プロローグ

立花ゆ

第1話

「ようこそ、物語の世界へ。」


目を覚ますと図書館らしき場所に立っていた。周りを見渡す限り本が並べられている。

「本日はどの物語にいたしましょう。そうですね…26番がオススメですよ。」

空から声が聞こえた。現代の図書館は音声でオススメも教えてくれるのか。すごい世の中だな。

「よくわからないけど、ラッキーセブンで。あと、そのオススメのやつも。」

「かしこまりました。では、よい旅を。」

室内のはずなのに急に強い風が吹いてきた。ざざーっと強風が部屋内を抜ける。私は思わず目を瞑ってしまった。

「本日は特に風が強くなっております。お気をつけていってらっしゃいませ…」


目を開けると女の子がこちらを見ていた。

「あ、目が覚めたみたいですね。大丈夫ですか?そこで倒れていたんですよ。」

は、なんで幼女が私に話しかけているんだ。生憎幼女の友人はいない。むしろ普通の友人すらろくにいない。いや、そんなことはどうでもいい。ここは何処だ。どう見ても森にしか見えない。

「お姉さんは何処から来たの?」

えーと、群馬と言えばいいのか、まずここは日本なのか、ちっぽけな思考回路をぐるぐる回して考えた挙句に言った。

「お姉さんはね、お空から来たんだよ。君は何処から?お家は?」

我ながら恥ずかしいことを言ったと思う。こういうのを黒歴史と言うのだろう。一刻もはやく忘れないと、なんて。

「私はね、あのお星様に住んでるの。今日はお姉さんに会いに来たんだよ。」

ニコニコしてるが発言は奇妙極まりない。お星様に住んでるなんて、今時こりん星じゃ芸能界はやっていけないぞ。心の中で突っ込みをし、再び問いかける。

「私に何か用があるの?」

「うん、お姉さんにこれあげる。渡してって頼まれたんだ。」

ありがとう、と一言告げ渡された手紙を受け取った。そっと開けて読む。

「如何お過ごしでしょうか。そろそろ次の旅へ移動します。また風が吹きますのでお気をつけて。」

手紙の内容はこうだった。

「あのさ、この手紙誰に渡されたの?」

「それはね……」

ざざーっという風に幼女の声はかき消され、私はまた目を瞑った。


再び目を開けると…真っ暗だった。光ひとつない暗闇、という言葉が適切と言っていいほどだった。とりあえず立ち止まっていても何も変わらないと歩き出す。ただしなにも見えないため此処はどこなのか、何処に何をしに向かっているか、まず私はちゃんと歩けているのか、何もかもわからない状態であり暗闇と自分との精神の戦いであった。


かちっ

突然スイッチを押したような音が鳴り響いた。宛てのない戦いをしていた私に希望の光が見えた。音が聞こえた方へ走り出す。

かちっ

また、同じ音が響いた。もしかしたら明かりがつくのではないか、確信ではないが私に何かを訴えてるように聞こえた。音がする方へ呼んでいるのだろうか。

ぱぁん

すると、一面に明かりが撒き散らされた。

「…星だ。」

まるでこの場所全てが夜の星空であるかのような空間に様変わり。先程会った幼女が住んでる星がこの中にあるかもしれないと、ふと思った。さっきから何が起こっているのか私には全くわからないがこの星空が見れたのは幸運だったと思えた。


「こんにちは。」

後ろから声が聞こえ、突然のことに驚き飛び跳ねそうになった。「そう驚かないでくださいな。自分は此処の住人です。どうぞこれを。貴方が来たら渡すように言われていましたので。」

一冊の分厚い文書を手渡され、受け取った。

「どうも。」

それだけ御礼を言い、文書の表紙を見つめた。読んだことのない文書だ、ぜひ読んでみたい。文学少女である私の好奇心を震わされた。気づいたらさっきの人は何処かへ消えてしまった。あの人はなんだったのだろうか。疑問に思うことはたくさんあるが、とりあえずこの文書を読んでみよう。おそるおそる表紙を開く。遠くから誰かが呟くような声が聞こえた。


「物語はここからはじまります。」

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