第13話 アイドルに何が?
「あっ、久しぶり、元気だったか」
「そっちは、で、何だ」
「相変わらずぶっきら棒だな」
「お互い様だ」
「本題は…、俺、忙しんだ」
「調べて貰いたい物があるんだ」
「何だ?」
「それが分からないから、頼んでいるんだ」
「馬鹿か、お前は、物は何かって聴いてるんだ」
「匂い袋さ」
「そんなもの調べてどうするんだ?」
「ただの匂い袋じゃないかも…」
「やばめの物か?」
「そうだな違法の物かも。もし、そうだったら、迷惑はかけたくないので、好きなように処分してくれ。ただ、データだけはくれよな」
「たまに電話してきたと思ったら、ブラック案件か?」
「済まない、俺の知り合いで、こんな事頼めるのはお前しかいなくてね」
「有難迷惑だな、まぁ、いい、持ってこいよ」
「今からでも大丈夫か?」
「ああ、いいぜ」
慎司は、直様、外出の準備に取り掛かった。
「携帯電話持っているんだから、使ったら?」
「これは、仕事用だ。基本、電話は嫌いだ。携帯電話は、どこに居ようと、相手の都合で、こちらの時間に、土足で踏み込んでくる厄介なものさ、出来れば、関わりたくないんでね」
「勿体ないなぁ、便利なのに」
「俺には、凶器にしか思えないよ」
「で、どこに出かけるの?」
「大学時代の友人で、化学を研究している奴がいて、そいつにこの匂い袋を調べてもらおうと思ってね」
「慎司にそんな頭のいい、知り合いがいるとわ~」
「馬鹿にしすぎじゃね~か、花」
「これは失敬、あっ、帰りにご自慢のBMXを引き取ってきなよ、不法駐輪で持っていかれるよ」
「今から、使うから、ご心配なく」
「あるといいね、BMX」
「ほんと、一言多いよな花は。じゃ~行ってくるは」
「あいよ」
不法駐輪していたBMXは、無事、慎司の元に戻った。チェーンロックを外すと、勢いよく走り出した。重要参考人の慎司は、尾行を警戒し、路地を抜け、所々道なき道を態と見つけ、走った。向かったのは、京都理工科大学。殊更 慎司太郎の母校だ。慎司は、工学部卒業だった。大学には、三十分ほどで到着した。
通い慣れたキャンパスを抜け、慎司は、友人だと称する阿笠徹のいる研究棟に向かった。駐輪場にBMXを手馴れた仕草で停め、先を急いだ。
「伊集院教授の研究室って、言ってたな、どこだぁ、あっ、ここか」
扉をノックして、恐る恐る扉を開けた。初対面の教授がいたらバツが悪いなと思うと、何故か緊張した。
「失礼しま~す」
そこには、身に覚えのある後ろ姿があった。
「久しぶり、元気そうだな。相変わらず、根暗なオーラを醸し出しているな」
「五月蝿い。無駄口を叩かず、物を差し出せ」
「ああ、これだ」
「すぐ、済む、待ってろ」
阿笠は、手術用の手袋や雨合羽の様なビニール製の簡易の防護服に着替え、慎司が差し出した匂い袋をパレットに載せ、ガラス張りの実験室へと消えていった。
何重かの扉の中には、空気清浄機のような部屋があり、外部の埃や異物を寄せ付けてはいけない部屋だった。ガラス越しに部屋の中の様子は、伺えた。阿笠は、肘でボタンを押し扉を開け、慎司に聞いてきた。
「この袋を破るがいいか?」
その部屋の慎司側にランプがついた場所があった。そこへ向けて、「好きなようにしてくれ」と告げた。阿笠は、小さな鋏で袋の布部分を切り裂いた。小袋からの粉末を紙パレットに広げると、耳掻き大の匙でその粉末を掬うと小さなシリンダーに入れた。それを三回程、繰り返していた。取り出した幾つかを遠心分離機にセットし、スイッチを入れた。回転がとまると、そのシリンダーを取り出し、スポイトで少量を吸い出し、別の検査機器に入れた。すると傍らのモニターに幾つかの棒グラフが示された。阿笠は、そのデータを覗き込んでから、確信を得たように小さなビニール袋に入ったカプセルを慎司に見せた。
「これが、何か分かるか。見たことがあるだろう」
「うむ、あっ、思い出した警察24時だ」
「そうだ。お前の疑っていた怪しい物質は、ほぼ間違いなくこれだろうと、試薬キットを用意しておいた。見てろよ、テレビと同じことをするから」
慎司は息を飲んで、その結果を見守っていた。少量の粉をカプセルに入れ、よく振り、カプセルをパっきと折ってみせた。すると、テレビで観たように試験薬は、青に変色した。
「少量だが間違いない、ヤク、覚せい剤だ」
「やっぱり…」
推察はしていたものの、目の当たりにすると体が小刻みに震える恐怖を感じた。
「見た通りだ。これはやばいから、捨てるぞ、いいな」
「ああ、しかしデータはくれよ」
「ああ」
阿笠徹は、粉末と袋の残骸を紙パレットに包み、薬物専用の屑箱に捨てた。続いて、着ていた防護服も手袋も、空気洗浄を終えた後、脱ぎ、専用のダストに捨てた。
捨てた物は、専用の薬品に浸けられ、消毒される仕組みだ。全ての処理を終え、阿笠は、慎司の前に立った。いきなり、阿笠に前に立たれた慎司は、思わず何事かと、後退りした。
「どいてくれるか?」
慎司の後ろには、パソコンがあった。
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