第18話 奇抜過ぎる潜入捜査、開始!

 「お待たせしました」

 「うん、うん、うん」


 絢香は、腕組みを崩し、右手親指で、チンを撫ぜながら、三人の頭からつま先までを舐め回すように眺めて、ニヤついていた。


 「それじゃ、広瀬いすずさん、一分程度いいので、チアダンスを見せて頂けるかしら…音源はないけど」

 「スマホから音源、とっていいですか」

 「どうぞ」


 いすずは、スマホを操作して、その音楽に合わせて、元気よく演じてみせた。


 「ありがとう、元気を感じられて、良かったわ」

 「ありがとうございます」

 「では、コスプレイヤーのおふたりは、一緒でいいわ。前、左、後ろ、右、前。00、15、30、45そして00分。時計回りに廻って、決めポーズをしてくださる」

 「ねぇ、00、15、30、45そして00分って何?」


と、花は戸惑っていると日菜子が、答えてくれた。


 「自衛隊よ。数字は時計の針」

 「そう言う事か」


 花は、綾香が自衛隊か戦闘ゲームに関わっているのかと推察していた。


 「はい」

 「じゃ、前…、左…、後ろ…、右…、前…」


 綾香の号令を遮るように日菜子が、ある提案をだした。

 

 「あの?」

 「どうした?」

 「良かったら、踊りましょうか、その方が印象に残ると思うので」

 「踊れるの?」

 「いすずさんみたいに切れはないですが」

 「じゃ、お願いするわ」

 「じゃ、私たちも音源を用意させて頂きます」

 「どうぞ」


  日菜子は携帯電話を操作して音源を探した。それを見守る振りをして花は日菜子に近づいて小声で言った。


 「余計な事を」

 「命じられて動くのは嫌。軍隊じゃないんだから」

 「流石に仕切りやの本領発揮ね」

 「見せつけてやるわ」

 「で、何を選曲した?」

 「これよ」

 「虎視眈眈か、このコスにピッタリね。じゃ、やってやりますか」

 「久しぶりで、振りを忘れているんじゃない」

 「バカにしないでよ、じゃ、いくよ」


 花がコスプレを始めた頃、ポージングが苦手ならダンスで補おうと練習していた所に日菜子が参加してきた経緯があった。と言っても、二人で踊れるのは二曲ほど。虎視眈眈は、二人で覚えた最初の思い出の曲だった。


 「はい、お疲れ様」


 綾香は、他人に見せたことがないだろう少女のような笑顔で拍手をしていた。二人はそれを見て、やり切った感満載で綾香に元気よく応えた。


 「ありがとうございました」

 「私の目に狂いはなかったわ。オーディションは合格よ」


 気分を良くした綾香は、自分の思いを興奮に任せて話し始めた。


 「あなた方、三人でグループを組んで貰います。私がやりたかったのは、これよ。今まで、Cat's-Cat'sの卒業生からグループを幾つか作ったけど、全部、ダメだったわ。卒業生だと、ぶりっ子キャラが邪魔していて、面白みに欠けていたの。それに姥捨て山のような扱いをされて、惨めさが付きまとっていたわ。それを何とか脱却したかったのよ。そこへ、あなたたちが現れた。私は、ピーンときたのよ、あなた達に。

このグループは、私の独断で決めたグループ。他の者には、触らせない…。どう、やってみない、私と一緒に」

 「はい」


 広瀬いすずは、直様反応し、承諾した。


 「そこのおふたりは…」


 花と日菜子は、顔を見合わせて、


 「よ、よろしく、お願いしま~す」

 「じゃ、一ヶ月後のCat's-Cat'sのライブの前座で一曲踊ってみて。歌とダンス…、いや、ダンスだけでもいいわ、構成はすべてあなたたちに任せるは、取り敢えず。条件はふたつ。ひとつは、当日は今日の衣装で行うこと。もう一つは、デビューまでは、お金が発生しないから、自己負担になるの、いい」

 「交通費も…ですか?」

 「そうね、日菜子さんは岡山からだったわね、困ったわね」


 花が直ぐに割っては入った。


 「日菜子は、私の家で預かります、それでいいよね日菜子」

 「そうしてくれると、たすかるけど」

 

 勢いで、言ったものの綾香に疑われると花は、心臓が張り裂けそうだった。そこに日菜子が花の頭をポンポンと叩いて、任せろって合図してきた。日菜子は、突然、すみません、と頭を下げて綾香に話し始めた。


 「綾香さん、すいません。私たち知り合いでした。と、言っても、ここであったのは本当に偶然なんです」

 「…、別に構わないわよ。いきなり息の合ったダンスを披露して、今日初めて会った、の方が可笑しいでしょう。でも、これからは何があるか分からないから、隠し事はしないでね」

 「はい、申し訳ございませんでした」

 「はい、この件は、終わり」

 「ありがとうございます」


 日菜子の潔さは、花が欲しかった頼りになるお姉さんを手に入れたような至福の時間だった。



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