特別な

2子

第1話

『今日のゲストはこの方です!!どうぞ!』

テレビから人気芸人の声が流れる。

陽気な音楽に合わせて赤いカーテンが左右に開いた。

笑顔でお辞儀をしながら、指定されていたのであろう椅子まで歩いていく、背の高いイケメン。

観客席から黄色い声が、ゲストに向けて大雨のように降り注いだ。


『今日のゲストは、今人気のモデル、

長谷 璃斗さんです!』

MCからの紹介でさらに歓声は大きくなる。


最近人気の芸能人を紹介する、よくあるようなテレビ番組を、俺、長谷 里生は部屋の明かりもつけずにボーッと眺めていた。


「ただいまー」

玄関のドアが開き、誰かが帰ってきた。


「あれ?誰かいるのー?」

リビングの扉を開きながら、間延びした声を出す男の人。


「暗っ。里生、テレビ見るなら電気つけろよな。目、悪くするぞ」

俺は椅子から立ち上がってそいつに抱きついた。

「おかえり、兄ちゃん。」

「ただいま、、、って、また俺が出てる番組見てたの?」

俺は顔を上げてテレビをみる。

画面では兄ちゃんと同じ顔の人がMCからの質問に笑顔で答えていた。

「兄ちゃんが出てるのは全部見るよ。俺、兄ちゃんが好きだもん」


俺の兄ちゃん、長谷 璃斗は今超絶人気のモデルさん。

185cmの高身長に、傷みを知らないサラサラの黒髪、スッと通った鼻筋と青色の切れ長の目、薄い唇、完璧な体型、誰もが認めるイケメンな俺の兄ちゃん。


大好きな兄ちゃんが出てるテレビは全部チェックしてる。


「そうだ、里生。晩御飯なににする?久しぶりに里生が起きてる時間に帰ってこれたから、俺が里生の食べたいもの作ってあげるよ。」


「ほんとっ?」

兄ちゃんの目に映る俺の顔は、心底嬉しそうだった。


〜♪〜♪


兄ちゃんとの時間を楽しんでいたら、俺のズボンのポケットが、耳障りな音楽を流しながら細かく揺れる。


「里生、スマホ鳴ってる。でなよ」

「やだ。」

せっかくの兄ちゃんとの時間を誰にも邪魔されたくない。

「だめ、出なさい」

「、、、チッ」


俺は渋々、スマホを取り出し、電話に出た。


「、、、何。」

俺が電話してると、兄ちゃんがゆっくり離れてキッチンに行った。

兄ちゃんの温もりが段々と無くなっていくのが寂しい。

俺は兄ちゃんのとこまで行って、背中に抱きついた。

「兄ちゃん、俺、オムライスがいい」

小声で晩御飯のリクエストをした俺に、

兄ちゃんがニコってして、俺の腕をトントンしてくれる。

そのまま、兄ちゃんは晩御飯の準備に入った。

【ちょっと、里生、きいてるー?】

電話から、男の声が聞こえる。

「早く要件。」

兄ちゃんとの時間を邪魔されてイライラしている俺の頭を兄ちゃんはぐりぐりと撫でる。

それだけで、心が落ち着く。


【怒んないでちょうだい!あんたの為に仕事繋げてあげてるんだから!】

上から目線のこいつは、俺に仕事を流してくれる仲介の田中 元次郎。

ロン毛でメイクバッチリのオネェだ。

あと、ゴツい。

【ちょっと!失礼な事考えてるでしょ!】

「チッ」

「里生、舌打ちしすぎ。」

「んんんんん」

兄ちゃんに言われて心臓がうーってなったから、兄ちゃんの背中に頭をぐりぐりした。


【あら?!璃斗君もいるの?!やだぁ!!ちょっと会話させて!!あたしファンなのよ!!】

「うぜぇ。テメーが兄ちゃんの名前口にすんな。殺すぞ」


「こら、口悪いぞ、里生。」

「、、、んんんんんっ」

また心臓がうーってなって頭をぐりぐりする。


【はぁ、、、全く、、ブラコンがすぎるわ。】

一々、癇に障る。

イライラが増して兄ちゃんにもっと強く抱きつく。

「、、、、要件」

【はいはい。まったく里生はせっかちねぇ。】

あーむかつく。

【また、清原組からの依頼よ。詳細はメールを確認してちょうだいっ!あと!清原組の組長からあんた頼りにされてるんだから、スマホの番号くらい交換しなさいよ!】

「しない。報酬いくら」

【はぁ、、、その性格どうにかしてちょうだい、、あたしがいつまでも仲介する訳には行かないのよ。】

「元次郎、半分情報屋みたいなものだから。」

【元次郎って呼ばないで!紗夜って呼びなさい!】

「報酬いくら」

【ほんっと!ムカつく子ね!!まぁいいわ。報酬は50万よ。しっかりやってちょうだいね!】

ブチッ


「りーお。挨拶してから切りなさい。」


「、、、んんんんんっっ」


俺は兄ちゃんから離れて紗夜からのメールを開く。

(チッ、今日までの依頼じゃねぇか。兄ちゃんとの晩御飯、、、)


「里生?どうした?顔が暗いぞ?」


「兄ちゃん、、仕事入ったけど行きたくない。」

「何かあったのか?」

心配そうな顔の兄ちゃんを見上げながら

「兄ちゃんと晩御飯食べれなくなる。」

と言うと、

「里生、俺、明日休みだから、明日は一日一緒にいよう。な?」

って、優しい顔で言ってくれた。

心臓がきゅぅってなって、暖かくなる。


「わかった、、行ってくる。」

「うん。行ってらっしゃい。気をつけてね。」

兄ちゃんから頭を撫でてもらって、俺は黒いパーカーとジーンズに着替える。

ポケットから黒の手袋を取り出して装着する。

これが俺の仕事着。

もう一度、兄ちゃんに抱きついてから家を出た。

メールで場所を確認して歩き出す。

今日は月の光が眩しくて、俺はフードを深くかぶった。


10分歩いたところで、目的地につく。

そこは 高そうなマンションで、オートロックがついている。

(中には入れないな)

どうしようか考えていると、1台の車がこのマンションの駐車場に入るのが見えた。

運転席には俺が探している人物が乗っていた。

俺はすぐに駐車場の近くまで歩いて行く。

(ここなら監視カメラの死角だ)

そこでジッとしていると、駐車場から男が出てきた。

俺は通行人のフリをして横を通る。

何回も同じことをしているはずなのに、未だに身体は慣れてくれない。

心臓の音が耳元で聞こえる。


後ろで、大きな物が地面に落ちる音がした。

振り向くと周りが赤く染まってきている。

俺は、痛みで呻く男にゆっくりと近づいて、しゃがんだ。

「、、っ、、てっ、、めぇ、、」

苦しそうな声が俺に向けられる。

「、、おっさん。右手、もってくね。」

おっさんの手首に血のついたナイフを当てる。

「ひっ、、やっ、やめてくれ!!」

「おっさん、暴れるともっと痛くなるよ。あと、うるせぇ」

「う゛ぁ゛」

おっさんの喉を踏みつけたまま、ナイフを動かす。

あたりに血が吹き出した。

「、、、う゛っっ、、、ぁ゛、、」

もうおっさんの意識は殆ど無い。

「、、、骨が固いな。」

俺はポケットから小型のノコギリのようなものを取り出し、骨を切っていく。

ゴリゴリと嫌な音があたりに響いた。

「、、、、袋忘れた」

切り落としたおっさんの右手をもって揺らしてみるが、流石にこのまま持っていくのはダメだろう。

(どうしよ)


その場でおっさんの死体と切り落とした右手とを交互に見ながら考えていると、目の前に黒スーツの男が立っていた。

そいつは黒のサングラスに黒のマスクをつけて俺を見ている。

「、、、誰」

「清原組です。死体と右手を回収しに参りました。」

ちょうどいい所に、依頼主の部下が来てくれたらしい。

俺はそいつに右手を渡す。

「掃除もよろしく」

「はい。」

俺はナイフと小型ノコギリをポケットにしまって、手袋も裏返してまとめ、ポケットに入れた。


リバーシブルなパーカーを裏返してもう一度着る。

フードを深くかぶって帰路についた。


家についた頃には日付も変わっていて、リビングには明かりがなかった。

(兄ちゃん、寝てる)

ソファでぐっすりな兄ちゃんの顔を眺めたあと、風呂場に向かった。


身体を綺麗にして兄ちゃんの前にしゃがみ、兄ちゃんのお腹に額をぐりぐりする。

「兄ちゃん、起きてー。ベッドで寝ないと風引く、、、にぃちゃーん。」

「んんー、、、あ、おかえり、りお」

ちょっと寝ぼけた感じの声で名前を呼ばれてきゅんとする。

イケメンはよだれを垂らしててもかっこいい。

というか兄ちゃん好き。

「兄ちゃん、ベッドで寝る」

「うん、一緒に寝ようね。その前にご飯食べる?オムライスあるけど」

「え、、食べる」

目を輝かせる俺をみて、兄ちゃんはクスクスと笑った。

「温めてくるよ」

兄ちゃんは立ち上がって台所に行く。

俺は椅子に座って紗夜に依頼終了のメールを送る。

すぐに、報酬が振り込まれたと、通知が飛んできた。

これで依頼は完了。

「はい、オムライス」

俺の目の前に、ホカホカのオムライスがのった皿が置かれる。

「兄ちゃん、ケチャップで何か描いて。」

「えぇー、、、んー、、あ。」


何か閃いたのか、ケチャップの蓋を開けてオムライスに何か描いていく。


「はい。里生へ」

「っ、、、兄ちゃん、、俺も大好き。」

二人で笑って、俺はケチャップで大好きと描かれたオムライスを食べ始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

特別な 2子 @susitabetai_na

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ