第32話 内偵捜査活動に新たな仲間

 「そうですか。それはいい判断ですね、で」

 「実は…実は、薬を」

 「薬を入れたんですか、ペットボトルに」

 「違う、果林とは無関係だ」

 「では、薬がどうしたんですか」

 「薬を…、薬を匂い袋に…」

 「匂い袋?」

 「ああ、ファンに売りつけている匂袋さ。その袋の中に、薬を混ぜさせ、炙りの方法を見込んだ客に勧めていた」


 刑事たちは別件の犯罪暴露に拍子抜けと成果を同時に味わっていた。


 「そうですか、よく話してくれましたね。では、後は、蒲田刑事にお任せします」

 「はい」


 鳥羽警部は、取り調べ室を出ると、佐々木係長と今後の方針を立てた。


 「あの村井勇太は、果林とは無関係だろうな」

 「そのようですね、裏付けは取るとして…、薬絡みの事件を視野に入れて、捜査を進めてください。内部告発を恐れての犯行と言う線も充分に考えられますから」

 「はい」

 「では、誰が果林さんを手に掛けたのでしょうね。振り出しに戻ってしまいましたねぇ」

 「はい」

 「あっ、これはまだ内密に。警戒される前に証拠を集めてください」

 「早急に対処します。それで、村井の処置はどう致しますか。薬物検査に。現行犯や所持ではないので、スパイとして一旦釈放して、泳がせますか。村井には、あくまで、果林についての任意同行だった、と言い含めて」

 「悪い考えですねぇ、でも、嫌いじゃないですよ。今のままでは本件では、嫌疑不十分ですから。立件出来るまで、監視を怠らないように」

 「はい。取り敢えず、匂い袋の入手を急ぎます。確か、今日ですよ、定期ライブがあるのは」 

 「では、若手数名で新規のファンに成り済まし、匂い袋の証言、情報を集めてください」

 「早速、手配し、潜入捜査を行います」

 「頼みましたよ」

 「はい」


 鳥羽警部同様に鼻つまみ集団の佐々木班は、俄かに慌ただしくなった。


 「鳥羽警部補、村井の鑑識結果がでました」

 「で、どうでしたか」

 「尿からは出ませんでしたが、服と手から微量ですが大麻草の反応が出ました」

 「そうですか、どうも」


 大麻は、覚せい剤への誘い込み窓口の定番。体と頭を害させ、更なる強さを求めさせるもの。当然、村井のような下っ端には教えられていないバックがいるのは間違いなかった。一方、佐々木班は、Cat's-Cat'sのライブ会場に潜入し、千円と三千円の匂い袋を手に入れた。さらに、ファンに匠に話しかけ、情報を得ていた。


 「どうでしたか」

 「はい、村井は、果林の担当のスタッフで、果林からの相談事を受けていたようです」

 「相談内容はわかりますか、足立刑事」

 「はい、果林が何かに悩み、グループを辞めたい、と漏らしていたようです。ですが、その原因は不明です」

 「では、吉村刑事は」

 「はい、果林のファンの何人かが連絡不通になっていることに悩んでいた、と。ただ、現状ではそこまでしか」

 「そうですか、引き続き、ライブに潜入し、友人関係を築き、詳細を聞き出してください。と、言うことですから、佐々木係長、足立、吉村両刑事を潜入捜査に特化させてください」

 「分かりました。頼んだぞ、足立、吉村」

 「はい」


 足立刑事と吉村刑事は、薬物の捜査から一旦離れ、果林の苦悩の解明に力を入れた。

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