10話.[こんなところで]
放課後、朱夏さんとふたりきりで行動していた。
僕が相手だというのに普通に楽しそうにしてくれて嬉しさしかないが、いまは少しの不安があるのも事実だ。
「零くん零くん」
「どうしました?」
彼女は凄く接近してきて、僕の耳元で「これはふたりだけの秘密ね」と言って笑った。
本当に大輝さえいなかったら朱夏さんを狙っていたのに。
ま、大輝がいなかったら朱夏さんと関わることもなかったんだから不可能だが。
「なにがふたりだけの秘密だ」
「そうですよ、私のか……友達を勝手に誘って」
「うぇ!? なんでふたりがここにっ、さらばー!」
あっ、僕だけが残されてしまった。
ふたりの視線が突き刺さる。
「ま、朱夏が勝手にしたことだろうから許してやるよ、じゃあな」
大輝は意外にも寛容なまま朱夏さんを追っていった。
だが、ここには最大の強敵がいることを忘れてはならない。
「もう浮気なの?」
「違うよ、なんか寂しかったんだって」
「こっちに来なさいっ」
彼女のことを考えればせめて言ってから出るべきだった。
でも、朱夏さんには本当にお世話になったからお礼をしたいという考えもあって。
「こんなところで抱きしめたりなんかしたら誰かに見られちゃうよ?」
「いいわよ、恥ずかしいことではないもの」
「そっか、それならいいけど」
片腕で抱きしめ、片方の手で彼女の髪を撫でる。
さらさらで触れているだけで気持ちがいい。
「キ…………したい」
「え、それってまさか」
「あなたは私のことが好きなのよね? 私はあなたのことが好きよ?」
「分かった」
とはいえ、かなりぎこちなくなったのは言うまでもなく。
終わった後に謝った、あとはこんなところでしたことを反省した。
家でとかいくらでもあるのにね、別にそこまで不健全なことではないのだから。
「これからは言ってからにして」
「うん、約束する」
「私も誰かに誘われてもちゃんと言うから」
「うん、ありがとう」
いまからがスタートだ。
どれぐらい記録を伸ばせるのかは分からないが、こうなれたことがただただ幸せだった。
36作品目 Nora @rianora_
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