人任せ探偵・殊更 慎司ー赤い傘の女

第29話 奇妙なチームの活動

　「言葉と裏腹に態度は、正直だと言うことさ。無意識下で何かの変化を自分の中に見出し、トキメキや期待を抱いている。それを見させてくれるかも知れないツールが君達さ。絢香さんは、自分の欲求の為に君たちに関心がある、君たちの為ではないってことさ」

　「分かるようで、分からないなぁ」

　「心を病んだ者の気持ちは、まともな奴には理解できないものさ、何せ、価値観が違うからな」

　「それを、語る慎司も心が病んでいるって訳ね」

　「否定はしないさ…。でも、俺は、奈落と言う境界線の一歩手前で何とか踏み留まっている」

　「落ちそうになったら、引っ張り戻してやっか」

　「…、ありがとうな」

　「ありがとう？キモ」

　「…続けるぞ」

　「どうぞどうぞ」

　「…傘を回したのは、無意識に取った行動だ。絢香さんの個と共有の人格が分裂し始めている証だ」

　「多重人格？」

　「極端にどちらかに傾けばな。今は個々が独立し、バランスを取っている。他人との関わりに喜びを感じ、共有できるように導けば、孤独感から抜け出せる可能性がある」

　「抜け出せなければ？」

　「欲求の為に躊躇いなく、行動する、猫のようにね。その都度、自分の行動を正当化する為に、都合のいい人格を産み出すだろうな」

　「正常、異常の狭間に絢香さんは、今、立っているってことね」

　「そうだな…、絢香さんの行動、言動から読み取れることは、人に馴染めない、思いが伝わらない苛立ち、閉塞感。なぜ？と言う心の中の葛藤さ。今は、自分のやりたいことを他人に邪魔されず没頭することで無意識にそこから抜け出せる期待を見出している感じがする。その鍵を握るのが君たちだけどね」

　「邪魔への苛立ちか…」

　「絢香さん、藻掻いているんだ。他人を信じられず。目標を失いかけて…」

　いすずは、これからと言うときに怪我をし、目標を諦めなければならなかった辛さ、仲間からの励ましさへ嫌味に聞こえていた過去の自分と重ね合わせていた。

　「君達はCat's-Cat'sのオーディションに行き、着席した途端、不合格を告げられた。不合格にするなら、態々、会場に呼ぶ必要などない。では何故、呼んだのか？」

　「確かに…」

　「強奪さ。人材のね」

　「絢香さんは、私たちの誰ひとり、欠けるのを好まなかった…ってこと？」

　「そう言うこと」

　「でも、何故？」

　「それは、絢香さんの研ぎ澄まされた感…としか俺には、説明できないな」

　「それじゃぁ、私達、絢香さんとどう付き合えばいいか分からないじゃない」

　「強いて言うなら、サイコパスの崖っぷちに立つ絢香さんは、物事を判断するのに、他人の喜怒哀楽、都合を寄せ付けず、自分の欲望だけに特化する。それに寄り添う事だ。媚を売らず、真剣に向き合う純粋さでね」

　「じゃぁ、私達は絢香さんのお人形になるってこと？」

　「従順な下僕になるつもりならね」

　「そんなの嫌だぁ」

　「そうだな。絢香さんの願望を満たすための対立であれば、波風はたつが、いい関係を築けるかもよ」

　「どうすれば、いいのよ。分かるように言ってよ」

　「要するに絢香さんの意見を否定するのではなく、肯定して更なる向上へと導くことさ」

　「そんなこと、私達にできないよ」

　「心配するな、日菜子さんにはできるから」

　「そうなの」