第20話 奇抜過ぎる潜入捜査、開始!

 「もし、毒入りペットボトルを絢香が知っていて、果林に渡したのなら彼女が、犯人。警察が重要参考人で引っ張っているでしょう。まぁ、確証を得るために泳がされているとも考えられるけど…。警察の動きも何か変よね、突っ込みが足りないって言うか執念を感じないって言うか…」

 「そうなの?」


 二人は続きを事務所で行うことにして、小腹を満たすのを優先させた。


 「ただいまぁ~」

 「どうだった、あっ、いや、いいや」

 「何よ?」

 「二人の態度から受かったんだろ」

 「残念、Cat's-Cat'sのオーディションに即刻、落ちましたぁ」

 「そうなのか?」

 「花、慎司さんに心配かけないの」

 「どういうことだ?」

 「Cat's-Cat'sに落ちたけど、赤い傘の女こと綾香さんがプロデュースする新ユニットに合格したのよ」

 「何処まで、運のいい奴らだ。対象者に密接できるなんて」

 「言い方が、何か変よ」

 「それが俺だ」

 「ねぇ、それより私に説明することがない」

 「何だ、花?」

 「慎司と日菜子の関係よ、やけに親しそうだけど…」

 「あっ、やきもちを焼いているでしょう花」

 「そ、そ、そんなこと、ないから」

 「はい、当たり~」

 「花、喰えねぇ餅を焼かずに、喰えるもの何かないか?」

 「残念、ボクたち食べて来たから、お勝手に」

 「日菜子さん、花っていつも俺に塩対応なんだ。お蔭で夏はクーラー要らずさ」

 「はいはい。じゃ、説明すっか。花が家出した時に突然慎司が現れて、花と父親の関係を修復したいって相談を受けたのよ」

 「そうだったの?」

 「そんな昔の事、忘れたな」

 「ハードボイルドってやつ?似合わないわよ慎司さんには、あはははは」

 「悪かったな」

 「態々岡山まで来て、三・四日、粘っていたわね。最初は花の敵、と煙たい存在だったけど、話している内に悪い人じゃないって分かったから協力したのよ」

 「そうだったの?」

 「でも、信じた訳じゃなかったから、花のお父さんの連絡先を聞いたの、協力する条件としてね」

 「うん、まさか…」

 「正解。そうよ、私が花のお父さんに家出先に慎司の事務所を勧めたのよ。そうとも知らないで、花は口喧嘩の挙句、まんまと私たちの作戦に嵌ったってわけ」

 「ボク、嵌められたんだ」

 「大人は、狡賢いの、覚えておくのね、あははははは」

 「くそっ、俺も騙されているじゃないか」

 「慎司もまだまだってことね」

 「まぁ、ここは負けを認めるか。それで、日菜子さんの意見を聞こうか、絢香さんへの疑問は?」


 花は、納得がいかなかった。慎司と日菜子との関係を深堀する雰囲気ではなく、ここは引き下がることにした。

 

 「綾香さんに実際、会って視て、達成感と言うより、眼中にないって感じ。果林さんの事件を知っていたはずなのに…」

 「俺は、チラっと見ただけだから、確信は持てないが、今から殺すという憎悪より、励まし、慰めを感じたね、それで、その場をスルーしたんだ」

 「慎司は、人の心の動きに超敏感。そこが面白いの。よし、一丁協力してみるか、ってなったんだった」

 「…それで、絢香さんへの疑問は?」

 「そうだった、それは…」

 「無駄口を叩いている間に忘れたか?では、俺の憶測だ、思い出したら補足してくれ」

 「そうしてくれる」

 「じゃ、花は兎も角、日菜子さんは、警戒心を解いている。いや、寧ろ、絢香さんの熱意に押されている、感じさえする」

 「花は、兎も角って…、それで」


 花は、疎外感を受け、ムッとするも、こめかみに怒りマークを付けながらも、ここは必死に押し殺した。


 「絢香さんはサイコパスじゃないかと?」

 「サイコパスって、猟奇殺人とかに出てくるやつ」

 「そこまでは、悪化してないまでも、人との感情のズレが本人を苦しめている可能性がある。感動する部分が違う。喜怒哀楽のツボが合わない。社会に溶け込むにも、上手くいかない。友人など出来ない。出来たとすれば、異常者かも。その病の進行に怯えながら、誰にも言えず、理解されず、自分自身と闘っている苦悩を感じるんだ」

 「出ました、他人の体験を吸収して、慎司特有のフィルターに掛け、その対象者を分析する。悔しいけど的を得てるんだよなぁ、その分析」

 「何が悔しんだよ」

 「だってぇー、認めたくないんだもん、認めたくない」


 日菜子が慎司に興味を示し、協力した要因のひとつが披露され、満足げにけなして見せた。


 「勝手に言ってろ」

 「だとすれば、絢香さんは、殺人教唆?」

 「いや、毒入りだと知らなかったのだから、無罪になる。知っていれば、別だがな」

 「う…ん、そうだね。塩対応はあるけど、悪人とか異常者には見えなかったのは、必死さが、ボクたちにも伝わってきたのかも知れないな」

 「そう思うよ、花。熱意や必死さは人を動かすからな」


 日頃のぐ~たらな花の様子を慎司は、皮肉って見せた。すかさず、花は応酬に転じた。


 「慎司には、そのふたつ共、ないものね~」

 「言ってろ。花にも無縁のそのふたつをグループの成長の為に使うんだな」

 「言われなくても、そうしますぅ~」

 「頑張れ~、あっ、済まない、これも無縁か?」


 言い合いに無意味さを感じた花は、聞き流すことにした。


 「…、最初は、興味がなかったけれど、誰かと協力し合って、何かを成し遂げるって、いいかもと、思い始めているんだ」

 「いい傾向だ、是非とも成し遂げてくれ」

 「…、うん、何か、変な方向に進んでいない?」

 「人生とは、そう言うものだ。一歩踏み出せば、未来は、変わるんです」

 「何、人生の達人を気取っているのよ」

 「あはははは。それは、置いといて、警察の捜査はどこまで進んでいるのやら」

 「そうね…、慎司、警察に知り合いとかいないの?需要参考人なんだから」


 花は揶揄われた腹いせも込めて、慎司を追い詰めた。


 「いるわけないだろう。こちとら、ついこの間まで、職務質問も受けたことのない、真当な市民だったんだから」

 「こう言う時、テレビなら都合よく、知り合いの刑事やマスコミ関係者から情報が入るのにね」

 「現実は、そんなことはないさ。俺が名探偵なら、無きにしもあらずだがな」

 「ほんと、開店休業の探偵事務所じゃねぇ~」

 「それは、否定しない」

 「このままなら、どうなるのかな?」

 「重要参考人の俺が言うのも可笑しいが、絢香さんには、マークがついているだろうな。それにしては、動きがないな?今回の事件は、可笑しいことだらけだ」

 「警察は、そんなにバカじゃないでしょ」

 「いやいやいや、馬鹿だよ、馬鹿。事件を早期解決したいが為に、犯人だと決めつけて、尋問、質問してくる。自分たちに都合の悪い発言は無視。誘導もどきの質問で、追い込んでくるからな。経験者は語るだ、よ」

 「事情聴取を受けてから、慎司の警察嫌いに拍車が掛かりまくっているわね」

 「事件の真相なんて、どうでもいいのさ。早期解決できればね。それが奴等の正体さ」 

 「冷静になりなよ、慎司らしくないよ」


 花の挑発に乗る慎司を日菜子が諫めた。


 「ああ、確かに無闇に興奮しているな俺」

 「そうよ、可笑しいよ」

 「多分、多分だが、このままだと絢香さんに、全ての罪を負わせて、The END。

その焦りが、取調体験者の感想だ」

 「慎司の洞察力は、冷静だとエスパー並みだけど、感情的になると一気にちぐはぐになるからねぇ~、傍にいる花がしっかりしないと」

 「な、何でボクが…」

 「花の事は兎も角、事実を言うな、事実を」

 「あははははは」


 膨れっ面する花と見透かされた慎司を横目に、日菜子は、場を愉しんでいた。

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