第11話 素晴らしいユートピア

「つまりは、どういうことだ?」


 それでも市長は表情ひとつ変えなかった。

「この街が異常な公共サービスを行えるのは、人々の寿命を天上市……いや、あなたが決めているからだ。生きられるリミットは七十歳。病院では出来るだけ早く患者が深い眠りにつくようにしている。市長、これは犯罪で殺人だぞ!」


 僕が追い詰めた筈の市長は、良く通る声で、自信に溢れた表情をして語りかけてきた。


「年を取り、施設に入れられて、子供にも孫にも会えずに望まぬ長生きをさせられる。末期癌で苦しむだけ苦しんで、医療費はかさみ、看病する家族は疲れ果てる。それがどうだ、ここでは痛め止めは好きなだけ与える。それで寿命が数年は縮まるだろう。だが本人の痛みも、家族の疲労をも減らす事ができるなら、むしろ喜ばしい事だと思うのだがね」


 僕は机を両手で叩いた。


「天上市はユートピアではない。現代の姥捨て山だ。年を経て役に立たなくなったら、破棄される」


 市長は僕の言葉に頷いた。


「姥捨て山か……この地を治める私の一族が守ってきた。賢い者は自分が死ぬことにより、幸せをもたらすと考える。自然で正しい事だとは思わないかね。過度に長寿を授かり若い者を苦しめる世界が、正常と思うのかね?」


「一年前に死んだ僕の恋人は生きたくても生きられなかった。苦しんでもがいて苦痛に泣き僕にしがみつき、僕の為に一分一秒を生きてくれた。人は最後の時まで生きる事を諦めたらいけない! それこそが生きるもの全ての真理の筈だ!」


「確かに……それも真実だろうな」

 市長の答えに、僕は立ち上がった。

「ここの現状を記事にします」

「好きにしたまえ。だが君には死ぬべき時に死ぬ権利を奪う資格と力はないと思うがね」


 天上市長は夕刊を差し出してきた。全国版の大手新聞の夕刊だった。


「今晩、配られる予定のものだよ。二面を見て欲しい」


 市長に即され開いた新聞に写る男の写真。


「この男は病院の帰りに会った!?……この市から抜け出すと言っていた男だ。埠頭で車の操作をミスして海に落ちて死亡? 事故だって? そんな事あるわけない!」



 天上市。そこは、医療、交通、全てに手厚くサポートが受けられ、住民の満足度が日本で最高な街、ユートピアと呼ばれる場所。


「おい、前書きはいいから、荒垣はどうした? 取材結果がないと記事が書けないぞ!」


 編集長は不機嫌そうに、僕、荒垣真一の行方を捜していた。


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ユートピア こうえつ @pancoo

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