上級編

終幕

 死は平等なのかもしれない。

 でも同時に強い理不尽を伴ってくる。

 弱きものが死に、強き者がくじかれる。

 情けも容赦もなく、一切の慈悲もない。

 ゆえに、そこに優しさすら感じさせる者がいる。


 乞うもの。

 諦めたもの。

 先がないもの。


 死を信奉し、死のために死にゆく怠け者たち。

 生きることを辞め、責任を放棄し、命を投げ出す。

 自らを殺すわけではないと、必死に言い訳の並べながら。


 人は、彼らを異端者と呼び、愚者と蔑んだ。


 僕も、そうなのかもしれない。


 今、まさに死へと向かっている。

 力があると簡単には死なせてくれないようだ。

 下半身を失い、血がこれだけ流れているのに、まだ死ねない。

 息苦しさも増してきているのに、はっきりと意思だけが残っていて。

 とても、気持ちが悪い。


 これなら、もっと強くなるなんて思うんじゃなかった。

 力を求めようとするんじゃなかった。

 そもそも。

 一人でいようなんて、思ってしまったのが間違いだったのかもしれない。

 僕はただの、盗賊で、暗殺者で、力があるだけの――。


 いや。


 もう僕は、立派な大人なんだ。

 学生じゃない。

 自分で選んで、自分の責任でここまで来た。

 命を投げ出すことになったのも、優しい人たちの手を振り払ったのも、孤独であり続けたのも、環境などのせいじゃない。

 僕が、僕のために、選んだんだ。

 そう思うと、あんまり悔いがなくなった。

 まだやりたいことはあったけど、それでも悪くないと思うんだ。

 元の世界じゃ、何にもできなかったと思うから。


 それに、僕は、一人だけど、ひとりじゃない。


 多分きっと、短い間だけど、思ってくれる人はいると思う。


 ぼっちだけど、ぼっちじゃない。


 いや、まあ、正確に言えば、ぼっちかもしれないけど。


 いいじゃないか。最期くらい。


 がんばったよ。




 僕。



     〇



 不磨七五三夫は地上に帰ることはなかった。

 その名だけを知っている者たちは「ああ、やっぱり」と気狂いの上級者と同じように捉えて、瞬く間に忘れていった。

 ただ。

 長い付き合いになった鍛冶屋の者たちは違う。

 多くは語らなかった。

 帰ってこなかった事実だけが、そういうことなのだと、実感させる。


「…………馬鹿野郎」


 寂しそうに、そう呟いて。


 この物語は、終わりを告げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転移したって『ぼっち』は『ぼっち』 雨のモノカキ @afureteiru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ