【絵本】おしろのなかのおひめさま【おもひで古書店】

貴音真

【おしろのそとをゆめみたおひめさま】

 おおきなおしろにちいさなおひめさまがすんでいました。

 おひめさまはいちどもおしろのそとへでたことがありませんでした。


 わたしはおしろのそとへでたいの!

 たいくつなおしろのなかでのくらしはもうあきたの!

 おそとー!

 おそといきたいー!


 おひめさまはいつもそういってパパとママをこまらせていました。

 あるひ、おひめさまはパパとママにナイショでおしろからぬけだしました。

 おしろのそとにはわるいヒトがたくさんいて、あぶないからひとりでそとにでちゃいけないとパパとママにいわれていました。

 けれども、はじめておしろのそとへでたおひめさまはそのことをすっかりわすれていました。


 おじょうさん、こんなところでなにをしているんだい?

 どこのおうちのこかな?


 おとこがおひめさまにはなしかけてきました。


 わたしはね、おしろのおひめさまよ。

 きょうはパパとママにナイショでおさんぽしているの。


 おひめさまはパパとママにしらないひととおはなしてはいけないといわれていました。

 けれども、はじめておしろのそとのせかいをみたおひめさまはそのことをすっかりわすれていました。


 そうか、おじょうさんはおひめさまか。

 おさんぽするならおじさんがたのしいところにつれていってあげよう。


 おとこはそういっておひめさまとてをつなぎました。


 ほんとー!

 やったあー!

 ありがとー、おじさん!


 おひめさまはおとことてをつないでさんぽをはじめました。

 おとこがおひめさまをさいしょにつれていったのはパンやさんでした。


 わあー!

 おいしそうなにおいがするー!

 たべたいたべたいたべたいー!


 おひめさまはパンをほしがりました。


 うん、いいよ。

 いっぱいたべなさい。


 おとこはおひめさまにパンをかってあげました。


 おじさん、ありがとー!

 このパンおいしー!


 パンをかってもらったおひめさまはおなかいっぱいになり、よろこびました。


 うん、どういたしまして。

 じゃあつぎいこうか。


 にばんめにいったのはようふくやさんでした。


 わあー!

 きれいなおようふくー!

 きてみたいー!


 おひめさまはようふくをほしがりました。


 そうかい。

 なら、きてみるかい?


 おとこはおひめさまにようふくをかってあげました。


 おじさん、ありがとー!

 どうかなー?

 わたしきれいー?


 ようふくをかってもらったおひめさまはあたらしいようふくをきせてもらい、よろこびました。


 うん、きれいだよ。

 じゃあつぎいこうか。


 さんばんめにいったのはぬいぐるみやさんでした。


 わあー!

 かわいいー!

 ほしいほしいほしいほしいー!


 おひめさまはぬいぐるみをほしがりました。


 はいはい、かってあげるよ。

 すきなだけえらびなさい。


 おとこはおひめさまにぬいぐるみをすきなだけかってあげました。


 おじさん、ありがとー!

 すごいー!

 ふかふかー!


 ぬいぐるみをいっぱいかってもらったおひめさまは、よろこびました。


 そうだね、ふかふかだね。

 じゃあつぎいこうか。


 よんばんめにいったのはおやまでした。


 わー!

 たかいー!

 もっともっとうえにいきたいー!


 おひめさまはおやまのいちばんたかいところへいきたいといいました。


 きをつけていこうね。

 ほら、しっかりてをつないで。


 おとこはおひめさまをやまのてっぺんへつれていきました。


 おじさん、ありがとー!

 あー!

 おしろがみえるー!


 おやまのてっぺんからのふうけいをみたおひめさまは、よろこびました。


 そうか、あれがおじょうさんのおうちか。

 じゃあつぎいこうか。


 おとこはおひめさまのおうちのしろのばしょをかくにんしていました。

 そらはだんだんとくらくなってきていました。

 ごばんめにいったのはくらいもりのなかでした。


 おじさん、ここくらいよ?

 それにちょっとこわい…

 よるになっちゃったし、もうかえらないと…


 おひめさまはくらいもりのなかがこわかくておとこにそういいました。

 そらはすっかりくらくなっていました。


 おじょうさん、なにをいっているんだい?

 きょうからおじょうさんはここでくらすんだよ?


 おとこはそういうともりのなかにあるおうちにおひめさまをつれていきました。

 おとこのおうちのなかはまっくらでした。


 やだよ!

 こわいよ!

 くらいよ!


 おひめさまはまっくらなおうちがいやでおとこのうちからとびだしました。

 そとにでるとそこはまっくらでこわいもりのなかでした。

 おひめさまはおしろのばしょも、じぶんがどこにいるのかもわかりませんでした。


 ほら?

 どこへいくんだい?

 おしろのばしょもわからないのに…

 さあ、おうちにはいりなさい。

 いいこだから…

 ね?


 おとこはまっくらなおうちのなかからおひめさまをよびました。

 まっくらなおとこのいえのなかは、まっくらでこわいそとよりも、もっともっとこわくてまっくらでした。


 いや!

 わたしはおしろにかえるの!


 おひめさまはおとこのことがこわくなってはしってにげだしました。

 どこにむかってにげているのか、おひめさまにもわかりませんでした。

 そのときでした。


 コラアアアア!

 マテエエエエ!

 ニガサナイゾオオオオ!


 おひめさまがにげだすと、おとこはとつぜんツノのはえたアクマになりました。

 あかいめをしたアクマは、おおきなキバがはえたくちをひらき、こわいかおでおひめさまをおいかけてきました。


 いやああああ!

 こないでええええ!

 パパー!

 ママー!


 おひめさまはこわくてなきながらさけびました。

 なきながらパパをよびました。

 なきながらママをよびました。

 でも、パパはきませんでした。

 おひめさまがいくらよんでもママはきませんでした。

 パパとママはどこにもいませんでした。


 サケンデモムダダヨ!

 ココニハ、パパナンテイナインダヨ!

 ココニハ、ママナンテコナインダヨ!

 ココニハ、オレトオマエシカイナインダヨ!

 グヘヘヘヘ!


 アクマはわらいながらおひめさまをおいかけてきました。

 こわくてないているおひめさまを、アクマはたのしそうにわらいながらおいかけてきました。


 たすけてえええ!

 だれかあああ!


 おひめさまはたすけをよびました。

 おひめさまはしらないダレかにたすけてといいました。

 だれもたすけにきませんでした。


 ダレモ、タスケテクレナインダヨ!

 ダレモ、ミカタハイナインダヨ!

 ホオラ、ツカマエタア!


 とうとう、おひめさまはアクマにつかまってしまいました。

 アクマはおひめさまのてをつかむと、むりやりアクマのいえのなかにつれていきました。

 いえのなかはやっぱりまっくらでした。


 やだよ…

 こわいよ…

 かえりたいよ…


 おひめさまはくらくてこわいアクマのいえにとじこめられてしまいました。


 サテ、コレカラオマエハココデクラスンダ!

 シッカリ、ハタライテモラウカラナア!

 グヘヘヘヘ!


 おひめさまはアクマにつかまり、アクマのおひめさまとしてそだてられました。

 アクマにそだてられたおひめさまは、だんだんとアクマになっていきました。

 おひめさまのあたまからはツノがはえ、くちにはキバがはえてきました。

 アクマになってしまったおひめさまは、おおきくなってもパパとママがいるおしろにかえることはできなくなりました。

 アクマになってしまったおひめさまはアクマとしてヒトにわるいことばかりしてくらしました。

 そして、さいごはアクマとしてヒトにたいじされてしまいました。

 しぬまえにおひめさまはパパとママのことばをおもいだしました。

 おしろのそとにはわるいヒトがたくさんいて、あぶないからひとりでおしろのそとにでてはいけないよ。

 わるいヒトとはアクマのことだとおひめさまはやっときがつきました。

 おひめさまはパパとママのいうことをきかずにひとりでおしろのそとにでて、さいごはパパとママにあえないまましにました。




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