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uto

第1話

闇ニ紛レ、闇ニテ討ツ


これは、私の家系に代々伝わる家訓の様なものだ。

察している者もいるとは思うが、私の家は暗殺を仕事としている。

家柄がその道では有名なので、依頼は多く、金にはあまり困らないのだが……


「なんだよ、反抗的な目じゃねぇの。良いよなぁ、10銭くらい。」

「ここは水島組が守ってやってる町なんだ。ここでは、俺らが規律なんだ、分かるよね?」


分別のない侍二人に絡まれている。

何故こうなっているかと言うと数刻前すうこくまえさかのぼる。



(あれが関所か。)

道の先に小さく茶色い門が見える。

大名をあやめるために、この町に来たが子供もと言うのはあまり乗り気ではない。

関所を抜けると、にぎやかな大通りに出た。

売り子の声や食べ物の匂い、人の話し声が陽気に交わされる。

(道の奥の方で、町娘の黄色い声が聞こえる気がする。)

時は牛刻ごこく。昼飯時だから人が多いのだろう。

雑踏ざっとうの中、大通りを行くと、醤油の良い香りが漂ってきた。


香りの元は、杏仁堂という甘味処のようだ。

こんにちは と暖簾のれんをくぐると、店の中は客で一杯だった。

所在無く入り口で突っ立ってたら、奥の厨房から、女性の声が飛んできた。


「いらっしゃーい。好きな席に座っておいて頂戴!」


迷っていると先に入っていたおじさんが席を勧めた。

「お前さん、旅の者かい?女の一人旅とは、危ねぇや。」

おじさんは、調子よく喋る。

敵意や探りなどの意は無さそうなので、会話をする。


「ああ、よく声をかけられるんだけど、護身術ごしんじゅつを習った事があってね。お陰で助かってるんだ。」


当たり障りのない旅の話をしていると、机に人が当たった。

「あぁ?何でこんな所に机があんだ?危ねぇだろうが!」


声の方を見ると、侍二人がこちらを見ている。


「美味そうな物食ってんじゃん。貰うわ。」

言うが早いか、侍は私の団子を口に運ぶ。

(相手の了承も何もなしか?)


「そんな物食うな。舌がおかしくなる。」

机に当たってきた侍が小馬鹿にしたように言った。

少々感情的になり、相手の目を見据えて手のひらを前に出す。

「10銭……10銭払え。」



ここで最初に戻るという訳だ。

さっきまで話していたおじさんは、脱兎のごとく帰っていった。


「なんだよ、反抗的な目じゃねぇの。良いよなぁ、10銭くらい。」

「ここは水島組が守ってやってる町なんだ。ここでは、俺らが規律なんだ、分かるな?」


「知らないな。旅のものなものでね。」

串に刺さっている団子を、食べながら嗤笑ししょうすると案の定、怒りに触れたらしい。

侍は女だから手加減てかげんしてやる、と木刀を抜いた。


「ならば、私はこの串で十分だな。」

刀の構え方もなっていないのに、喧嘩けんかを吹っかける相手も間違えるとは目も当てられない。

一触即発。お互いに睨み合う。


通りから、黄色い悲鳴やら何やらが聞こえてきて、

こんにちは〜 と暖簾をくぐる呑気な男が店に入ってくる。

険悪な雰囲気の私達を見て、苦笑いしている。


「えっと、何でこうなってるのか説明できる?」


侍に向けられた目は最後の方には笑っていなかった。

そんな男を見ると侍達は顔を青くして、逃げ去っていった。

男は、逃げる男を見て溜息をつき、視線を私に向けると、穏やかに笑った。


「大丈夫だった?何があったのか教えてくれるかな。」

袖に向かって青く染まっている羽織、青い柄の刀。

(もしかしたら、青龍の巫女みこって…いやでも男だよな?)

誰だ?姿勢や身体つきから見て、さっきの奴よりは強いことは確かだ。

男を観察しながら、何があったのか説明する。



「じゃあ、これどうぞ。迷惑料として受け取って下さい。」

出された手には10銭が乗っている。

「いや、10銭が大事な訳じゃないし、貴方が何かした訳じゃないから要らない。」

その代わりしっかり教育しておいてほしい と言うと男は笑って承諾した。


「そうだ。僕は竜也りゅうやって言うんだ。旅の人だと青龍の巫覡ふげきとか巫女の方が聞いたことあるかな?」

じゃあまた縁があれば と言いながら来た時のように呑気に暖簾をくぐると、外から歓声が聞こえた。






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