図書館で出会った、男の子に恋をするけど全く脈なしだった件、それでも頑張ってもいいですか?

ふわりん

初めの記憶

 まず、初めにこの世界の説明をしよう。世界とは、数多の国、自治区、文化、宗教から成り立つ。日が昇り、沈めば星空が広がる。

 一日は24時間と決められており、1時間は60分、1年は365日。

 山があり、海があり、空には時にドラゴンが飛ぶ、つまりこの説明を聞く貴方が思い浮かべた世界と殆ど同じと言っていいだろう。


 この手記、或いは記憶は私自身が見聞きしたこと、時に体験したことを軸に記していくが、記述していく上で分からない未定の部分は推測で補っているということを忘れないで欲しい。


 つまり、物事には多面性があるのだということだ。


 ある者にとっては正義であったとしても、別の見方をした時必ずしも正義であるとはいえないという事だ。




 それでもどうか、数多の書物の中からこの手記を手に取った貴方に私の知る限りの物語を聞いて欲しいのだ。



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「あ、あの、と、となりに座ってもいいですか?」


 ミリアはやっとの思いで見つけた席に縋るような視線を送る。


 新学期早々に大量に出た課題をこなすため、図書館にやってきたのはいいものの、何処も彼処も人でいっぱいだったのだ。


 仕方なく、書庫の1番奥の座席(本来は閲覧のみに使われるであろう座席)にやってきたのだ。


 1番奥なら誰もいないだろうと思って、重たい資料を片手にやってきたのに、もう先客がいた事にミリアはガックリ肩を落とす。


 本来は閲覧のみに使われるこの書庫の座席で、レポートの作成だなんて、司書に見つかってしまったのなら大激怒では済まないかもしれない。(司書のグレイスはルールに厳しいということで有名だ。実際ここに来るまでに、グレイスの怒声が幾度となく聞こえた)


 黒いサラサラの髪に、白い肌、きちんと着込んだ制服には皺ひとつない。その綺麗な横顔に目が離せなくなる。本に落とされた視線は、揺らぐことなく…ミリアの声など聞こえなかったかのように微動だにしない。


 どんな声なんだろう、返ってくるのは肯定か、否定か、沈黙が苦しい。ただでさえ静かな図書館に、更なる静寂が訪れる。


 もしかしたら、きこえなかったのかな?

 もう1回声をかけてみようと、思った瞬間、パタリと本を畳む音が聞こえた。



「どうぞ」


 少年はそう短くつぶやくと、1度もミリアの方をみることもなく、まるで消えるようにその場から立ち去って行ってしまった。


 残されたミリアは、今の一連の流れを理解出来ずにしばらくの間立ちすくんでいた。

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図書館で出会った、男の子に恋をするけど全く脈なしだった件、それでも頑張ってもいいですか? ふわりん @cla1212

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