第15話 アイドルに何が?

 「ただ今」

 「どうだった、唯一の友人との再会は?」

 「おま…いや、花も似たようなもんだろう。まぁ、ボケ突っ込みみたいなやり取りは、またとして、ほい、これが結果の全てだ」


 と、携帯電話を花に渡した。


 「どうせ、操作ができないんでしょ。で、何が入ってるのこの携帯電話に」

 「匂い袋の成分分析と、試験薬での動画だ」

 「どれどれ、あっ、これね。うふふ」

 「どうしたんだ?」

 「タイトルが、ね」

 「どうした?」

 「データファイルのタイトルが、手土産もなしか、で動画ファイル名が、これは貸しだ、だって」

 「あいつ、まぁ、この案件が解決したら、何か持っていくよ」

 「そうしな、このデータ、何なのボクには分からないよ」

 「ヤクの反応が出てるってことさ」


 花は、聴き終わるのを待たず、動画を再生した。


 「あっ、これ、テレビでみたやつね。警察24時で」

 「ああ」

 「これなら、よく分かるよ」

 「でも、これは微量だから、その先があるはずだって」

 「この匂いに慣らさせ、警戒心を解くんだね」

 「そうだ、奴もそう言っていた」

 「でも、この先は、どう導くのかな」

 「そうだな、流石にSNSでは探りを入れられないからな」

 「どうするの?」

 「そこで、提案があるんだが、のってみないか?」

 「のるって?何にだよ」

 「果林ちゃんのグループが新規加入のメンバーを…」

 「ちょっと、嫌だよ、そんなの」

 「気づくのが速いなぁ、さては、想定内か?」

 「潜入調査が一番だけど、メンバーじゃなく、慎司が、ファンクラブに入ればいいんじゃないか」

 「それは考えたが、警察に連行された俺を奴らが見ていたかも知れない。それに、赤い傘の女、綾小路綾香とは、バッチリ目があっていたからな、ばれれば、こうして花と冗談を言い合うこともなくなるかもな」

 「そ、そ、それは困る…」

 「ありがとうな、花」

 「なんだよ、キモ~イ」

 「で、もう応募しておいた」

 「えっ、何するんだよ、承諾もなく、バカかお前は」

 「あっ、お前って言った、ハイ、罰ゲームです、宜しく」

 「嘘だろ~マジでぇ」

 「マジ」

 「でも、しゃ、写真は、どうしたのよ」

 「これ、使ったよ」


 慎司が、携帯電話に保存してあった写真を見せた。


 「ええ~、こ、これ、使ったの、ウソ~、マジ」

 「俺のお気に入りさ」

 「どうして、この写真を持っているんだよ」

 「花が少女Aになりそうになった時だよ」

 「いつボクが、犯罪者になったんだよ」

 「花が、初めて心を通わす友人が出来た。その友人が実は、コスプレイヤーだった。その友人に誘われるまま、コスプレをしてみた。全く別の自分になる、その楽しさに嵌った。嬉しさからか、その友人と時を忘れて、一週間程を過ごしていた。親御さんが心配して、我が探偵事務所に花の捜索願を依頼してきた」 

 「そんなことあったっけ」

 「それで、花を知っている奴らに片っ端に当たって、花の写真を集めたんだ。その中にこれがあったのさ。ピーンときたね、これ見て。それで、調べたら、ビンゴだったわけ」

 「お陰で親にすっ酷く怒られました~」

 「自業自得だろう」

 「もう、ボクは大人なんだけどなぁ」

 「親からすれば、いつまでも子供は子供さ」

 「それが、息苦しいこともあるの」

 「贅沢いっているぜ」

 「まぁ、ここでバイトするってことで、何とか許して貰ったんだけどね」

 「何故、許すかね、こんな胡散臭い所なのに、ね」

 「フラフラしているより、安心だったんだよ、それだけ」

 「まぁ、俺も何故、承諾したのか、よく覚えていないけどね」

 「その節は、お世話になりました、って、違うだろう」

 「あはははは。このコスプレ、確か…」

 「思い出さなくていいよ」

 「え~と、あれだ…夜が…ほら、咲く…あっ、思い出したぞ、十六夜咲夜だ、そうだ、そうだ」

 「あ~あ」

 「俺、これマジで気に入ってんだ。この花、好きだよぁ」

 「あ…あ…有難う、取り敢えず…」

 「いいよな、この銀髪、コスチューム。こうして見ると、足もスラットして、胸も大きいんだ」


 慎司は、花を舐めるように頭からつま先を見ていた。


 「こら、見るな」

 「ああ、すまない、でも、いいよなぁ」


 花は、慎司の喜びようが、本音では、嬉しかった。


 「まぁ、いいか、どうせ、受かりはしないし。応募用紙にコスプレって、ありえな~い」

 「そうか?俺は、いいと思うよ。だって、メンバーになれば結局、ド派手な衣装を

着るんだから、いいんじゃないか」

 「はいはい。でも、万が一、万が一だよ…受かっちゃったら、どうするんだよ…危なくねぇ」

 「危ないだろうな…」

 「うわ~うわ~、自分の無実を晴らすために、か弱い乙女を生贄にするんだぁ…そうなんだ」

 「こんな時は、こう言えばいいんだよな。俺が、守るからっ、て」

 「HEROのキムタクか」

 「何か似てないか、この角度…ほら」


 慎司は、顔を上下左右させて、似てる部分を探した。


 「目薬なら、あるわよ、貸そうか」


 そんな時に着信メールのお知らせがあった。


 「おい、花…これ、見ろよ、これ」

 「何よ…、えーと…、オーディションに来いって、ウソ~」

 「世の中、ほんと、分からね~よな」

 「え~、マジー」

 「マジです。やるからには、ガンバルンバだ」

 「おやじか…」

 「大丈夫さ。何かあるとすれば、卒業間際のはずだからな」

 「そら、そうだけど…」

 「あれ、追加事項があるぜ。当日、写真と同様の衣装をご持参ください、だって、手元にあるのか?」

 「あるけど、え~」

 「興味を持たれているんだ、これは脈があるかもな」

 「はぁ!」

 「人生何事も経験だ。頑張れ」

 「他人事だと思ってぇ~」


 そして、オーディション当日が、瞬く間にやってきた。

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