第12話 アイドルに何が?

 「世間の皆さんは、多かれ少なかれ、覚悟を持って、生活しているの。それに比べて慎司は、極楽とんぼよね」

 「左様で御座います。それが嫌で探偵をしています」

 「探偵って、プーたろーと思われるのが嫌だから、適当に言い訳できる職業を選んだだけじゃないの」

 「はっきり、言うな。正解、反論なし」

 「もう少し、真面目に生きたらどうなのよ」

 「花に言われたくないなぁ」

 「慎司をみていたら、ボクは、生き方を反省したくなるよ」

 「おっ、こんな俺でも人の役にたっているじゃないか」

 「はぁ~」

 「でも、枕営業だけじゃ、焼け石に水だろうな資金繰り」

 「そうね、AVって儲かるのかも知れないけど、それ以外に大きな収入源があると思うよ」

 「それが、薬か。しかし、そうなると、何かと厄介だな」

 「そうね。私たちだけでは危険すぎるわね。青い傘の女、果林ちゃんが実際、口封じされたんだから」

 「ああ、厄介だな」


 二人は、途方にくれていた。慎司は、ふと、花のマウスの傍にあった小物に目が止まった。


 「花、それは何かな、俺が出掛ける前にはなかったよなぁ」

 「うん、これ?」

 「ああ」

 「被害者の果林ちゃんに、アドレスを渡した後、あの橋に差し掛かった時のことよ。調査中のグループが、ゲリラ的に握手会を開いていたでしょ。UZAって思ったけど、遠回りするより、いざ出陣って。そしたら、皆が競い合って、これを買っていたんだ。それで、何だかその勢いに流されて、衝動買いしちゃった」

 「衝動買いって…。それでも買うか?で、幾らしたんだ?」

 「1000円さ」

 「高っ。これがか」

 「でも、皆は、3000円の買っていたよ」

 「3000円…、俺には、理解できない世界だな」

 「理解しなくていいよ。これ聞いたらもっと引くからさぁ」

 「もう充分、引いてるよ」

 「で、これは、匂い袋さ。あのアイドルグループは、衣装の色だけでなく、匂いも違うんだ、ローズとかラズベリーとかね。アイドルは、その匂いを手に擦りつけて、握手するんだ。そうすると、他のメンバーと握手できないでしょ。握手すれば匂いが混じって、不愉快になるでしょ。そうやって、他のメンバーとの接触を避けさせ、浮気されないようにしてるんだって」

 「ご苦労なこった」

 「でも、匂い袋って考えたんじゃない。だって、握手会で匂いが付いて、クンクン。薄まれば、匂い袋を手に塗るとか直接嗅ぐとか…。匂い袋の効果がある内は、何度も推しメンのアイドルを嗅覚で楽しめるんだ、ファンには堪んない。3000円の匂い袋は、より濃い匂いがするんだって。だから人気…、あっそうだ、変なことをSNSに投稿していた奴がいたなぁ…。え~と、そうだ、深く吸い込むと、気分がハイになったり、勇気が出るって、それに寝なくても平気になるとか・。でも、その後、ガクって、疲れるみたいなことを、だから、魔法の袋って呼ばれているんだって」

 「それって、やばい薬の症状じゃないのか?」

 「そうなの…、もしそうなら、これを持ってるのってヤバくない、ヤバイよ、ヤバイよ」


 そう言うと、花は、屑箱に匂い袋を捨てた。それを慎司が、拾い上げると


 「花、捨てたよね。捨てたってことは、もう、要らないいてことだよねぇ、じゃーも~らった」

 「慎司、それ使うの?」

 「それもいいかな、って理由ないだろう」

 「なら、どうするのよ?」

 「俺に考えがあるんだ」

 「考えって?」

 「まぁ、任せておけって。取り敢えず、今日は疲れた、寝よう。続きは明日だ」

 「そうね。ボクも今日はここに泊まるよ」

 「何だ、AVを見て、俺を襲う気か?」

 「バカ!もう、寝る。眼が疲れたから」

 「おう、お休み」

 「あいよ」


 珍しく目覚めの良い朝を迎えた慎司は、アナログな電話帳を取り出し、ある所へ、事務所の電話で連絡を取った。慎司の携帯電話には、不届きな迷惑メールは届くものの、その他の連絡は一切ない日々だった。

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