いたことのないオッサンの声が飛び込んできた。


『あー、こちら、みなみイマイニの管制室。

 アーサー鉄道、ヨルムンガンド号の現在地を確認。

 これから、南イマイニの駅に来るんだよね?』


 オッサンはやたら馴れ馴れしい口調だった。

 俺が「ああ」と応えると、オッサンはウザそうに溜息をつく。


『はぁ、来たところで無駄だよ?

 ウチの駅じゃ「ユピテル鉄道」が最大手で、小さい鉄道会社の列車なんて誰も乗らないんだよねぇ。

 あ、でもそんなことないと思ってるでしょ?

 幻の車両なら、みんなからチヤホヤされると思ってない?』


 俺は「そんなことはないさ」と答えたが、オッサンはなぜかやたらと俺に絡んできた。


『正直ムカつくんだよね、そういうブランドだけで客を集めようっていう魂胆が。

 でも甘いんだよねぇ、鉄道の利用客なんて、大半が列車には興味ないの。

 幻の列車ヨルムンガンドでも、ただの黒くて気持ち悪い列車でしかないんだよねぇ。

 まあいいや、一般用の6番ホームが開いてるから、来たければ好きにすれば?』


 オッサンはそれだけ言って、通信を一方的にガチャ切りした。

 なんなんだコイツは。


 ヨルムンガンドが最初に停まる駅は、きのう試運転で通った、丘の麓にある『イマイニの街』。

 その街に四ヶ所ほどある駅のひとつ、『南イマイニ駅』。


 しかし管制官のオッサンの嫌な応対のせいで、俺はスルーしたい気分でいっぱいになっていた。

 でも最初の駅から飛ばすわけにはいかないと、指定された6番ホームへと進入する。


 朝の駅はかなり混んでいたが、6番ホームには誰もいない。

 管制室のオッサンの言っていたとおり、みな大手鉄道会社の専用のホームに並んでいた。


 停車して乗降口を開けたところで、乗り込む客は誰ひとりとしていない。


 まあ無理もないか。

 いつ来るかわからない流しの列車よりも、時刻表がキッチリ決まっている、大手の列車のほうがいいもんな。


 それでも何人かはホームをまたいで乗りに来てくれるかと思ったが、誰ひとりとして大手専用のホームから動こうとしない。

 しかも、本来はサポート役であるはずの駅のアナウンスも、例の管制室のオッサンが担当しているせいで最悪だった。


『あー、みなさん6番ホームをごらんください。気持ちの悪い列車が停まってますねぇ。

 あんな列車に乗っちゃうと、一日最悪になるでしょうねぇ』


 あのオッサンがヨルムンガンドになんの恨みがあるかは知らないが、完全に足を引っ張りにきている。


 う……う~ん。

 張り切って鉄道会社なんて始めたものの、これはもしかしたら、かなりの前途多難なんじゃ……。


 なんて思っていた矢先、魔導モニターごしに、からっぽのホームに飛び出してくコスモスの姿が見えた。

 途端、ホームのスピーカーから割れんばかりの絶叫が響く。


『えっ!? ななっ、なんでコスモス様が、こんなところに!?

 オーナーのはずなのに、なんで客室乗務員みたいな格好でっ!?』


 連鎖的に、向かいのホームにひしめきあっていた客たちが、ドミノ倒しのようにバタバタと倒れる。


「こ……コスモス様……!? えっ……えええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 誰もいないホームに突如として降臨した、逆転の女神。

 彼女はスポットライトの集まるステージに立つかのように、満面の笑顔で手を振っていた。


「南イマイニのみなさーんっ! こんにちはーっ!

 この列車は王都まで向かいまーすっ! ぜひ乗っていってくださいねーっ!」

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