春雨スープ

山芋納豆オクラ

第1話春雨スープ

「おはよう」

「おっはよー。ミチル」

 そう言ってヒスイは僕の頬にキスをした。唇で触れるだけのキス。彼にとっては家族間で行われるごく自然なものだ。朝ともに目が覚めて、挨拶をして頬に軽いキス。彼の朝のルーティンワーク。最初は一々恥ずかしがってた僕も、もうすっかり慣れてしまった。

「今日は何にする? シャッキリ目が覚めるようなチゲ? あっさりした卵? それとも酸っぱいサンラータン?」

「んー、今日は卵」

 それからようやくお互い起き上がる。ヒスイはルーティンワークの一つ、大好きな春雨のインスタントスープを作るため、お湯を沸かしにそのままキッチンに向かう。僕は肌寒く感じたので昨日脱ぎ散らかしたままだったパジャマを着ることにした。着た後、洗面台に向かい洗顔をし、僕用の化粧水をコットンで塗る。乳液は顔の他に首周りと手に直接付ける。キッチンに足を向ける前に、寝室によってヒスイの分の服を持っていく。下着姿のまま食事するのは流石に行儀が悪い。ベッドの上ならまだしも。

「ほら、これ着ろよ」

 ヒスイに服を渡す。彼はありがとー、と気の抜けた声で受け取りそのままき始める。その間僕は朝食の春雨スープ用の大きいマグとフォークを食器棚から取り出す。互いのイニシャル入りのマグはヒスイのお気に入りだ。

チュッ。と、服を着おわったヒスイになんとなくキスをする。彼は噴火したように顔が赤くなる。

「えっ、ミチルからキスしてくれるなんて何ごと!? 天変地異の前触れ? もしかして今日が審判の日だった!? それとも俺のことが本当は嫌いで、別れる前の置き土産としてのキス!? ヤダヤダヤダ離れないでミチル! 世界が君を憎んでも、俺だけはミチルを愛し続けるから!!」

「何がどうなったらそういう思考回路になるんだお前は」

 パチン、そこで丁度よくケトルのお湯が沸いた。マグにすでに出してあったインスタントの春雨スープ卵味をマグにお湯と一緒に入れる。とりあえず一人アポカリプスが訪れたのは放っておいて、嫌いな春雨スープをヒスイと食べよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

春雨スープ 山芋納豆オクラ @yamaimookura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ